第81話 僕らは仲間だ
「話は聞かせてもらったぜ!!」
「ひゃう!?」
ドッバーン! と力強く開け放たれた扉の向こうから、リオンが叫んだ。
突然の訪問にハンナの体が飛び上がる。
「なんとなく察しはついていましたけど、どうしたんですか? モブ男さん」
「友達に新しい友達が増えたら、その人はもう友達! 名付けて友達100人大作戦だっ!!」
「誰と誰が友達なんですか?」
「え? その子と師匠が、友達になったんだろ?」
「そうですけど、僕とモブ男さんって、友達でしたっけ?」
「ひでぇ!」
リオンがガクッと地面に膝を付く。
落ち込む彼を放置して、彼の後ろにこっそり控えていたマギカを紹介する。
「モブ男さんの後ろにいるのがマギカ。キノトグリスまでの道中で出会った仲間だ」
「初めまして、は、ハンナ・カーネルと申しまふゅ!」
ハンナが体をカクカク震わせながら、頭を下げた。
(そんなに緊張しなくても良いのに……)
アルトは苦笑する。
しかしハンナにとってA組は、それほど大きな存在なのだ。
「マギカ。こちらがハンナ。僕の級友だ」
「マキア・エクステート・テロル。マギカでいい」
「は、はひ! …………あ、あの、名が3節あるということは、王族の方でしょうか?」
「そう。けど、正しくは元王族」
「えええ!?」
「うっそぉぉ!?」
アルトとリオンの驚愕が重なった。
「マギカが王族? 本当に?」
「ちょっと聞いてねぇんだけどっ!?」
「言ってない。それに、栗鼠族は衰退した。王の血に、もう力はない」
「そうだったんですね。余計なことを聞いてすみませんでした」
「いい。気にしてない」
いままで、上品だとか浮き世離れしているとか感じたことがあっただけに、アルトの驚愕はそこまででもない。
だが、リオンは相当ショッキングだったのだろう。
『影キャのくせに、キャラクターを盛っただと!?』と意味不明な言葉を呟いている。
(そんなことを呟くと――)
「ぎゃぁぁぁ!」
(ほらね)
頭にマギカのげんこつが落ちて、リオンがゴロゴロ転がり悶絶した。
「あの……、王族の方がボクなんかと友達になっていただけるんですか?」
「ん。そのつもり」
ハンナが手を差し出すと、マギカはごく自然な動作でその手を握りしめた。
「それと、『ボクなんか』なんて言っちゃ駄目。価値がない人はいない。自分は世界でたった一つ。誰だって、等しく大切」
「は、はい。気をつけます」
「……といったところで、自己紹介は以上――」
「――ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁぁ!!」
(ああ……。五月蠅いのが過剰反応してる)
手を前に差し出して、テンテンテンテン! と片足ステップを踏んで近寄ってくる不審者――もといリオン。
「俺の紹介がまだだろ!」
「モブ男さんを紹介? …………どうして?」
「俺も師匠の仲間だろ」
「ナカマ……」
「そこでどうしてカタコトになるんだよ。ま、いいぜ。そっちがその気なら、勝手に自己紹介すっから!!」
さすがはリオン、冷遇されても気にしない。
(そこが痺れる憧れ――いや、憧れないな)
「俺はアルトの頼れる相棒!! いや、むしろ戦友だな!! 邪悪な魔王を倒すため、この世に生を受けた希代の勇者! まさに英雄!! 初めは弱かったけれど、愛と勇気で魔物をなぎ倒し、ついにはドラゴンスレイヤーにまで成長した生ける伝説!! 神の加護を与えられた究極の存在!! しかぁし! その本当の姿は、ある国の王子様(だったらいいな)だ!!」
「誰それ? そんな人いたっけ?」
「いない。知らない」
アルトとマギカが否定するも、リオンは気にせずポージング。
剣を高らかに突き上げて、叫ぶ。
「それが俺! リオン・フォン・ドラゴンナイトだ!!」
「……マギカ」
「了解」
「あんぎゃぁぁぁぁぁ――ぐぶふぅぅぶ――んごっ!!」
アルトが短く指示すると、それを十全に汲み取ったマギカがリオンを放り投げた。
投げられたリオンは顔面から落下して、ずずぃーと滑って壁に激突した。
「悪は滅びた」
まるで生ゴミでも掴んだかのように、マギカが手をはらった。
「モブの人は消え去った。それじゃあ訓練しようか」
「だぁぁぁ!! なんで俺だけこんな扱いなんだよ? おかしくないか!?」
「雑な扱いをされたくなかったら、真面目に自己紹介してくださいよ。百歩譲って、名前くらいは口にしても許してあげますから」
「百歩譲っても許容範囲狭っ! せめて原稿用紙2枚分くらいは自己紹介したいんだが?」
「無駄という言葉をご存じですか?」
「無駄ってなんだよ? 俺は師匠よりもずっと長生きしてんだぜ? そんな俺の人生を語ろうとしたら、原稿用紙400枚じゃ足りないくらいだ。それを2枚にしてやろうっていうんだから、俺の慈悲にむせび泣き――」
「マギカ」
「うぃ」
「ごごご、ごめんなさい! 調子に乗りすぎました!! だから痛いのは嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
再び放り投げられたリオンが、壁に激突して沈黙した。
「……あの、そんなに乱暴したら怪我しちゃいますよ」
「大丈夫大丈夫。アレはまともじゃないから」
「それ、アルトが言う?」
マギカが白い目でアルトを睨んだ。
む、やぶ蛇だったか。
「体力が尋常じゃないんだよ。というか……わかるでしょ? ああしないと止まらないことは」
「う、うん。すごい人だね……。あ、でもあの人、アルトさんのことを師匠って」
「そう。アレでも弟子なんだよ。昔は魔物一匹倒せない、ただ堅いだけの存在――いや、ただの馬鹿だったんだけど、それがぐんぐん成長して、いまはドラゴンの攻撃にも耐えられる馬鹿になった」
(……ん、あれ?)
(これは成長してるって言っていいのかな?)
「まあ、馬鹿でも成長はするから、ハンナは心配しないで!」
「う、うん。それで、あの人は……」
衝撃からまだ立ち直れずに涙目で頭をさするリオンに、ハンナは目をやった。
アルトははぁ……とため息を漏らした。
「リオン。あんなのでも、僕らの仲間だ」
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