第66話 ヌメヌメ、カピカピ

 強い寒気にアルトの意識が覚醒した。

 森の闇と空の濃紺、そして輝く星々。

 どれほど意識を失っていたかはわからないが、まだ夜は明けていない。


 ルゥが頑張ってくれたのだろう。アルトたち三人を覆うように焦げた毛布が巻き付けられている。


 辺りは冬特有のシンとした空気に満ちている。まるで雪が降る前のように静かだ。

 低い気温のせいで体が小刻みに震えている。

 ルゥが持って来た毛布が無ければ危なかった。


 アルトは〈ヒート〉で空間を暖める。

 空気が暖まっても、外気に冷やされすぐに温度が下がる。


 かなりマナの効率が悪い。

 それでもやらないよりはマシだ。


 夜露に濡れた木々を乾燥させて火を焚く……そんな手間をかけられるほど、今のアルトは万全ではなかった。


 レベル60になってからは、レベルアップ酔いをほとんど感じなかった。

 だから、完全に油断していた。


 キノトグリスの迷宮で数万匹倒しても、ほとんどレベルが上がらなくなっていたというのに、劣等種ドラゴンを倒しただけで酔うほど上がるなど、想像できなかった。


(どれくらい上がったかな)


 アルトはマギカやリオンを起こさぬようにステータスを表示する。



【名前】アルト 【Lv】70→78 【存在力】☆

【職業】作業員 【天賦】創造    【Pt】1→2

【筋力】560→624       【体力】392→437

【敏捷】280→312(+150)  【魔力】2240→2496(+100)

【精神力】1960→2184(+50)【知力】1005→1120


【パッシブ】

・身体操作50/100    ・体力回復49→50/100

・魔力操作67→68/100 ・魔力回復62→63/100

・剣術49/100      ・体術32/100

・気配遮断21/100    ・気配察知43/100

・回避51/100      ・空腹耐性56/100

・重耐性49→51/100  ・工作61→65/100

【アクティブ】

・熱魔術47/100     ・水魔術46/100

・風魔術44/100     ・土魔術45/100

・忍び足16/100     ・解体4→7/100

・鑑定 31/100

【天賦スキル】

・グレイブLv3       ・ハックLv2



「…………えっ」


 予想してない数値に、アルトは目を瞬かせた。

 再度ステータスを確認する。

 しかし、見間違いではない。


「まさか7つもレベルが上がるなんて……」


 レベル60を過ぎてから、3ヶ月間魔物を狩り続けて1つ。

 65からは半年に1つという具合に、レベルが上がり難くなっていた。


 前世も含めると、レベル60を超えてからレベルアップ酔いに罹った経験はない。

 アルトが倒せる魔物を一度に、それも大量に倒したところで、そうそうレベルは上がらなくなる。

 それがレベル60を超えた世界なのだ。


 にも拘わらず、今回7つもレベルが上がった。

 これにアルトは、心底驚いた。


「まさか、本物のドラゴンだったのかな?」


 これほどレベルが上がったのだ。

 レッサーではなく、原典(オリジナル)だった可能性が高い。


(けど、僕が前世で見たドラゴンは、もっと大きかったし、喋ってたんだよなあ)


 アルトが前世でドラゴンを見たのは、とあるダンジョンの最深部だった。

 そのドラゴンの体躯は10メートル以上あり、フォルテルニア語も流暢に操っていた。


(うーん。逆にあのドラゴンが特別だったのかな?)


 その可能性もある。

 いずれにせよ、ドラゴンは非常に珍しい魔物だ。

 総数が圧倒的に少なく、情報もあまりない。

 このドラゴンが、原典か劣等種かを明らかにするのは難しいだろう。


 さておき、ドラゴンを倒して、大幅にレベルが上がった。


(これで、決戦への不安が少しはやわらいだ……かな?)


 レベル78ともなると、人類で最もレベルが高いと言って過言ではない。

 だが、レベルはいくらあっても足りることはない。


 レベルの高さなど、存在力によってあっさりひっくり返されてしまうのだから。


 これからも、アルトは力を研ぎ澄まし続けなければならない。


 相手はユーフォニア12将だ。

 彼と戦うまで、そして倒すまで、

 どれほど強くなったとしても、『絶対』はないのだから。




 空が明けると、ようやくマギカとリオンが目を覚ました。

 彼らが目を覚ましたことでお守りをする必要もなくなった。〈ヒート〉での保温を止め、アルトは地面に斃れたドラゴンを眺める。


「なあ師匠、これで俺はドラゴンスレイヤーを名乗っていいんだよな!?」


 ヌメヌメがカピカピになったリオンが歓喜の声を上げる。


(うわぁ)

(僕昨日、こんなのを腕に抱えて寝ちゃったんだぁ……)


「はあ……」

「どうだ? 勇者らしい勇者になって来たと思わないか!?」

「朝からうるさい」

「ア゛ダッ!」


 まだ眼が寝ぼけているマギカが、リオンに拳を見舞った。

 ズザーッと地面を転がるリオン。


 哀れ、ヌメヌメカピカピだったところに、砂が追加されたのだった。

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