三章 運命の闘い
第51話 おじゅけん1
ユーフォニア王国の首都ユーフォニアは、人口300万人と、フォルテルニアの中でも屈指の大きさを誇る。
第1都心部は政治の中枢的建物が並び、そこを囲うように上級貴族の別邸が並ぶ。
第1都心部から外側に向けて第2・第3都心部(平民区)があり、一番外側の巨大壁で都心が終わる。壁を挟んだ向こう側からは副都となり、どこまでも田畑が広がる。
首都ユーフォニアの郊外の中に入るまで、キノトグリスから全力で走って5日。そこからさらに移動すること3日で、ユーフォニアの中心街が見えてきた。
「つーかーれーたー!!」
先ほどからストーカーヴァンパイアがそればかりを口にしている。
彼の体力は尋常ではない。移動くらいで疲れる体ではないはずだ。
しかし、ユーフォニアへの旅路は代わり映えのない風景と、魔物が一切現われない平穏な街道がひたすらまっすぐ続いている。
これではメンタルが先に疲れてしまう。
飽きる気持ちは分からなくもない。
アルトだって、すっかり移動に飽きてしまっていた。
他にやることがないので、仕方なく自分に〈重魔術〉をかけながら、頭の上で属性付きの蝶を生み出して《魔術操作》と各種魔術の練度上げをしつつ、〈忍び足〉をしながらステップを踏んで《身体操作》を上げ、常時〈グレイブ〉と〈ハック〉を展開し続けている。
「……変態」
「さすが師匠。存在が気持ち悪い」
マギカとリオンが、まるで手に負えない重症患者を診る医者のような目つきでアルトを眺めている。
心なしか、アルトと二人の距離が開いたようだ。
しかしアルトは二人の言葉を無視し、熟練上げに勤しむのだった。
南門での審査を終えて首都内部に入り込んだとき、眠そうだったリオンの目が一気に輝いた。
「んんん!! この街、実に勇者らしいぜ!」
「勇者らしいって……」
「なんだよその目は」
「いえ、別に」
「ん、そうか。ならいいや。師匠、金を出せ」
「あなたは強盗ですか?」
話に脈絡がない。
一体どういうつもりなのか。
アルトが訝しげに見つめるなか、リオンが自信ありげに腕を組む。
「折角都会に来たんだぜ? 都会に来たら、まずはショッピングだろ!」
「…………」
なにか反論しようと口を開いたが、アルトの口から否定の言葉が出て来ない。
リオンの気持ちはよく分かる。
前世のアルトも、ユーフォニアに来たときはすぐに武具店に飛び込み、陳列された武具を見て目を輝かせたものだった。
「モブ男さん。お買い物は自分のお金でするものですよ」
「俺は好きで素寒貧なんじゃねぇよ! これは……あれよ……」
「懲戒解雇。キノトグリス追放。一文無し。……っぷ」
「ぐはっ!」
マギカの一撃。リオンに効果抜群だ。
それはともかく、
「ひとまず、僕は宿を取りにいきます。リオンさんがお店を巡りたいのであれば、ご自由にどうぞ。ただしお金は貸しませんからね」
「けちぶー。ま、仕方ねぇな。おとなしくウインドウショッピングで冷やかすか」
「それじゃあ、ここでお別れですね。さようなら」
「了解、宿探しだな! 俺に任せろ! こう見えて宿探しの名人なんだぜ!!」
くるっと一気に方針転換をして、リオンがアルトにすいっと近づいた。
変わり身が早い。
(こう見えてって、一応自覚はあるのか……)
厳しい視線を向けると、勇者は言い訳をするように顎を持ち上げる。
「ギルドでいろんな部署を経験したから、各街の情報が頭の中に入ってるんだよ」
理屈はわかるが、リオンが言うと一気に胡散臭くなる。
これも日頃の行いのせいだ。
疑惑の視線を一身に受けながらも、しかし大方の予想に反してリオンはまともな宿を見つけた。
風呂付き食事付き格安。
おまけに宮廷学校近くの物件と来た。
彼はアルトの注文のほとんどをクリアしてみせたのだった。
(仕方ない……)
この働きに免じて、宿代くらいは出してあげることにする。
そもそもここで放り出したら、なにをしでかすかわかったものではない。
一騒動を起こした挙げ句、檻の中でアルトの名前を喚かれる。
そんな未来が簡単に予測できるため、首に縄を付けておく必要がある。
(厄介な人と繋がっちゃったなあ……はぁ)
宿では一人部屋を三部屋、7ヶ月間借り上げた。
お金の支払いを終え自分の部屋に入ったアルトはまず、窓を開け放った。
「一つ疑問に思ったんだけどよ――」
「僕の部屋に断りなしで入ってこないでもらえますか?」
「いいだろ別に。男同士なんだし」
気配は感じていたので驚かなかったが、さすがに失礼だ。
アルトが釘を刺すが、リオンは我関せずと言った風に気軽な足取りで窓に近づいた。
「で、なんで宮廷学校の近くの宿を取ったんだ? ここじゃない場所なら、もう少し良い部屋があったんだぜ?」
「モブ男さんには言ってませんでしたっけ?」
「リオンだっての。で? なにをするつもりだ? 女学生を覗き?」
「しません。というか、あなたは僕のことをなんだと思ってるんですか?」
「男ってそういうもんだろ?」
「否定はしませんけど、興味ありません」
「おまえ……男が好きだったのか……ッ!」
「なわけないでしょっ!」
リオンがなまめかしく身を捩る。
彼のとんでもない勘違いに、アルトは頭をかきむしった。
「今回この宿を取ったのは、来年の1月に入試を受けるためです」
「来年の1月って、1ヶ月後か。んっ、入試? 宮廷学校に入学するのか?」
「はい。それが今のところの僕の目標です」
なにを思ったのか、リオンがまるで幽霊でも見たような目つきになった。
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