第46話 練習の成果
シャドウストーカー相手に、リオンは苦戦する。
(こんな武器で戦う勇者なんているか!?)
非常に情けなかった。
けれどアルトの言葉の意味はわかる。
リオンは日常的に素振りをしているので、剣の扱いには慣れている。
なのに攻撃が当たらないのは、リオンに魔物を切るイメージがないせいだ。
リオンは一時間、みっちりシャドウストーカーを相手に攻撃をし続けた。
すると遂に、ハリセンがパシィィン! と大きな音を立てた。
「っしゃぁぁぁ――あんぎゃぁぁぁ!!」
音が出たことに喜び、ガッツポーズを取った隙に、ガブガブ噛まれてしまった。
見かねたアルトに助けられて、リオンは窮地を脱出する。
「油断しないでくださいね」
「お、おう……。すまん」
「それで、タイミングは掴めましたか?」
「ああ。たぶん、な」
リオンはハリセンを見つめながら頷いた。
シャドウストーカーが襲いかかってきた時、リオンは『このタイミングで横にずれて、ハリセンを叩き込めば面白そうだ』と直感した。
これこそが、アルトが言っていた魔物の隙だったのだ。
今までは魔物を斬ろうとして、無駄に力んでいた。
けれど力を入れずとも、タイミングを合せれば、攻撃は自然と当たるのだ。
それに気付いてからは、早かった。
一度攻撃に成功してからさらに三十分。みっちりシャドウストーカーと組み合った結果、攻撃する毎にハリセンが大きな音を立てるようになった。
もう100発100中である。
「モブ男さん。そろそろこれを使ってみてください」
「お、おう」
アルトから放り投げられた長剣を慌てて掴み取った。
作って貰ったハリセンは折角なので、しっかりベルトに差し込んでおく。
使うことはないだろうが、念願の魔剣だ。
もったいなくて、手放せない。
長剣を握って、リオンははっとした。
長剣の束とハリセンの束の握りが、まったく同じだったのだ。
それだけじゃない。重量も同じだ。
見た目は全然違うのに、振った感覚も同じときている。
「師匠。ハリセンに力入れすぎじゃね?」
彼のなにがそこまでさせるのか。
ハリセンに並々ならぬ哲学でもあるのかもしれない。
それはさておき、今度は本物の長剣で攻撃だ。
ハリセンと、重量はまったく同じ。
なのに、違う。
(…………これが、攻撃の重み)
(命を奪う、重みなんだ)
ただハリセンを振り続けただけなのに、今まで見えてなかったものが、見えて来た。
それは、とても不思議な感覚だった。
これから命を奪おうというのに、リオンは感動していた。
千余年の間知り得なかったこの重みを、ようやく知れたことに。
そうして、間違いなく勇者として階段を一段昇っただろうことに。
それはまだまだ初歩の初歩。
長い階段の1段目だ。
けれどリオンは千年以上かかって、やっと1段目に乗ることができたのだ。
「せい!」
初手は若干刃が立たず、受け流されてしまった。
だがリオンは焦らなかった。
やっていることは1つしか変らない。
基本は同じ。
ハリセンと同じタイミングで腕を振れば良い。
正しく攻撃出来れば、音が鳴る代わりに魔物が死ぬ。
それだけだ。
「はっ!!」
飛び込んできた魔物の攻撃を躱し、その顔面に長剣を添える。
リオンの感覚では、剣を振り抜くというよりも、ただ前に剣を置いたにすぎない。
だがただそれだけの行動で、シャドウストーカーが頭から尻までを水平に真っ二つになった。
「おめでとうございます。モブ男さん」
「あ、ありがとう」
リオンがハリセンで戦い始めてからここまで、2時間かかった。
いままでのアルトならば、『2時間もかかったか』と嘆いたはずだ。
だが、いまは違う。
『たった2時間で終わってしまった』と、関心していた。
魔物を倒したリオンが、すとんと腰を落とした。
顔を青白くさせて、体を震わせる。
これは、レベルアップ酔いではない。
彼は人生で初めて、自分の意思で命を奪った恐怖を味わっているのだ。
これを感じなければ人ではない。
人は生きている限り、必ず他の生命を奪う。
他の命を奪っている事実から目を背けずに、奪った命の重みを知って、初めて人は人たり得るのだ。
この日、この時。
リオンの第二の人生が、初めてスタートしたのだった。
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