第47話 重魔術

 アルトは魔石の売却と食料の買い出し、宿料金の支払いをする以外は、ほぼすべての時間を迷宮の中で過ごした。


 リオンには、全時間を迷宮で過ごしてもらうことにした。

 彼が動き回ると、何故か魔物が集まってくるからだ。そしてガブガブ噛みつかれる。

 経験のおいしい魔物ならいざ知らず、雑魚に群がられても邪魔でしかない。


 まるまる1か月間、アルトはリオンの修行に付き合った。


 地上に戻ると宿でぐっすりと眠り、衣類や消耗品を買い足し、3日後に再び迷宮に潜った。

 次はアルト一人で潜るつもりだったのだが、リオンが再びこっそりついてきてしまった。


「頼む師匠! 魔物を一匹、俺に回してくれればいいから!!」

「いや、モブ男さんはもう一人で戦えますよね? なんで付いてくるんですか……」

「なんかよくわかんないけど、一人で潜るとまだ駄目なんだよ。昨日も潜ったけど、調子が上がらないっていうか……」

「気のせいじゃないですか?」

「ち、違うから! 本当だから!」


 ここ1ヶ月で、リオンのレベルはかなり上昇した。体はヴァンパイアだし、☆4であるためステータスが恐ろしく高い。

 今やアルトは、彼を撒いて逃げることが出来なくなってしまった。


 言い合っても平行線。逃げようとしても、逃げ切れない。

 ほとんど呪いみたいな男である。


(一人でレベリングしたかったんだけどなあ……)


 捕まってしまった以上は仕方ない。今月もまた、二人での狩りとなった。



【名前】リオン 【Lv】29→37 【存在力】☆☆☆☆

【職業】勇者  【天賦】王道

【筋力】742→947  【体力】3271→4174

【敏捷】371→474  【魔力】464→592

【精神力】2784→3552【知力】78→100



 リオンの体力は化け物だ。上がり方が尋常じゃない。

 数値を聞く度に、☆1がどれほど劣っているかを実感する。



【名前】アルト 【Lv】41→48 【存在力】☆

【職業】作業員 【天賦】創造    【Pt】0

【筋力】328→384    【体力】230→269

【敏捷】164→192(+10)【魔力】1312→1536

【精神力】1148→1344 【知力】589→689



 ☆1が俗に劣等者と呼ばれる理由を、まざまざと見せつけられる。

 自分の存在力のあまりの軽さに泣きたくなる。


 しかし、戦闘能力はレベルだけじゃない。

 スキルもまた、戦闘能力に拘る重要な項目だ。


 ステータスがあまり上がらないのは前世で実感済みだ。

 だからこそ、アルトは熟練上げに力を入れていた。

 ☆1の寄る辺は、そこしかない。


 さておき、先月はリオンのレベリングがメインだった。

 その間、どうやって自分を鍛えるか、アルトは頭を悩ませた。


 悩んだ結果、〈重魔術〉という新たな魔術を開発した。


 それはただの偶然だった。

〈工作〉スキルの新たな使い方を試していた時に、『あれ? なんかこれ〈重魔術〉っぽくない?』と気づき、試行錯誤したところ〈重魔術〉が覚えられた。


〈重魔術〉は遺失魔術だ。そのため、文献や記録が非常に少ない。

 アルトは前世で情報を入手していたが、最後まで覚えられなかった。


 それを、偶然にも修得出来たのは幸運だった。

 これを使えば、鍛錬が捗る可能性がある。


 ただ、『もしかしたら、立ってるだけで筋トレになるかも!』などと、〈重魔術〉をお手軽魔術だと考えてしまったのだが、これは誤りだった。


 何も考えずに自分に使ったところ、途端に足からミシミシと嫌な音が鳴った。

 1秒で魔術を停止していなければ、足の骨が全損していたところだった。


 気を取り直して、アルトは慎重に魔力を込める。

 初めはおおよそ1割の出力で加重した。

 1割に慣れると、2割で加重した。


 たった2割の出力でも、アルトの体重が2倍になるほどだった。

 恐るべき威力の魔術である。


 町に出て買い出しをして現地に戻る。その間、アルトは〈重魔術〉を使い続けた。

〈重魔術〉をかけながら、50階以上階段を上り下りするのは、死ぬほど厳しい鍛錬だった。

 途中で、何度魔術を解除しようと思ったかわからない。


 このトレーニングのおかげで、アルトは《重耐性》を獲得した。

 魔術の熟練上げをすると、耐性の熟練も上がる。

 まさに一石二鳥。熟練上げがより捗るようになった。


 レベルが上がり、《工作》の練度も上がったところで、アルトは狩り場を70階に移した。


 ここから1か月。

 遅れた分を取り戻すため、地獄の狩りが始まる――。

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