第45話 新たな魔剣

 アルトはまず、リオンの骨子をヴァンパイア剣士として決めた。

 職業をヴァンパイアとし、その上で剣術の熟練を上げて行く。


 剣術を選んだのは単に彼が『最も勇者っぽいから』という理由に過ぎない。

 剣術への適正はないが、少なくとも本人の熱量は高い。


 何事も、上達するには熱意が肝心だ。


 嫌々訓練を行えば、いくら才能があっても練度は上がりにくくなる。

 熱意を持って訓練を行えるのなら、無才でもある一定の練度に達する。


 なので、ヴァンパイアで剣士をやればいいんじゃないか? とアルトは考えた。


 ただやはり、レオンの攻撃はほとんど魔物に当たらない。

 まだリオンがヴァンパイアの肉体を使いこなせていないせいだ。


 ここで普通に剣術を教えても、先ほどの二の舞になるだけだ。

 また、失敗した方法で指導を続けても、芸がないし時間の無駄だ。


 そこで、アルトは一つひねりを加えることにした。


(理論が駄目なら、センスで攻めれば良い)


 人間は、二種類に分類出来る。

 理論で実践するタイプか、センスで実践するタイプかだ。


 アルトは前者。リオンは後者だ。

 なのでアルトは、リオンのセンスを活かすべく動き出す。


 アルトは鞄から、メモ用紙にしている竹紙を取り出して、蛇腹に折った。

 それに《工作》で刻印を行い、耐久性を向上させる。


「…………なに遊んでんだよ?」

「遊んでいませんよ。モブ男さんの魔剣を作ってました」

「それのどこが魔剣なんだよ。どう見てもハリセンだろ」


 リオンの突っ込みは最もだ。

 アルトが製作したものは、どこからどう見てもハリセンである。

 だがそれは見た目だけだ。


「これ長剣ですよ? しかも僕が全力で製作した魔剣です」

「嘘だろ!?」


 念のために、アルトは作った魔剣を鑑定する。


【商品名】勇者のハリセン 【種類】長剣

【ランク】☆2 【品質】A


 アルトが今世において製作した武具の中で、最高の出来映えだった。

 たかがハリセンごときにはもったいない性能である。


 まず種類だが、どう見てもハリセンなのに鑑定では長剣と出る。これは術式により擬似的な刃を生み出しているためだ。

 この刃が正しく敵に当たると、良い音が鳴る。


 おまけ機能で硬直(スタン)機能を入れたが、期待するほど硬直しないはずだ。素材が低級の竹紙なので、効果が薄いのだ。


 それでもスタン確率は100%。

 殺傷能力ゼロなのに追加効果がえげつない。

 ハリセンは、アルトのロマンがたっぷり詰まった一品だった。


「なんでハリセンなんかにしたんだよ?」

「モブ男さんは剣そのものの扱いは良いのに、何故か魔物相手だとガタガタになっています。たぶんですけど、剣を魔物に当てるという行為そのものになんらかの精神的な壁があるんじゃないかと。

 作るなら棍棒でも良かったんですけど、勇者に棍棒はさすがに合いませんからね。長剣ということにさせていただきました」

「はあ……。よくわからないけど、ありがとう?」

「いえいえ。とにかくこれを使ってしばらく戦ってみてください。戦ってるうちに別の魔物が現れたら僕が処理します。気にせず、目の前の敵に集中してください」

「あいよ」


 リオンがしぶしぶ、ハリセンを握りしめてシャドウストーカーに対峙した。


 何度かハリセンで攻撃するも、良い音が鳴らない。

 攻撃を当てようとして、無理に速く動こうとしているせいだ。


 リオンはステータスが非常に高い。

 速く動こうとせずとも、既に速いのだ。


 速く動けば、それだけ手元が狂ってしまうし、タイミングだってずれてしまう。


「モブ男さん。無理に当てにいっても当たりませんよ」

「そんなこと言っても、これ、ハリセンなんだぜ? 上手く当たるも当たらないもねぇだろ」

「モブ男さん。思い出してください。アナタがいままで踏んできた……ドジを!」

「戦闘中になにを思い出させるつもりなんだよ!?」


 シャドウストーカーの攻撃を盾で凌ぎながら、リオンが吠えた。

 この辺りの敵の速度に、目と体が追いついたようだ。


「いままで窓から落ちたり飛ばされたり、窓を閉められたり、さんざんな目に遭ってきたモブ男さんですが――」

「それ師匠たちがやったことよだよな!? 俺のドジが原因じゃないだろ!」

「どんな時に攻撃を食らっていましたか? どんな時の攻撃が一番心が折れましたか?」

「師匠は俺の心を折りに来てるんだな? そうなんだな!?」

「いいえ。その体で掴んでいるタイミングを思い出すんです! そうして自分と魔物を重ねるんです。ハリセンで叩かれたらビックリするだろうなぁ、というタイミングに!」


 リオンは受け役(ボケ)だ。

 なのでツッコミ――攻撃は得意ではない。


 しかし、攻撃さ(つっこま)れる最高のタイミングならば、彼は体で覚えているはずだ。

 ならば過去に突っ込まれ続けたその経験(タイミング)を再現すれば良い。


 タイミングとは、即ち隙である。

 アルトとマギカは、さんざんリオンをしばき――もといツッコんで来た。

 キノトグリスの中で、これほど絶妙な隙を突ける人物など、そうそういないはずだ。


 彼は最高の攻撃を受けた。

 だからあとは、アルトやマギカの攻撃のタイミングを、思い出すだけで良い。

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