第41話 弱いヴァンプの育て方
リオンを育てるにあたり、アルトはまず本人からステータスを聞き出した。
本来ならハラスメント行為だが、この情報があれば育成計画を立て易い。
幸いなことに、彼はスキルボードを持っている。
強みや弱点を把握した上で、トレーニングメニューが作成出来る。
【名前】リオン 【Lv】29 【存在力】☆☆☆☆
【職業】勇者 【天賦】王道
【筋力】742 【体力】3271
【敏捷】371 【魔力】464
【精神力】2784【知力】78
【パッシブ】
・身体操作15/100 ・体力回復MAX
・剣術11/100 ・盾術5/100
・気配遮断26/100 ・気配察知11/100
・苦痛耐性MAX ・牙耐性MAX
・斬撃耐性MAX ・刺突耐性MAX
・爪耐性MAX ・殴打耐性MAX
【アクティブ】
・ヴァンプ1/100
初めに存在力を聞いたとき、アルトは声が出る程驚いた。
☆4は、人間の中で一番高い存在力だ。
この存在力の高低によって、レベルアップ時の恩恵が増減する。
彼のステータスがアルトよりも高いのは、この存在力のおかげだ。
(それにしても、なんでリオンさんが☆4なんだ……)
自分のスキルボードに映る、☆1が恨めしい。
また体力や精神力が他と比べてずば抜けているのは、ヴァンパイアという種族特性によるものだ。
【名前】アルト 【Lv】41 【存在力】☆
【職業】作業員 【天賦】創造
【筋力】328 【体力】230
【敏捷】164(+10)【魔力】1312
【精神力】1148 【知力】589
アルトはリオンよりも、遥かにレベルが高い。
しかし平均ステータスが完敗している。
(羨ましい……)
リオンのステータスを聞くと、ため息しか出て来ないアルトであった。
ステータスを聞き終えたアルトは、彼が犯している間違いにすぐに気がついた。
「何故モブ男さんは〈ヴァンプ〉を上げないんですか?」
「だって、勇者っぽくないだろ」
「ぽいとかぽくないとか関係ないですから……」
今日は朝から、ずっと頭が痛い。
アルトは指先でこめかみを強く押す。
「いいですか、モブ男さん。まず人には必ず天職が存在します。ギルドでは初心者講習をやってますけど、天職について耳にしたことはありませんか?」
「んー。初心者講習を受けたことはあるが、もう100年以上前だからな。覚えてねぇや」
「…………ちなみに、実年齢は?」
「1701歳だ!」
腰に手を当てて胸を張る。
年齢を口にしたのに堂々としているのはつまり、
『1701歳だけど若々しいだろ? どうだ、羨ましいだろ(ドヤァァァ)』
こういうことだ。
女性を敵に回しそうな態度である。
「……よくいままでギルドの女性に刺されませんでしたね」
「刺されても死なないからな!」
刺された経験があるらしい。
人間が怖いのか、それともリオンの鈍感さが怖いのかよくわからない。
(そういえば、リオンさんは刺突耐性もカンストしてたっけ……)
彼が過去に、何度刺されたのかは考えないようにする。
「まず天職というのは、ステータス欄にある職業のことではありません」
「えっ、違うのか?」
「職業は、あくまで『適職』です。天職とは、天賦に関連する職業のことです。
天職は、関連するスキルの習熟度がより上がりやすい傾向があります。これはスキルボードには表示されません。実際に熟練度を上げてみて、習熟しやすいものを自分で探すしかありませんね」
「面倒くさ」
「いきなりそれですか……。このまま帰って頂いてもよろしいのですよ? 僕はあなたに戦闘を教えたいわけじゃないので」
「まま、待ってくれ! 俺、頑張るから、頑張って働くから見捨てないでぇ!」
まるでアルトが悪者になったかのような台詞である。
がっくり肩を落としたアルトは、数秒掛けて気持ちを持ち直す。
「はあ……。まず、剣術を上げてるようですが、これに理由はありますか?」
「勇者っぽいから」
「ですよねぇ」
そう言うと思った。
「では11で止まっている理由は?」
「50年かかってもここまでしか上がらなかったのよ」
「ご……」
これまでの行動を見るに、彼は戦闘が得意ではない。
そのため、この剣術は素振りをして上げていただろうことが推測出来る。
にしても、習熟速度が遅すぎる。
素振りを5年も行えば、そこそこ剣術が熟達するはずである。
「それだけ時間がかかるということは、まったく向いていませんね。剣術は諦めましょう」
「ぐ…………」
「逆に、気配察知や遮断あたりは伸びているので、密偵に向いていると言えなくもないですが」
「そうだよな! このスキルは俺も気に入ってるんだ。勇者っぽくないから好きじゃないんだけど、1000年くらい使ってたからか、こんなに育ったんだよ!」
「前言撤回。そのスキルも育成を諦めてください」
「ええっ、なんでだよ!?」
「いや、言わなくてもわかりますよね?」
その程度のレベルで1000年かかっていては、寿命が80年そこそこの人間では絶対に暗殺者や密偵にはなれない。
「モブ男さんの天賦は『王道』でしたね。なにを王道とするのか人によって様々ですが、モブ男さんの場合は種族に関連していると考えて良いと思います。ということで、〈ヴァンプ〉を育成してください」
「なにが『ということで』なんだよ?」
「それ以外になにがあるんですか? あなたに何ができるんですか?」
「うぐ……」
「戦略なしに複数のスキルを取得して、育成も中途半端。1000年かかっても一流には届かない。それでも自分の思う自分になりたいのなら、僕の師事は不要ですよね。帰ってどうぞ」
アルトはあえて、酷い言い方をした。
いつもならば、絶対にここまで強く言わない。
しかし彼の場合は、これくらい言わなければ伝わらない。
短い付き合い(一方的につきまとわれているだけ)だが、その辺りは理解している。
むしろ、理解しなければ話が進まない。
「うぐぐ……」
「どうせ育成しても、後戻り出来なくなるわけじゃありませんよ」
悩むリオンにアルトはそう声をかけた。
それでやっと彼は腹を決めたようだ。
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