第23話 1秒たりとも無駄には出来ない
【名前】アルト 【Lv】32→35 【存在力】☆
【職業】作業員 【天賦】創造 【Pt】1
【筋力】256→280 【体力】179→196
【敏捷】128→140(+10)【魔力】1024→1120
【精神力】896→980 【知力】459→503
「うーん」
期待した程、レベルが上がっていなかった。
それも無理はない。
レベル30ともなれば、中級冒険者クラスの水準なのだ。
この辺りから、レベルは一気に上がり難くなる。
にも拘わらず、アルトは今日だけでレベルが3つも上がっている。
恐るべき速度と言って良い。
アルトが落胆したのは、期待しすぎたせいだ。
「少し焦ってるのなぁ。でも、早く上がるに越したことはないし……」
スキルボードを睨みながらブツブツ呟いていると、
「ひとつ、教えてほしい」
「うん?」
マギカの質問に首を傾げる。
「どうして普通に魔物を倒せるの?」
「…………ん、え?」
その質問に、アルトはきょとんとした。
「普通に倒すって……普通じゃない倒し方があるの!?」
(それなんてずる(チート)ですか?)
(僕、興味があります!)
もっと良い方法があるなら、是非使わせて頂きたい。
アルトは興奮しながら詰め寄った。
「ここは下層。高レベルの冒険者じゃなきゃ死ぬ」
「ああ、そういう意味か」
昂ぶったアルトの感情が一気に静まった。
だがそれとは別に、心拍数が僅かに上がる。
マギカのそれは、アルトがこの世界に来て初めて受けるタイプの感想だった。
以前ならばどんなにアピールをしようとも、たとえ上級冒険者の目の前で下層のボスを倒そうとも、まったく気にも留められなかった。
アルトの存在力は☆1。
髪の毛を揺らす風ごとき程度にしか思われない。
かつて、アルトは何度も冒険者の前でボスのソロ狩りを行ったことがある。
しかし冒険者は一切反応しなかった。
彼ら彼女らは、アルトがあたかも見えていないかのように振る舞ったのだ。
通常冒険者なら5~6人で挑む、60階のボスを一人で倒しても、だ……。
それが、フォルテルニアの〝魔法〟。
神が定めたルールの逸脱を、決して許さぬ呪縛だった。
「どうして、普通に倒せる?」
「んー。なんでだろうね?」
「魔物を相手に、何刻も戦い続けるなんて、本当に人間?」
「う、うん、一応人間だよ」
死に戻りしているので、若干怪しいが……アルトはまだ人間だ。
「じゃあ、変態だ」
「へっ!?」
予想外の一撃に、アルトの喉の奥から出したことのない音が出た。
(僕は全然変態じゃないよ!)
(変態じゃないはず……)
(うん、たぶん、違うかな?)
何故かどんどん自信がなくなってくる。
アルトはいじけながら地面に落ちている石を握りしめて、魔力を籠める。
石の中に魔力を通し、イメージを上乗せする。
ゆっくりと、壊さぬように。
想像した形になるように、しっかりと固めていく。
石の形が安定したら成功。崩れ落ちれば失敗だ。
「今度はなにをやってるの?」
「スキルの練習」
「?」
アルトが行っているのは、《工作》の熟練度上げだ。
アルトは以前より、《工作》には〈グレイブ〉以外の使い道があるのではないかと考えていた。
たとえば〈鍛冶〉スキルだ。
〈鍛冶〉も、広い意味では工作に当たる。
実際、アルトが石に〈鍛冶〉と同じ要領でマナを込めると、《工作》スキルが発動した。
結果は失敗だったが、コツさえ掴めば成功するはずだ。
つまり、《工作》は〈鍛冶〉の代替えスキルになるということだ。
もし代替えにならなくても、熟練上げは出来る。
アルトの挑戦は一切無駄にならない。
「下層からは、石に銅や鉄が混じるようになってくるんだ。これを、うまく固められれば……」
再度、アルトは〈工作〉を行う。
手にした石からパラパラと、砂が落ちる。
全ての砂が落ち切ると、中に黒い石が残された。
「よしっ、成功だ!」
「…………鉄?」
「そう」
〈工作〉が上手くいき、アルトは拳を小さく握る。
これで、武具の元となるインゴットが手に入った。
次はこのインゴットを用いて、武具を作る。
現在の熟練度では失敗する確率が非常に高い。
それに、いくつかの手順を踏まなければ、武具が出来ない。
しかしいずれは、一度の〈工作〉で武具が作れるようになるだろう。
(魔力の調節もかなり難しいから、《魔力操作》も鍛えられそうだな)
「…………ところで、いま、休憩中?」
「そうだよ?」
「休憩する気、全くないよね」
「い、いやいや。休憩してるよ? だってほら、床に座ってるでしょ?」
「それだけだと、休憩とは言わない」
「でも――」
「アルトはビョーキ」
「うぐ……」
マギカの厳しい一言に、アルトは思わず絶句した。
返す言葉が見つからない。
「休むときは休めば良い」
「そうなんだけどね……」
あと7年。
あの日まで――恋人が殺されるまで、たった7年しかないのだ。
それまでにアルトは、この国で最も強い魔術士に勝たなければならない。
(もう、ハンナを目の前で失う経験は、二度とごめんだ……)
少しでも、立ち止まったら差が開く。
アルトが休んでいる暇は、1秒もないのだ。
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