第22話 アイテムの隠れ性能
翌日、アルトたちはキノトグリスの迷宮に向かった。
キノトグリスの迷宮は市内中心部に位置している。スタンピートでの被害を食い止めるために、重厚な外壁が入り口を囲んでいる。
中に入ると少し開けたスペースがある。そこには露店や出張教会などが軒を連ねている。露店は食べ物や回復薬を販売し、出張教会では怪我人の治癒を行っている。
「昨日のあのお店、なんで潰れないの?」
マギカが不思議そうに首を傾げた。
彼女が言っているのは、馬鹿馬鹿しいほど巨大な剣が置いてあったお店のことだ。
「あの人は趣味でやってるからだよ」
「穀潰し?」
「いや、別のルートでお金を儲けてるんだよ。ただほら、趣味って火がつくと、究極を目指したくなるものでしょ?」
そうかしら? とマギカの耳が傾いだ。
(うーん、やっぱりこれは、男だけの感覚なのかなあ)
『このお守りを付けると切れ味が1%アップする』
『靴底に鉛を入れると、重心が安定する』
などなど……。
男とは、少しでも良いという噂が流れれば、たとえそれがオカルトであっても手を伸ばしたくなるものなのだ。
あの店の店主ハーグは、魔導具作成においてこの国の第一人者だった。だが魔力を籠めるアイテム本体にもこだわりを持つようになり、次第に武具作成に傾倒していった。
結果、最先端を走っていた魔導具師は凋落し、誰も寄りつかない店の店主となったのだった。
アルトがわざわざ剣を持ってみせたのは、ただ力自慢をしたかったからではない。
前回は、あれがハーグを魔導具師(ほんしよく)に戻すためのフラグとなっていたのだ。
彼が作る魔導具の性能は飛び抜けている。
特に三十年後に発売される防御壁ペンダントは、魔道具の歴史を変える程の商品だった。
前世のアルトはついぞ購入出来なかったが、彼のペンダントに救われた人は数え切れない程いるはずだ。
武具職人としての才能はないが、魔道具師としての才能は本物だ。
そのハーグの口癖が『最高ランク、最高品質』だった。
彼がどうなろうと、アルトには直接関係ない。
しかし、〈鑑定〉していたときに、アルトは彼の存在を思い出してしまった。
ならば、見て見ぬ振りは出来ない。
(がんばってね、おじさん)
露店の焼き肉の匂い反応したルゥが、ペシペシとアルトの肩を触手で叩く。
それを無視し、いよいよキノトグリスの大迷宮に突入するのだった。
□ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □
キノトグリスの迷宮は、上層・中層・下層と区分けされている。
1階から25階までが上層だ。主に冒険初心者から中級者まで活動する。
迷宮の本番は26階の中層からだ。
50階からは下層と呼ばれ、上級冒険者のごく一部のみしか活動していない。
この迷宮は、現在61階まで攻略されている。それでもまだ、終わりは見えない。
何階まで続いているのか、誰にもわからない。
アルトは上層を無視し、一気に中層まで移動した。
26階からは黒い短剣を装備した。
短剣はかなり性能が良かった。26層の魔物相手にも、刃が通らない感覚がまったくない。
自分で作るまでの繋ぎ武器として満点である。
敵を倒しながら、スキルボードをチェックする。すると、
「おっ! なんか敏捷にプラスが付いてる!」
【敏捷】128(+10)
プラス表記は、これまで一度も見たことがない。
「このプラスはなんで付いたんだろう……?」
スキルボードを隈無く確認するが、見覚えのない表記はそれだけだった。
新しいスキルが出現したというわけではなさそうだ。
「ダンジョンに入る前と後で、なにが違うんだろう……?」
むんずと腕を組み、考えることしばし。
ふと、アルトの目が黒光りする短剣を捕らえた。
「もしかして、短剣?」
短剣を外して鞄に収納する。すると、これまで付いていたプラス表記が消えた。
「おおっ、装備によってステータスが変化するんだ!」
体の動きが変化するという武具の話は枚挙に暇が無い。
しかし実際に、どれくらい変化するかは個人の感覚でしかわからなかった。
だがスキルボードを使えば、どの武器にどのような効果が付いているのかが、一目で分かる。
似たような効果が付いている同じ武器を選ぶ場合、スキルボードがあればより効果が高いものを間違わずに選べるのだ。
これは、かなり凄い発見だった。
「実は効果があるのに、気づけなかったアイテムとかあるかもしれないな……」
今後、装備を選ぶ場合は必ずスキルボードをチェックしようと、アルトは心に刻み込む。
少しでも効果の高い装備で、全身を固めるのだ。
疲れを感じると、アルトは無理をせずに休憩を取った。
少し開けた部屋の隅を陣取り、隠密型の〈グレイブ〉を設置する。
「よかった。ダンジョンでも設置出来る」
アルトはほっと胸をなで下ろす。
〈グレイブ〉があれば、ゆっくり休憩出来る。
念のために、隠密型〈グレイブ〉の前に開放型をセットした。
ほとんどの魔物は開放型に落ちていく。
少し頭が回る魔物は、開放型を飛び越えてきた。
しかしいずれの魔物も、開放型を飛び越えた先にある隠密型(わな)の餌食となった。
開放型と隠密型。
この二つを組み合わせると、戦術が生まれる。
非常に使いやすい上に、初見突破が難しい。
いまやアルトにとって、無くてはならないスキルだった。
30分ほど休憩をしてから、再び進行を開始する。
魔物を倒すと、すかさずスキルボードをチェックした。
ひたすら下階を目指して歩き続け、疲れを感じたら迷わず休憩を取った。
そうしているうちに、アルトは51層まで降りていた。
51階に着くと、アサシンストーカーが現れた。この迷宮で初めて出会う、上位のモンスターだ。
丁度この頃から、アルトの攻撃が効きにくくなってきた。
(さて。この辺りでレベリングするかな)
ここに移動するまでに、アルトはスキルボードを逐一確認していた。
討伐する魔物の経験・熟練効率を見ていたのだが、結論としては、
1戦闘系の熟練度は、同格以下の魔物と戦っても上がり難い。
2より強い魔物と戦った方が、レベルも熟練度も上がりやすい。
つまり、ゴブリンを百匹倒すより、自分より少し強い魔物を1匹倒した方が成長するのだ。
現在のアルトならば、この階層が最も効率が良い。
レベルが上がれば、効率が変わってくるが、その時は階を下げれば良い。
倒した魔物の魔石をルゥが回収していく。
回収方法は単純だ。
ルゥが魔物をすべて飲み込み、『キュプイッ』と魔石だけを吐き出す。
「いつも思うんだけど、飲み込んだ魔物はどうなっているんだろう?」
どれほど魔物を飲み込んでも、ルゥの体積に変化はない。
肉や骨は消化されているのか、あるいはアイテム確保用のスキルがあるのか。
「〈次元庫〉みたいなレアスキルを持ってるのかな?」
ツンツンとルゥを突くけれど、ルゥは「んにゅ?(なになに?)」と体を歪めるだけだ。
そこから、一心不乱に魔物を狩り続けた。
アルトが戦闘の手を休めたのは、強いレベルアップを感じた時だった。
〈グレイブ〉を展開して壁に寄りかかる。
「ふぅ……。どれくらいレベルアップしたかな? 5つくらい上がっていれば良いんだけど……」
戦闘の余韻を冷ましながら、アルトはスキルボードを展開した。
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