第18話 釘を刺す
(朝からおいしい食事って、素晴らしい!)
翠山亭の朝食に舌鼓を打ちつつ、昨晩を思い出す。
現在のアルトは、あの賊程度ならば軽く跳ね返せるだけの力が身につけていた。
【名前】アルト 【Lv】8→32 【存在力】☆
【職業】作業員 【天賦】創造 【Pt】1
【筋力】64→256 【体力】45→179
【敏捷】32→128 【魔力】256→1024
【精神力】224→896 【知力】115→459
【パッシブ】
・身体操作29→30/100 ・体力回復22→25/100
・魔力操作44→45/100 ・魔力回復40→41/100
・剣術39/100 NEW ・体術21→22/100
・気配遮断2/100 NEW ・気配察知2/100 NEW
・回避10/100 ・空腹耐性10/100 NEW
・工作15→23/100
【アクティブ】
・熱魔術10→15/100 ・水魔術9→13/100
・風魔術7→14/100 ・土魔術8→14/100
・忍び足5/100 ・解体4/100 NEW
【天賦スキル】
・グレイブLv2→3
ここ1ヶ月で、アルトのステータスが驚くほど上昇した。
特に、レベルの上がり方が尋常ではない。
大幅にレベルアップした理由はいくつかあるが、一番大きな要因は野宿作戦が成功したことにある。
アルトは野宿する時、決まって日が落ちてから肉を焼いた。
日が落ちるとナイトウルフが活発に動き出す。
彼らは鼻が敏感だ。
焼けた肉の香りを漂わせれば、大量に引きよせられるというわけだ。
このことは、冒険者ならば誰しもが知っている。
レベリングに使う冒険者は、アルトを置いて他にはいないが……。
アルトは前世でも、ウルフ釣りをよく行っていた。
大幅レベルアップは、その経験があったおかげである。
レベルが上昇して判ったことがある。
精神力と知力についてだ。
精神力は、直接攻撃や魔術攻撃への抵抗力を高める働きがある。
防御力ではなく、あくまで抵抗力だ。
精神力が高くなると、攻撃を受けたときのひるみが少なくなる。
知力は、頭の回転を高める働きがある。
知力が高くなると、熟練上げや魔術の運用がより効率的になるし、素早い攻撃への対処を誤ることも少なくなる。
また、知力が一定以上になると並列作業も可能となる。
現在、アルトは簡単な訓練ならば4つ同時に行える。
次にスキルだ。
アルトは有用だと思ったスキルはすべて取得しようと心がけている。
個人戦術の幅は、スキルの数に比例する。
☆1のアルトが最強の魔術士に立ち向かうのならば、選択肢は多ければ多い方が良い。
アルトの一番の強みは、未来の情報を知っていることだ。
それを最大限利用して、魔術士を打倒するつもりだった。
しかしこのところ熟練度上げが進まなくなってきた。
スキルボードがあるおかげで、アルトはトレーニングの効果を数字で検証出来るようになった。
実際、アルトの試行錯誤によって熟練度がかなり上がっている。
しかし熟練度は、上がれば上がるほど、上がり難くなる。
ある程度熟練度を上げたため、熟練度の壁が現われたのだ。
(これが、ソロトレーニングの限界なんだろうなあ)
(これ以上は、実践じゃないと上がらないんだ)
そんな中、めざましく成長しているスキルがあった。
《風魔術》と、《土魔術》だ。
移動中、アルトは常にこの魔術を使うことで効率的な熟練度上げに成功していた。
具体的には、《土魔術》で前方数十センチの地面を常時平滑にしながら、背中に《風魔術》を当てて体を動かす移動法だ。
緻密な魔術操作が要求されるため、かなり集中しなければいけない。
レベルアップによって知力がかなり上がったが、この熟練上げをしている時は、体を動かす余裕がなくなってしまう程だ。
しかし、これを使えば立ったままでも移動出来る。
走るよりも素早く移動出来るし、同時に熟練も上がるので、使わない手はない。
「今日は、どうする?」
「ダンジョンに行こうかなあ。あっ、その前に行くところがあるんだった」
「行くところ?」
「うん。ちょっとお礼を言いに、ね」
食事を終えて、アルトはギルドに向かった。
赴いたのは昨日と同じ買取りカウンターだ。
昨日と同じ受付を見つけると、アルトは鞄を踏み台にして目線を合わせる。
「こんにちは」
「…………いらっしゃいませ。本日も魔石の買取でしょうか?」
僅かに、彼の表情が強ばったのをアルトは感じた。
腹芸は面倒なので単刀直入に切り出す。
「昨晩、僕が泊まっている宿に不審者が侵入しました」
「……、ご愁傷様です。ですがそれはギルドではなく、憲兵の方に届け出ていただけますでしょうか?」
「ええ、後ほど届け出るつもりですよ。ただ、何故この街に来たばかりの僕が狙われたのか気になりましてね。キノトグリスに入ってからはギルドと、あと武具店一件にしか足を運んでおりませんので」
「何故目を付けられたのかは、オレ――こちらも把握できませんが」
「きっと、子どもの僕が大量の魔石を販売して、大金を得たからではないかと推測したのですがいかがですか?」
「それはギルドを疑っていらっしゃるということでしょうか?」
受付の声にやや怒気が含まれた。
それは彼が疑われて怒っているというわけではない。「それ以上疑うな」という威嚇である。
「僕は『大金を得たから』と言っただけで、あなた方を疑っているわけではないんですよ? ただ、僕が大金を持っていると知ることが出来たのは、ここ以外にあり得ないんです」
「お金以外が目的だったのでは?」
「ただの平民に、なにを期待すると?」
「こちらは賊ではありませんので判りかねます」
「自慢ではありませんが僕に、貨幣以外の価値あるものはありません。もし僕が大金を手にしているという情報が無ければ、不審者は金目の物のないただの子どもの部屋に、人を殺すためだけに侵入したことになる。
そんな輩がいるでしょうか? 正義と秩序を司るフォルテミス神の加護に守られた、このキノトグリスに!」
「そ、それは……」
「あなたでは話になりませんね。上の者を呼んできてください!」
ここでアルトは初めて声を荒らげた。
受付のガードが下がった瞬間を狙った一撃だった。
彼が言葉を口に出来ずにいると、カウンターの奥から一人の男性が現れた。
「査定室室長のエリクと申します。なにかございましたか?」
「ええ。実は昨晩、僕が泊まっている宿に賊が侵入しまして――」
アナタとは敵対しませよ、と言うようにアルトはかなり丁寧な口調でエリクに昨晩の話をかいつまんで聞かせた。
「最後は窓から放り出してしまったので、一体誰が賊であるかがわかりませんでした。ただ、賊は僕がここで魔石を販売したときから目を付けていたのではないかと推測しています」
アルトの言葉に、エリクが神妙な面持ちで頷いた。
「今後は、魔石買取時の警備を強化いたします」
「そうですね。できれば衝立を作って取引状況を周りから見えなくした方が良いと思います」
開けたカウンターで取引を行うと、アルトのように見た目が弱そうな冒険者は簡単に目を付けられる。
その意図に気づいたのだろう。エリクが、大きく頷いた。
「考慮いたします」
「ありがとうございます」
話が一段落したところで、アルトは鞄からあるものを取り出した。
「それと、もう一つ伺いたいことがありまして」
そう言って取り出したのは、黒光りする短剣だった。
束を横にしてカウンターに置く。
武器を見て、赤毛の青年の目が僅かに丸くなった。
「この武器ですが、実は賊が部屋に忘れていったものなんです。僕はこの街に来たばかりなので、こういう物の扱いがわからないのですが」
「それは……そうですね。賊の落としものならば、いかように扱っても構いませんよ」
「そうでしたか。てっきり憲兵のところに持って行かなければならないかと思っていたので」
「冒険者も商人も、自分たちを襲ってきた賊を退治した場合、賊が持っていた金品は奪って良いことになっております。それが賊への抑止力となっておりますので」
「なるほど。ありがとうございます。では――」
そう言って、アルトは短剣をしまい、新たに2つのアイテムを取り出した。
「魔石の買取りをお願いします」
カウンターに出したのは、昨日は売らなかった大きい魔石だ。
それを見た2人の職員が、カッと目を見開いた。
「これは……」
「昨日売るのを忘れてまして」
「この魔石も、あなたが?」
「いえ。これはマギカが狩った魔物から出たものです」
そう言ってアルトは後ろを振り返る。
まさか自分に話題が振られるとは予想していなかったのだろう。マギカのしっぽがピッと直立する。
いままで眠そうだった目が、みるみるアルトを攻めるようなものに変わる。
「そうでしたか。それでは急ぎ、査定させて頂きますので、少々お待ちください」
エリクは彼女が、見た目通り少女でないことを見抜いたようだ。
相手が実力者だと判った途端に、対応のランクを二段階程上昇させた職員を、アルトは呆れながらも見守るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます