第10話 スキルの落とし穴
一匹たりとも脱落した者はいない。
「そ、そんな……」
失敗。
その二文字が頭に浮かんだ。
(……どうする?)
再度〈グレイブ〉にチャレンジするか。それとも〈ファイアボール〉に切り替え攻撃するか。
いずれを選んだとしても、現在の状態では、ゴブリンの大軍を切り抜けることは難しい。それ程までに、アルトは消耗していた。
(まさか)
(この村の命運は、既に決定しているんじゃ)
(どれほど足掻いても、破滅の未来を変更することは出来ないんじゃ)
(だとしたら、僕がどれほど頑張ってもハンナは……)
アルトの心が、再び絶望に押しつぶされそうになった。
その時だった。
――ズゥゥゥゥン!!
重々しい地鳴りが辺りに響き渡った。
それとほぼ同時に、大量の土埃が舞い上がり視界を埋め尽くした。
「えっ――!?」
戦闘中だというのに、アルトは呆気にとられた。
この展開は、全く予想していなかった。
いや、前進していたゴブリンの群れが地面に飲み込まれてしまうなど、誰だって予想出来るはずがない。
土煙がゆっくりと薄れていく。
いつ襲われても良いように、警戒態勢をとる。
しかし、
「ほんとに、ゴブリンがいない……」
大量のゴブリンが、一匹も残らず消えている。
見間違いではないかと目を疑ったアルトだったが、ゴブリンの群れは本当に地面の下に落ちてしまったようだ。
しかし、その理由がわからない。
「うーん。なんでだろう?」
原因を確かめるため、アルトは慎重に歩みを進める。
穴の手前まで進み、中をそっとのぞき込む。
その穴の側面は、人口的に掘削したかのように滑らかだ。
明らかに、自然に生じた穴ではない。
「もしかして……これ、僕が作ったの?」
間違いない。この穴は、発動に失敗したと思っていた〈グレイブ〉だった。
失敗したかに思えた〈グレイブ〉は、ちゃんと発動していたのだ。
しかし初めて〈グレイブ〉を使った時とは比べものにならないほど、巨大な穴だ。
縦10メートル、幅20メートル、深さは8メートルはある。
「これが、レベル2〈グレイブ〉の力……」
初めて使った時と現在とで、変化したのはアルトのレベルと〈グレイブ〉の二点。
レベルは1から3に上がった程度だ。決して、戦闘に大きな変化をもたらすものではない。
そうなると、穴が巨大になった原因は、〈グレイブ〉のレベルアップしかない。
「レベルが一つ上がるだけで、こんなに違うとは」
肉体レベルや熟練度では、まず考えられない変化である。
強すぎるスキルの効果に、背筋がぞくぞくっと震えた。
大穴の底には、大量のゴブリンの姿があった。
落下したゴブリンは、ほとんどが絶命していた。
「そういえば、どうしてすぐにグレイブが発動しなかったんだろう?」
丹念に観察すると、穴の底にいるゴブリンの半分が、土に埋もれていることに気がついた。
その土には、地上のものと同じ雑草が混じっている。
「……そっか。〈グレイブ〉は発動しなかったんじゃなくて、最初とは違う形状の穴だったんだ」
今回発動した〈グレイブ〉は、地上から少し下に空洞が生じるタイプのものだった。
ある一定のゴブリンが乗ったところで、重みに堪えきれなくなった〝蓋〟が崩れたのだ。
あたかも罠に掛かったかのように、突如としてゴブリンが落下したという寸法である。
ゴブリンの知性はかなり低いが、それでも危険を避ける程度の知能はある。
もし初めから口が開いている穴であれば、すべてのゴブリンを呑み込むことは不可能だった。
「〈グレイブ〉って、いろんな使い方が出来るのか」
〈ファイアボール〉を着弾前に破裂させるのと同じように、〈グレイブ〉も応用が利くスキルのようだ。
〈グレイブ〉の蓋も、レベルアップによる変化の一つだ。
この他にも、〈グレイブ〉で出来ることがあるかもしれない。
アルトがスキルの検証に意識を向けた、その時だった。
「――うぐッ!?」
体中を激痛が襲った。
辺りにはアルト以外誰もいない。魔物の姿もない。
この痛みは、
「成長……痛……か……」
痛みの原因に気付くと同時に、アルトの意識は闇の中へと落ちていったのだった。
>>【Lv】3→8
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