第6話 なんでも出来るって、信じさせてほしいから

本日はここまで。明日より毎日1話ずつ投稿します。



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 それからも、タタはことある毎にアルトの訓練に顔を出した。


「なあ。頭の上にあるその気持ち悪い光はなんなんだ?」

「……」

「俺様の言葉を無視してんじゃねぇよ!」

「…………」


 アルトが訓練に集中していると、ふと危険な気配を察知した。


>>危機察知1/100 NEW


 即座に重心をスライド。

 半身になり、最小限の動きで危険を避ける。


>>回避1/100 NEW


 次の瞬間。

 目の前をなにかが通り過ぎた。


 ――石だ。


「ちょっ、なんてものを投げてるの!? 当たったら怪我するじゃん!!」

「うるせぇっ! 無視する奴が悪い!」

「だからって、石は危ないから辞めようよ」

「どうせ当たんないんだから良いだろ」

「そういう問題じゃないから」


 タタはアルトの動きを見て、時々真似をする。

 失敗して、膝をすりむいて、泣きながら村の中に戻っていく。


 大泣きしても、次の日にはまた、アルトの元にやってきた。

 さすがは将来のガキ大将だ。根性がある。


 気がつけば、アルトはタタと過ごす時間が多くなっていた。


 アルトは前世で覚えた特訓メニューを、筋力に合せて段階的に行う。

 初めは真似しては失敗していたタタだったが、いつしかアルトの真似をしなくなっていた。




 五歳になり、六歳になっても、タタはアルトの下にやってきた。

 それでも、以前よりは顔を出す頻度が低くなった。


 アルトが七歳になった今では一週間に二度、顔を見せるくらいだ。

 姿を見せたタタは、毎回アルトの邪魔をして、気が済んだら村に戻っていく。


(何がやりたいんだろう……)


 タタの腕にはブレスレットが填められていた。

 八歳になると教会から配布される身分証だ。


「どうだアルト。俺もこれが貰えたぞ!」

「そう。よかったね」

「なんだよそのツマンネー反応は!」

「うおっ!?」


 タタがアルトに石を投げる。

 投石はいつものことだが、突然攻撃されると心臓に悪い。


「だから避けんなっての!」

「避けないと怪我するでしょ!?」

「うるせー!」


 ああいえばこう言う。

 ガキ大将に相応しい少年に育ったタタだが、前世と比べ少しだけ大人しいようにアルトには感じられた。


 それはアルトがタタの攻撃を完封出来るからか。


(避けられるっていっても、投石は危ないからやめて欲しい……)


 アルトは日々、成長している。

 だがそれはタタも同じだ。


 年を重ねる毎に、投石の速度が速くなっていく。

 おまけにタタはアルトより二歳も年上だ。


 子ども時代の二年差は、かなりのものだ。

 レベルでいえば、10以上は離れている。


 そんな相手から、常日頃攻撃を受け続けているのだ。

 そろそろ当たると痛いだけでは済まなくなる。


「おい。アルトは大人になったら、何になるんだ?」

「……」

「やっぱり、村を出ていくのか?」

「…………」

「オイラはな、家の畑を継ぐ。立派な野菜を作って、いっぱい売って、金をガバガバ稼いで、父ちゃんと母ちゃんに楽させてやるんだ!」

「そうなんだ。すごい夢だね」

「夢じゃねぇよ。オイラは将来、絶対に金持ちだ。ゲンジツだぞ!」


 すごい自信だ。

 笑おうとしたアルトは、タタの――珍しく真面目な表情に息を飲んだ。


「頑張れば、死ぬ気でやれば、なんだって出来る。なあそうだろ? アルト」

「…………うん」

「良かった。お前からその言葉が聞けて、ほっとしたよ」


 そう言って、タタは村の中心へと戻っていった。


 この日から、タタはアルトの前に姿を現さなくなった。

 アルトが8歳になる、その日までは――。

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