第13話 武器作成スタート!
ジオが奥からお手本の弓を探し出してきたので、ヒースは早速弓の作成を始めた。
「妖精族から弓の需要もあったんだが、奴らやたらと馬鹿力ですぐへし折っちまうから俺が弓は作るの止めたんだ」
「前も言ってたけど、そんなに妖精族って力持ちなのか? アシュリーを見ても細くて弱そうで全然そんな感じには見えなかったけど」
ジオが肩をすくめた。
「どうも魔力全開で使うと壊れちまうみたいだな。あれこれ試行錯誤してみて、それでも金属を打って強度を上げた分はそこそこもつってのは分かったんだが、実際に折ったりしているところは見たことがねえからな」
そりゃそうだ、妖精族が戦っている場面など森の奥に住む鍛冶屋に拝む機会などないだろう。そもそも住んでいる世界が違う。
「とりあえず普通の弓を作ってみろ。大きさの合う合わないもあるからな、まずは試作からだ」
「分かった」
「にしても、弓って普通木で作るもんじゃないのか?」
「金属の薄い板を弓なりに曲げていくんだよ。で、持つ部分と接合する。それに魔石を練り込むなら金属じゃないと練り込めないからな」
「あ、そっか! しならないとだしな!」
金属があまり固いと逆に弓が引けず威力が減る。となると、ヒースの力でもある程度しなる柔らかさで、且つ曲がらない様柔らか過ぎない物を作らなければならない。一つ作ったらおしまい、という訳にはいかなさそうだった。
「まあ頑張れ」
「うん、ジオもな」
「はは、お互い試行錯誤だからな。合間に依頼分も作成するから、その時はきちっと頭を切り替えろよ」
◇
それから二人は忙しい日々を送った。寝る間も惜しんで作業を行ない、試作品の試験をしてみては改良していく。材料が少なくなってくると、崖の方から材料を掘り出しては持ち帰る。軽々と荷物を持つジオの大きな背中を見て、これを長年ヒースもやればジオの様にがっちりした身体になるのかな、と思う。あれはあれで格好いいから憧れる。
合間で依頼品も作るが、短剣は散々作ったのでヒース一人で作らせてもらえる様になった。日用品などの細かい作業もどちらかというとヒースの方が得意なので、それも殆どヒースに任せられるようになった。
そしてジオが夢でハンを呼んでから数日後、ハンがやって来た。
「もうさ、合図は別のやつにしないか?」
恥ずかしそうにジオに訴えていたがジオは鼻で笑うだけだ。ヒースは合図がどんなネタだったのかを聞いてみたが、頑として口を割ってはもらえなかった。黒歴史とはこうも人を頑なにさせる何かを持っているらしい。
「で、場所だよな。地図を書いてやるな。ヒースは地図は読めるか?」
「建造物の設計図なら分かるけど」
「あー、うん、まあ似た様なもんだ。字は読めるか?」
「読めたり読めなかったり。難しいのは分かんねえ」
「うんうん、分かった。じゃあ目印の場所には字と絵を両方書いてやるな」
ハンが優しくヒースに言った。ジオがそれを見て茶化す。
「ヒースには随分と甘いもんだな」
「そりゃあ俺の話を楽しそうに聞いてくれる貴重な友人だもんなあ」
「ハンの話は面白いよ」
「ほらなー?」
ハンは嬉しそうだった。そして急に真顔になる。
「だけど、本当に行くのか? 西の獣人族の集落は最近かなり勢力を伸ばしてきているし好戦的だ。表向き俺達人間はもう奴隷以外いないことになってるけどよ、奴らも反乱分子が地下に潜ってんのは知ってるからな、残党殲滅を口実に他の魔族から土地を奪ってるんだよ」
「魔族同士の争いもあるってことか?」
ジオの質問にハンが重々しく頷いた。
「そうだ。だからそれに必要な魔剣を作らせる為に鍛冶屋を攫っていったんだろうってのが俺達の見解だ」
「そうすると妖精族との接点は」
「あそこも危ない。俺の掴んだネタだと、奴らこっちの世界に来ている妖精族をとっ捕まえようと躍起になっているらしいな」
「……その怪しいネタはどっから仕入れた」
「大きな声じゃ言えねえが、魔族にもネタ元はあってな。ま、お互い様ってとこだ」
魔族は魔族で種族間の争いがあるようなので、色々と複雑なのかもしれない。中には人間に味方しようという勢力だってあってもおかしくない。なんせ人間の女を妻に迎える位である、可能性としては十分考えられた。
「まあいい。それで、何で奴らは妖精族を捕まえようとしてるんだ?」
「魔石を作らせる為さ。それでも足りない場合は、人質にして接点で魔石を要求するつもりらしい」
「なんてこった……」
人間を殲滅しようとするばかりでなく、今度は同じ魔族間での争いに魔剣が必要とされ、それに必要な魔石を得る為に妖精族までも利用しようとしているのだ。
「人間の女を攫っただけじゃ満足出来なかったのか? そんなに争って何になる……!」
ジオが頭を抱えた。それを眺めるハンの表情は読めない。ヒースはただ二人のやり取りを聞くしかなかった。
「結局は皆自分の種族が大事なんだよ。奴らは女が欲しい。でも女は上位種の竜人族がほぼ確保していると聞いた。獣人は獣人で、ただ滅びるのを待ってる訳にはいかないってことだな」
ジオが不機嫌そうに噛み付く。
「お前は一体誰の味方なんだ」
「別に獣人の味方はしてねえよ、ただ客観的に見てそうだってこった。妖精族の接点から女を迎え入れたとしても、元々魔族と妖精族は仲が悪い。それに連れてきて伴侶となったとしてもすぐ竜人族に奪われちまうんじゃあ連れてくる意味もねえ。だから上位種の殲滅を優先してるってことだろう」
達観した様な意見をハンは述べたが、ヒースは納得いかずに口を挟んだ。
「酷いよ、まるで女が物みたいじゃないか」
アシュリーの姿を思い浮かべた。あんなに可愛らしい守りたくなる様なぷるぷるした存在なのに。ヒースが訴えると、ハンの目が優しくなった様に見えた。
「そうだな、ヒースの言う通りだ。どうしてこんなに不均等な世界になっちまったんだろうな」
ハンがヒースの頭をぐしゃっと撫でて言った。
「だがまあジオ達の目的は分かった。だったら俺達も便乗させてもらうぜ」
「便乗? 何をするつもりだ」
ジオが眉をひそめる。
「鍛冶屋は救出したい。ついでにとっ捕まってる妖精族がいたらそれも解放してやりたい。それと最大の目標は、獣人族に狙われている妖精族の世界との接点の閉鎖だ」
「え⁉ でもそんなことしたら、こっちにいる妖精族の人達が帰れなくなるんじゃ」
「ヒース、あそこ以外にも接点は実はあちこちにあるんだ。それに妖精王なら接点を新たに設けることが出来るらしい。今はまずそこの接点を閉じて、これ以上獣人族に魔石をやらないようにするのが先決だと思っている。魔石の入手経路は人間側で押さえたいんだよ」
それまでのふざけたような雰囲気がガラリと変わっていた。恐らくこちらが普段のハンなのだろう。ヒースがごくりと唾を飲み込むと、途端人好きのする笑顔に戻ってヒースの肩をポンと叩いた。
「出発する日が決まったら早めに教えてくれ。俺の仲間を途中で合流させる」
「ハン、俺達は戦争しにいく訳じゃないんだ、シオンを助けたいだけなんだが」
「だから他に注意が向いている間に逃げろってことだよ」
「おお! ハン頭いい!」
ヒースが手放しで褒めると、ハンが苦笑した。
「本当は俺はお前に殺し合いなんぞ見せたくはないんだけどな」
「ハン……」
「まあいいや、そしたらヒースが今作ってるやつを見せてくれよ。どうだ? いい感じか?」
「ちょっとしなりが足りなくてさ、ハン見てもらっていいか?」
「おう任せろ!」
ヒースとハンが作業場に移動していくと、ジオは静かに目を閉じて深い溜息をついたのだった。
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