30 覚醒:Awakening
「お前が、お姉さんということになるかなマキシ」
気密室に横たえられているのは、人ではなかった。
M4型
身体つきはマキシとそう変わらなかったが、胸は平らで、男性器が付いていた。
「おねえ……さん……?」
マキシはたどたどしく繰り返す。
その様子を見て、
「ああ。ケイの……二人目の“子供”だ」
その目には確かに狂気の色が宿っていたが、生まれて間もなく、そしてヒトではないマキシにはその色が一体何なのか、その時は理解出来なかった。
「彼は……私の……弟?」
「そうだ、弟だ。この世にまだ二人きりしか居ない、お前と同じデーモンによって人格モデルを構築した“
「……名前は?」
M4X2では可哀そうだ。そう、マキシは思った。
マキシの名は、
「
「ワタシと違う?」
「彼はニュートウキョウに降ろして、
「地上に降りちゃうの?」
「ああ。人間社会にどこまで溶け込めるか。テストする必要がある」
「どうして?」
「いずれ……彼の力が、必要になるからさ……」
生まれる前から、彼には役割があった。
だけどマキシは、
それがなぜだか、無性に心細くて、マキシは“父”に聞いた。
「ワタシは……どうしたらいい?」
「……お前はお母さんと俺の
「なんだが……?」
「マキシには、お母さんの遺言がある。これを」
そう言って、
チップに録音されていた音声が再生される。
最初に少しのノイズ。それから声が聞こえた。
『私と貴方の、娘……になるのかしら』
か細い声は、隣にいる誰かに話しかけていた。
マイクの位置をなおす音。
改めて声の主は録音を聞く者――マキシに向かって話し始めた。
『最初に
咳き込む音。
「それがアナタの幸せに繋がるのか分からない。アナタが幸せを定義する存在に成長するのかすら、私には分からない。でも、私はアナタを生み出すことを後悔していない。アナタは希望、アナタは可能性、アナタは未来……」
声は次第にかすれていく。
「アナタの半分は私、アナタの半分は
最後に零れた一言まで、余さず聞き取ろうと、録音にノイズ・キャンセルとクリア・ボイスを掛けてボリュームを最大にする。
「――自分の意思を、思いを……どうか手放さないで……」
それが母の遺言だった。
父はそれを不可侵としていて、スピンドルの研究所においてマキシは最高位の研究者として父や母と同じ権限が与えられていた。
そうして、マキシは自らの意思で地上にやってきた。
*
マキシの背後で組み上がった【
景色を変える程に咲き誇る雪花も、伸びたその枝葉も、元々あった木々も、一切合切を蒼い閃光が横一線に斬り払う。
その中心で【
「
意外にも、その名を最初に呼んだのは
その視線が【
「戻ってきて……
それを気にも留めず、マキシは
「嬢ちゃんッ!」
デーモンAIの超反応によって【
「くそったれッ!」
次の瞬間にはマキシは撃たれ、
そう、覚悟した時だった。
「これ借りるよ、
『えッ!?』
【
三者三様の暴威が渦巻いていた空間を、六輪の雪花が静止させていた。
「
陣笠の鍔をすこし持ち上げて、
斬糸は反応しない。
――タンッ、と
それを合図に、一斉に斬糸が
「なるほど。【
クルリと、
棒に触れたところから【
凍って絡みついた糸を払うように棒を振ると、それは千切れて氷片に散る。
フィードバックがオーバーフローしたのか、
「話は聞こえてました。アナタが……オレの、もう一人の母……?」
「
「……この計画の為に、意図的に造った?」
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