21 追憶:Reminiscnt
失った右手首が痛んだ。
いや、痛む気がするだけだ。
外套に隠した斬り落とされた手首からは、一滴の血も流れない。
昨日の夜に“流星”を見たのが、遠い過去の出来事のようだった。
何かから逃げるように、山中を走る。体が
動きは俊敏で、精密。
体の感覚は今でも変わらず、自分の身体だと意識できている。しかし、今まで生身のフリをしていた身体が、正体を現したかのようだった。
「クソ……」
木々を蹴って森を飛んでいると、放った【
向けられた銃口をトレース。
躊躇なくフルオートで発射されるライフル弾を、
以前見た
「カドクラの装備でオレを狙ってくる……スリーパーズか」
足止めを食っている時間はない。
だが、何のために突破するのか? 何のために進むのか? この先にある“流星”に答えはあるのか?
――このまま撃たれて死ねば、余計なことを考えなくても済むな。
そんなことを考えてみたが、意に反して【
スリーパーズの蜘蛛に操られた、哀れなカドクラの兵隊を手際よく葬りながら、
*
敵対企業から機密を盗み出し、人質に取られた要人を救出し、時には暗殺の
昼夜の区別はないものの、起きて仕事に出、帰っては次の仕事に備える。慣れてきた頃には天体観測をするような趣味も出来た。
平凡な暮らし。
それが
更に記憶を辿れば、仕事で名も売れてきた頃の、ある出会いが浮かび上がってきた。
その日、カドクラ傘下の企業による、
先に捕縛されたニュートウキョウを狙うテロリストへの尋問により、その工場には以前から懸念されていた武装組織への武器供与疑惑が確定的となっていた。
大っぴらなことを言ってしまえば、
実行部隊であるテロリスト系
企業の世界は一度舐められたら始末が悪い。それが露見すれば他企業から集られ、挙句の果てには有象無象の活動家の食い物にされる。
結果、落とし前を付ける必要性に迫られたカドクラは、詰め腹を切らせるのに丁度よい武器工場を見つけ、これを締め上げることにした。
ガラの悪い
もう戦争は起こらない。
だがそれで“めでたしめでたし”となるほど、世界は呆けてはいなかった。
平和主義者が言うように「起こさない努力をする」までもなく、各々の勢力が自らの“体制の保存”を大前提とした結果、戦争などという手間ばかり掛かる方法は先進国や上位企業に限れば、まったく適さなくなっただけのことだ。
仮に一方的な戦争を仕掛けられるのであれば今でも、世界に存在するすべての勢力、組織、そして個人であってさえ、征服を目指すだろう。
そういう英雄も、時代のところどころに幾人かは顕れた。
だが現実には特定の
一方で組織や体制に発生した“自己保存意識”によって、社会組織自体の闘争本能はより過激になっていった。
巨大な
こうなればもう、どこの国も組織も企業も看板に泥を塗った輩の首は跳ねなくては済まない、メンツがモノを云う世界の出来上がり。
この状況を「組織という構造体が晴れて、自己顕示欲という自我に目覚めた」と皮肉る者さえいた。
その日の
アルテミス・ワークスから
カドクラの重役が死んだのは、そのセキュリティの一部を担当していたニシカミ
ニシカミは典型的な前時代的企業で、見た目には金のかかった洒落たインテリアを備えた会議室だが、肝心のセキリュティはガバガバ。
社員である
――カドクラはココを解体するつもりで今回の
この時点で
銃と
だがミーティングを聞く限り、
辛うじて評価出来るのは、ニシカミ
「えっと……トバ
その名には聞き覚えがあった。
トバ・スクリームフィスト。
二十年前、左手の甲に刻んだバンシィのタトゥにちなんで“
晩年、
伝説の最後ではハッキングに成功したとされているが、その成否は定かではなく、センサ・ネットの
その彼の伝説はネット・ミームになり、今日も
「あの……トバ・スクリームフィスト?」
「――そいつぁ、初代
ミーティングが終わり、
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