20 門倉海里:Detonetor
M4X1の、金と緑をした瞳が
「俺が……デーモン? それは一体どういう――」
「
――デーモン……デーモンAIのことか?
デーモンAIはスピンドルが
AI――
人間が行動を入力して“解”へ導くのではなく、人間が“求める解”を入力し、機械がその“解”への道筋を演算する。
長きにわたるAIの開発は、粒子センサ・ネットワークと
「では、AIを超えるAIとは何か?」
「――それは欲求ともいうべき“新たな解を求める心”である」
そう提唱したのが
システム自体は
【デーモンAI】の根幹は【
それは使用者のパーソナリティや記憶痕跡と結びつき、一斉に増殖する感染体のような代物だった。
与えられた“問い”も“解”もない自由な探求。自ら臨む答えのない問い。何千、何万、何億、何兆、何京の演算の末に、描き出されたもの。
それがセンサ・ネットから
【知能】を生み出すことに成功したヒトが、その飽くなき欲求で【知性】を生み出すために造られた人造の悪魔。
「オレが……デーモン?」
それは荒唐無稽すぎた。
なのにどうしてか、
その為にスピンドルを出て、ニュートウキョウへやってきた。
はずだった。
この意識がデーモンの作り出した人造の知性なら、この
そんな問いが
その隙間に入り込むように、背後から声がした。そこには
「社長、エア・ビークルの外に出たら危な――」
「真実を見せようか、
「
振り向いた瞬間――ギィン、という切り裂く音がして、それから一呼吸おいて、
それを見て激痛に身構えるが、痛みは来ない。
だがそんなことよりも、落ちた手首の断面を見て、
「なんだ……これ……」
手首の断面は、サイバーウェアのそれだった。
だがその手首の中には、生身の肉体など一欠けらもない。青い血や黒いオイルさえ流れていない、完全な
「どういう……ことだ……」
足元が、グラリと揺れた気がした。
吐き気と眩暈が襲ってくる。
だが身体を胃液が逆流することもなく、
「オレは……オレは一体……――なんなんだ?」
自己の定義が崩れる。己の概念が曖昧になる。
神経が強烈なダブステップを踊っていた。
体は正常なのに、意識だけが酩酊している異常な感覚。
世界にノイズが走って見え、現実感が希薄になっていく。
「
その声で、
さっきよりも鋭く、憎悪の籠る声で、M4X1が
「しまっ――」
いまさら、
それは
しかし、咄嗟のことに身体が反応しない。
引き金は引かれ、電磁レールによって
その瞬間、再び、あの――ギィィィンという、金属が擦り切れる甲高く耳障りな音が響いた。
遅れて、
銃弾が、
衝撃波をそよ風のように、長い黒髪で受け流しながら、
「不用心な重役とでも思ったか? 私を撃つつもりだったのなら【
「アナタはこの二十年、相も変わらず……!」
極超音速の弾丸を両断したモノの正体が分からず、マキシと呼ばれたM4X1は
「いいや。私は……随分と変わってしまったよ……ニール博士に続いて、彼女まで失っているからな……」
その表情に、昏い陰が落ちる。
「アナタは、カドクラを中から変えることだって出来る筈でしょう?」
「無理だな」
M4X1の言葉を、カドクラのトップの一人であるはずの
「――カドクラは私の祖父・
「アナタはいつも、どうしてそう力づくで世界を変えようとするの!」
そう叫んだM4X1の構える
その腕ごと斬れて飛んだ。
銀色の美しい腕が宙を舞った。
「――私も力づくで奪われた側の、愚かな人間だからよ」
「……でも、アナタは! アナタという人は!」
「奪われたものと、この感情は、君も……君の持つ記憶も、同じだと思ったのだけどね……マキシ?」
片腕を斬り落とされてバランスを崩れて倒れそうになるのを堪えながら、M4X1は折れた
だが動きに精彩がない。心の動揺が、こちらにまで伝わってくるようだった。
それを尻目に
「
「しかし……」
「ここは私とヴァレリィで片が付く」
「……オレは……」
「君の真実は、あの“流星”の中にあるよ……その為に、君をここに連れてきた」
そう告げる
「わかり……ました……」
自分を見つめる悲しい目をしたマキシに背を向け、
後にはマキシと
「ヒトを道具にして――ッ!」
マキシの怒りに呼応して【
辺り一面を凍結するほどの冷気をまき散らしながら、その角の間に、すべてを焼き斬る光が収束していく。
だが――
空中に一瞬だけ、線を引いたように何かが陽光を反射した。
次の瞬間、マキシの力の象徴である【
「君たちはまだ……ヒトではない」
愉しそうに。或いは悲しみに暮れ、残念そうに。
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