19 スピンドルの殺戮人形:Spindle's Killing Doll
「
目の前の美しい女性型の
全身義体――身体の五十パーセント以上、特に骨格や外皮をサイバーウェアによって代替する場合、骨格や外装は、女性型の方が合理的とする論説は、ここ一年ほど、サイバーウェア関連のアングラ・サロンをにぎわせていた。
均整の取れた女性型のシルエットは、コンパクト且つ可動域の広い
それに加え、彼女の手足を形作っているのはおそらく
スピンドルの最新鋭試作筐体・M4X1。
――まて、なんで俺はそんなことを知っている?
考えていると、その
その目は、何故か
「
「
「コイツの義体はスピンドルのM4X1です。並の相手じゃない」
「君は
「しかし」
「問答をしている時間はない。いいから向かえ」
ヴァレリィは頑なだった。
あの
腕利きの軍人、そしてカドクラ要人のボディガードということを差し引いても、一人でどうにかなると思える相手ではなかった。
「
「
白いパーカーの
一度は躊躇わせる。
しかし、二度目はおそらく駄目だ。カドクラのDT17マサムネは良いアサルト・ライフルだけれど、
こうなると
三者一瞬の躊躇いの後、M4X1がヴァレリィに狙いを変え、【
意識と視線が、荒い静止映像に持って行かれている瞬きの間に、ヴァレリィをブレードの間合いに捉えるM4X1。
「速いッ!」
ヴァレリィがアサルト・ライフルの銃身を盾にして呻く。
カーボンスティール製のライフルが、バターを切るように真っ二つになっていた。
生身で【
酸素マスクのようなガジェットを装着したのは、生身の部分への酸素供給や生体パーツの負担軽減のためだろう。
限界を超えた神速で稼働するためには、身体の強靭性よりも、生身の部分の脆弱性が足枷なのだ。
首を刈りにきた左腕の
刹那――ギィィィィンッ! と耳障りな、金属を削るような切断音が鳴り響く。
プラズマ化した蒼い粒子と、不活性化した赤い粒子が交じり合い、火花となって二人の間で爆ぜる。
次の瞬間、現在の金属光学の粋である
驚きが脳内麻薬を多量に分泌し、一瞬を切り取ったようにスローになった時間感覚の中で、
それが
「何だ? ヴァレリィさんが何か、ガジェットを使ったのか?」
攻撃の正体が分からないのはM4X1も同じなようで、再び【
その残像が“何か”の攻撃を受け、赤い粒子に散って還る。
「これは……
後ろに下がったM4A1が社長の名を呼び、懐から大型の拳銃を抜いて構えた。
「マズいッ!」
その引き金が引かれるよりも速く、
一瞬遅れて躊躇なく発射された秒速八キロメートル、マッハにして約二十三の弾丸が衝撃波を伴いながら氷の花を破砕。
――
「【
デーモンAIの出力で造られた
出し惜しみできる相手ではない。
背後に現れていた
その腕の代わりに生える、無数の触手のような骨格が、M4X1を捉えようと一斉に伸びた。
「【
M4X1の背後でも、コンソールの音が鳴って、
それは瞬く間に組み上がり、巨大なヘラジカになる。
頭に戴く巨大なヘラ角の間で、プラズマ化した粒子が収縮していた。
「デーモンAIッ! あの
蒼い閃光が、迫る【
エア・ビークルが不時着した跡の残る上に、大地に線を引いたような一直線の溝が刻まれていた。
「【
慌てて【
このM4X1は
スピンドルの関係者なことは間違いないが、それならパトロンの一人である
何か目的があって現れた割には、標的がブレている。
蜘蛛のデーモンを使うユーヴィ・クランシーズのスリーパーズにしてもそうだった。
それに加え、父・
すべての糸が何故か、
にもかかわらず、
自分はすでにスピンドルを捨てた身であったはずなのに、捨てたはずのあの宇宙コロニーが、今も咲耶の背後に重く存在しているのだ。
「オレの身柄に何の意味がある?」
さらにM4X1を攻撃するか迷って、
「
「記憶……なんだって? 人格?」
「【
M4X1の
見開かれたその目と、そして次にその口からでた言葉は、
「――デーモン?」
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