第14話 女同士の愛は諸刃の刃 ACT 4

早いもので、みかんが教師として赴任して1ヶ月が経っていた。


赴任当初のあの鯉パクの様な、群がる女子集団は落ち着きを見せた。いや、慣れたというべきだろう。女子生徒がみかんはこの学校にいるのだという事を認識し、周知したという事だ。


そして気が付けば、とある同好会が発足し、瞬く間に部活へと昇格してしまった。


その名を『園芸部』という。


『園芸部』その名の通り、活動開始時の内容は、まず植物を植えることから始まった。

学校の裏庭にみかんの苗木を植樹した。


よく学校側が、植樹を許可したものだと思うが、そこはまず良しとして。現在『園芸部』の登録部員数はなんと、一か月も経たぬ間に20名を超えている。


無論、登録部員全員が真面目に、園芸に勤しんでいる訳ではない。

当然のことながら掛け持ち部員に、登録だけの完全なる幽霊部員が……。いや、ほとんどが幽霊部員という状態だ。


そして、『園芸部』としての本来の活動は、植樹の後何も行われていない。

「みかんを育てよう」その掛け声によって、同好会として始まり、部へと昇格させた人物。

その人物は、なんと希美なのだ。


静寂を彩り、清楚なイメージを全面に押し出している。あの希美が旗揚げ者なのだ。そしてこの部には『園芸部』としての表の顔と、もう一つの顔があった。


「美柑を愛でる会」これが裏の顔である。


顧問は当初臨時教員であるが、みかん当人にお願いしようとしていたが、希美がそれを止めた。

なぜなら、顧問となれば当然、裏の活動もばれてしまうからだ。そこで目を付けたのが美術の教師。


森山優華もりやまゆうかだった。

性格はおっとり天然。少しぽっちゃりと見えるのは、あの張り出た胸がそう見せるのだろう。

何故、森山先生に希美が顧問をお願いしたのか?


希美はあの森山先生が、みかんの姿を見ながら、よくため息をついていたのを見逃していなかったのだ。

「森山先生絶対に美柑さんの事気にかけてるから。それにあの天然さはうまく使えば本来の活動にも支障なく利用できる」と、中々の腹黒な考えの元。


「宮本先生と意外と仲良くなれるチャンスがあるかもしれない、部活の顧問を引き受けてはもらえませんか?」


「宮島先生と? 仲良く? 一体何をすれば仲良くなれるのかしら? 『園芸部』の顧問になると」

「私たち、部に昇格出来れば、みかんの木を植えようと計画しているんです。美柑の木ですよ! 先生。みんなで美柑の木を愛でていきましょう。ね、先生」


「ええ、みかんの木を植えるの? みかん……宮島美柑。あ!」

「いつも宮島先生を見つめて、ため息ばかり付いていると、老けちゃいますよ」

ニッコリとほほ笑んで、森山先生に進言したのだ。


その腹黒さは中々の物である。

清楚さを売り? 前面に表に出している希美とは思えない、行動力と裏工作だ。

何故、ここまでにして希美が行動しているのか?


それは全て、希美があのみかんの躰を愛でていたいからなのだ。


女性に興味がないみかんに、色仕掛けをしたところで、たぶん反応は期待できない。それは学校にいても、希美が私のうちに来ても同じだろう。そう踏んだ希美は、ならば自ら、しかも堂々と接近できる体制を作ろうと考えたのだ。


では何故『園芸部』なのかだ。そしてどうやって、みかんとの距離を縮めようとしてるのか?

実は、これにも仕掛けがあり、実家がミカン農家であるみかんに、植樹するみかんの木の世話の仕方を、教えてもらうという考えなのだ。


そしてこの『園芸部』は女子部員だけで構成する。女子部なのだ。

女子の力でみかんを実らせたい。

いや、実らせるのだ。


一応、部の活動計画には、みかんの木の世話のほか、他の作物や花壇の花の世話なども掲げているが、これはあくまでも計画として掲げているだけで、必ず実行できるものでもない。と希美は言っている。


しかも、部員募集のキャッチフレーズも「みかんの木を育てよう」だ。

このキャッチフレーズに気づいた、おつむの良い子達が、それぞれの勝手な思惑を抱きながら集まったと言う寸法なのだ。


最も私も、その仕掛けを施している一人であることは。言うまでもない。


みかんが言うには、植樹した苗木が実を付けるまでには、この環境なら5年はかかるだろうと言っていた。

5年……。実が本当に生る頃には、もう私たちはこの学校にはいない。

そして、この部活がいつまで続くのかも、それは私たち二人も分からない。

それでも活動は開始され、希美の思惑も思いのほか順調に、進んでいるところが怖い。



「ねぇ、希美。本当に良かったのこんな部活始めちゃって」

「良かったも何も、もう始めちゃったんだからそんな事考えないの! でも、美柑さんが快く引き受けてくれたから、本当は助かちゃった」

「そりゃぁねぇ、断り切れないでしょうし、私たちの本当の目的も知らないんだから」


「だよねぇ―」

にっこり笑いながら、答える希美。


しかしだ、やっぱり、みかんはホント人気があるなぁ。

外見だけ? たぶんそれだけじゃないんだと思う。

みかんは優しい。分け隔てなく誰にでも嫌な顔一つ見せない。


なかなか出来ない事だよ。みかん。

外見だけでつられるのは、一時の事だけだ。本当は中身なんだよね。


それを言ったら、私も基、希美も中身は真っ黒だ!

特に私の中身は腐っている。


それでもまだ私は木から落ちてはいない。

腐ったところは仕方がない。でもね。そんな私でもちゃんと果実として見てほしい。


廊下ですれ違う時。いつもちらっと視線を向けるの何故?

そして私もほんの一瞬、彼の姿をこの瞼の中に入れる。



真っすぐな廊下ですれ違う。



その瞬間、私たち二人は一瞬だけ、繋がる様な気がする。

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