腐女子と腐女子

第15話 腐女子と腐女子 ACT  1

「なぁ、りんご。お前此奴ら覚えていねぇか?」

スッと見せられた、スマホの写真。

ボコボコにされた二人の男が映っていた。


「知らないよ」

「だよなぁ」

みかんは「まっ、りんごが覚えていないんだったら、それでいいんだけど」とニッコリ笑っていた。


で、……。あのぉ、この状況。


シャワーを浴び終えた濡れた躰をタオルで拭きながら、目の前にいるみかんを目にしている。そして、洗面所の鏡に自分の裸体を映し出して、チェックをしているみかん。


馴れた。完全に馴れてしまった。

私の裸を見ても何も感じないこの男。


馴れというのは恐ろしいものだ。この構図でも何も感じない私たち。少しは意識しろ! それは私がみかんに言うべく言葉なのか? それとも、みかんが私に言うべく言葉なのか? 


普通ならば、女子高生がシャワーを浴びたばかりの濡れた裸を見て、意識しない男の方がおかしい。

みかん相手にこんなことを思うこと自体、間違いなのかもしれないが。


それでも、少しは意識してほしいなぁって、言う気持ちはどこかに潜んでいる。

まるで私たちは、お互いを知り尽くしている仲のような感じになってしまったのか。

これじゃ長年付き合っている様な間のようなものだ。


もう、恋人なんていうもんじゃなくて、夫婦? 


もっと恥じらいを……。て、そこは私が恥じらうべきなんだろう……か?

それともみかんは私の事を妹、肉親としか感じていないのかそれに、女性に興味がないのが加わってこの状態なのか?


だとしたら、私は単なる物としか見られていないという事になるんじゃないの?

なんだかそれも少し虚しい気分になる。


ブラのホックをパチンとあてはめ、パンティーを履き、またみかんの方に視線を向けると。


「りんご、お前少し太ったか?」

「はぁ? な、なんてこと言うの!」

「だってそのお腹。最近ポッコリしてきた様に思えるんだけど」

「嘘!」


「もしかして妊娠した?」

「馬鹿言わないでよ! 妊娠なんて」

そうだ。そんなことはあり得ん。だって私はまだ処女だ。

男とは一度もそう言う事はしていない。


女同士なら何度もあるんだけど。いやいや、ちょっと待て。今はそう言う事を言っている場合じゃないだろ。


太った? 

「ちょっとどいて!」恐る恐る体重計に乗ると、表示された数値は衝撃的だった。


「げっ! 3キロも多い」

「ほうら、やっぱりな。で、相手は誰なんだ? 学校の生徒か? それとも俺の知らない誰かなのか?」

「何でそこんとこそう決めつけるのよ」


「だって、りんご、お前男駄目だって言いながら、そっちの行為は好きなんだろ」

「はぁ? 何なのそれって」

「いや何となくさ」


「あのね、私は男に触れられるだけでも嫌なの。そんな私がセックスなんて男とやる訳ないじゃん」

「じゃぁ女同士ならやっているのか」

……返事に詰まる。


「関係ないじゃん。それに女同士だっていいじゃない。恋愛に性別なんて関係ない!」

きっぱりと言い切った。


「ふぅ―ん、そうなんだ。やっぱりまだ処女だったんだりんご。そうか、そうかそれは良かったよ」

にっこりと笑いながら脱衣所を出て行った。


「ちょっとみかん、シャワー浴びるんじゃないの?」

返事は帰ってこない。


「まったくもぉ!」

ちょっと怒りにも似た感情が付き走る。


と、また目にする体重計のデジタル表示の数字。

「はぁ―、何でよ。別に食べ過ぎている訳でもないんだけど、どうして体重こんなに増えてんのよ!」

こりゃ―、ダイエットしないといけないのかなぁ。

ああ、でもさぁ、ダイエットって苦手なんだよねぇ。


それにしてもみかんは体重計にも今日は乗らないで、ただ自分の躰の筋肉を鏡に映し出して見ていただけだったよね。もしかして、みかんってナルシストなの?

ああやって自分に惚れこんでいるの?


ううううううっ。なんかみかんの隠された一面を見たような気がするけど。


て、自分の部屋のドアを開くと、またみかんが私の部屋でBLマンガを読んでいた。

「また読んでるの?」

「ああ、なんか気になっちまってさ」


「面白い? やっぱりみかんそっちの方に興味があるんじゃないの? 本当に同性での経験ってないの?」

「あ、ある訳ねぇだろ! じゃ、みかんもまだ童貞なの?」

お返し。うふふふ。


「いいじゃねぇかそんな事、お前には関係ねぇだろ!」


ぶっきらぼうの、しかもなんか恥ずかしがっているというよりは、もしかしてみかん。怒っている?

何でよ! 私には平気にそんなこと言うくせに、自分が訊かれるとそんな態度取るんだ。


自分勝手な奴。


「怒んなくたっていいじゃない」

「怒ってなんかいねぇよ」

「でも怒ってる!」


「だから……。違う。俺は童貞なんかじゃねぇ」

「そうよかったね童貞じゃないんだ!」


へっ? 童貞じゃないって、みかん、女の人とその、そう言う……。セックスしたことあるんだ。

女苦手だって言うのは本当なの? 苦手なのに、セックスしちゃうの?


「もういいだろこんな話」

ぱたんと読んでいたマンガ本を閉じて、その後何も言わずに自分の部屋に入ってしまった。

こんなみかんを見るのは初めてだ。


もしかしてこれは触れてはいけないところに、触れてしまったんだろうか?

それにしてもみかんが、女性との経験が有るなんて意外だった。


なのにどうして、みかんは、女性が苦手だなんて言うんだろう。

私の裸を見ても、何も反応してくれないのに。


んっ?


もしかして私。も、求めてきている?


それはあり得ないでしょ。だって……みかん。だよ。

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