第12話 女同士の愛は諸刃の刃 ACT 2
「何言ってんのよ希美。どうしちゃったの」
なぜか呆然としながら、涙をこぼす希美。押さえきれなくなったものが崩壊しちゃったんだ。
私にはそう見えた。
「……まさか希美、宮島先生の事……。好きになちゃったの?」
「それが分かんないの。私りんごの事好きよ。本当に愛している。でも宮島先生の事が気になるの。それが好きなのか、それともあの噂が原因で、りんごが取られてしまうという嫉妬からくるものなのか、分からないの。ただ、ただ胸の中で何かがぐちゃぐちゃになっているの」
いつもは冷静な希美が、そんな姿を私にさらけだした。
「希美……。ごめん。希美を苦しめちゃってたんだね」
「いいの、ただ私が勝手にこんな気持ちになっているだけだから。りんごは悪くない」
ううん、悪いのは私の方かもしれない。
確かに噂の通り、私とみかんの間には誰にも言っていない事情がある。
二人の秘密。その秘密が何となく私にとっては大切なものに感じ始めているのが本当はもどかしい。正直、私自身も表に出していないだけで、希美と同じで胸の中が苦しいんだよ。
素直になればいい。自分の感じたことを真っすぐにさらけだせばいい。そんな簡単なことなんだけど。私にはとても難しいことなんだ。
希美、あなたはこうして苦しんでいる姿を表にさらけだせる分。強い子なんだね。
私は弱い子。
自分を自分でごまかそうとしている。必死にごまかそうとしている。
「あのさ、始めに謝っておく。……ごめん希美」
ちょっとした勇気。もしかしたら、私と希美のこの関係が今壊れてしまうかもしれない。
それでもいいのか。
失いたくない。私の大切な友人であり、恋人の彼女。
「希美、私と宮島先生……実は従兄妹なんだ」
「えっ、従兄妹って」
「うん、そうなんだよ。でね、みかんは……。今、私のうちに同居している」
「嘘、同居って。一緒に住んでいるって言う事なの?」
ああ、言っちゃった。
目を丸くして驚く希美。そりゃそうだろうね。
私たちが従兄妹同士で、しかも一緒に住んでいるなんて訊いたらね。
「ふフフフフフフフフフ」
突如、希美が不気味な低音の声で笑い出した。
「ようやく白状したわね。りんご」
「白状って……」
「私知ってるの。りんごと宮島先生が何か関係があるって言う事」
「ど、どう言う事よ」
希美はオレンジタルトをそっと口にして
「んーやっぱり美味しい。我ながら、このオレンジタルトよく出来てるよ」
さっきまでの表情とは一転して、高飛車お嬢様の顔になっている。
「ちょっと待ってよ。どう言う事なの?」
「う―んとね、どこから話したらいいんだろうね。そうそうでもねぇ、ま、始めっから話そっか」
ニまぁ―とした顔をしながらゴクッと、一口アイスティーを喉に流し込み。
「私偶然見ちゃったんだ。りんごがからまれているところ。あれってナンパされてたんだよね。そこに現れたカッコいい人。に、助けられるんだと思ったらその人ボコボコにやられているじゃない。この展開ってちょっとやばいかなって思ってたらあなた達、手を取って逃げちゃったのね」
げっ! みかんと偶然に出会った時の事だ。
まさか希美が見ていたなんて。
「その後ずっとつけていたのよ。わ・た・し。そうしたら二人ともりんごのうちにいるじゃない。ま、その時はそれで帰ったんだけど、まさかうちの学校の臨時教師だなんて思ってもみなかったんだけど。そこんとこは私も驚いたわ」
いやいや、こっちの方がもっと驚いていたんだよ。
「でね、あの宮島先生、ちょっといい感じに見えるじゃない。ま、うちの飢えた女子どもが群がるくらいの男だからね、私も興味がないかったと言えばそれは嘘って言えるかなぁ。でもねぇなんか引っかかってたのよ。どこかで見たことある様な無い様なってね」
「それって希美みかんの事前から知っていたって言うの?」
「ふぅ―ン、彼の事『みかん』って呼んでいるんだりんご。そっかぁ、宮島美柑。
「……うん、そうだけど」
「ちょっと待っててね」そう言って希美は立ち上がり、自分の部屋から数冊の雑誌を持ってきた。
「ねぇ、この雑誌見てみなさいよ」
言われるままに雑誌を手に取ってページを無造作にめくると。
デ――んと、しかも見開きでみかんの上半身裸の写真が載っていた。
「げっ! 何これ!」
「そうなのよ! 私も始めは目を疑ったけど、間違いなくこの人宮島先生。みかんさんでしょ」
「まじかぁ―……。マジこんなのに出ていたんだ」
確かに雑誌に載った。本人は載せられたなんて言っていたけど、これってモデル写真じゃない。この雑誌もファッション雑誌だし……。
「あら、訊いていなかったのりんごは?」
「雑誌に載せられたことがあるって言うのは訊いていたけど、まさかこんなのに載っていたなんて思ってもいなかったよ。美柑はあんまり乗り気じゃなかったみたいだけど」
ページをめくるとほとんどみかんの特集みたいな感じで雑誌は構成されているような感じがした。これじゃ、目立つわなぁ。
それも一冊だけじゃない。他のも同じようにモデルとして掲載されている。
な、なんだよ。これじゃモデルやってたって言うか、モデルだよ。
でも、これがきっかけなのか? 雑誌に取り上げられたことで、地元ではかなり騒がれちゃって、ボクシングにも影響してせっかくプロになれたのにその道を外しちゃったんだよね。
で、教師の道に走った。
「ふぅ―、でも希美よくこういう雑誌、こんなにも大切に取っておいてたわね」
「そうね。正直に話すけど、私、美柑さんのこの躰に惚れちゃったの」
「へっ? ほ、惚れたって……。そ、そのぉ――――」
「大丈夫よ。ただ惚れただけ。私が愛しているのは、あなたりんごだけなのは変わらない。この写真を見ているだけでよかったんだけど……。現実の実際の。現物がまじかに来ちゃった。これって偶然なのか運命なのかは分からないんだけど、触れる。抱き付着られる。肌と肌とを抱き合えることが出来るなんて考えたら」
『もう私訳わかんなくなって、変になりそうなの』
真っ赤な顔をしながらニまぁ―と締まりのない顔をする希美。
はぁ―。そうですか。
―――――私は一体こういう場合、どういう風にしたらいいのか。
分かんない。よ。
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