第10話 イケメン教師は、反面教師 ACT 5
「りんごが男と一緒に暮らしている? そんな事ありえないでしょ」
たぶんさぁ、こんな事真顔で言ってくるんだよきっと。
自分的にもこういう事態になるなんて、想像もしていなかった事なんだけど、実際もう暮らしちゃっているんだよね。
「それも何? あの宮島先生と! 嘘でしょ。あははは、そんな見え透いた嘘なんか言っちゃってどうしちゃったの? もしかして、りんごちゃん、妄想の世界と現実の世界の区別がついにつかなくなちゃったの」
「いやいや、違うんだよ。本当の事なんだよ」
「―――――へぇ―、そうなんだ」
こんな会話が希美との間に始まるのかと思うと、背筋がゾクとする。
「ん? どうしたのりんご。顔色悪いわよ」
「そ、そうぉ? な、なんでもないよ」
「ふぅ―ん、なんでもないねぇ。ま、いいか。もうじき次の授業始まちゃうよ、教室戻ろ」
「う、うん」
言えないよねぇ。うん言えない。
そう思いながら、この一週間という時間が過ぎて行ってしまった。
みかんとの生活は今の所問題はない。
いや、問題がありすぎてもはや問題とすること自体、めんどくさくなってきたというのが本当の所だ。
もう諦めた。実の本音はそんなところだ。
今一番気にしているのは希美の事。そして、何となく私の耳に入ってくる噂。
女って言うのは感だけは鋭い。
学校では私とみかんが従兄だって言うのと、同じ家で暮らしていることは口外厳禁と言う事にしている。
なのに「宮島先生と森野さんって、なんかありそうだよね」そんな噂が聞えて来たのだ。
何故だ! 学校ではみかんとは極力合わない様に、話さない様にしているのに。
廊下ですれ違っても無視。
まぁ、授業の時は仕方がないけど、その時だって目が合わない様にしているし。
みかんもみかんで、声をかけてはこない。
学校で平穏無事に過ごすには、この方法が最も安全な対策だと、二人で話し合って決めていたことだ。
なのに、そんな噂が広まりつつある。
ぱたんと読みかけていた私のBLマンガを閉じて、本棚に戻しながらみかんが言う。
「なぁ、りんご。学校でさ、俺たちの事隠すのもう無理があるんじゃねぇ」
「な、何でよ。誰かに何か言われたの?」
「う――――ん、直接訊かれた訳じゃねぇけど、なんか女子生徒の中で噂になっているみたいなんだよな。俺たちの事」
やっぱり、そうなんだ。
「噂って?」
「それがさ、俺とりんごが付き合っている。みたいな感じのさ」
「げっ! 何それ。どうすればそんな噂が出てくんのよ。学校じゃ私たち接点なんかない様にしてるじゃん。声もかけたりもしてないし、何にもしてないのに」
「なんかさ、それが逆に取られているみたいでさ。俺たちわざとそうしている見たいに見えるようなっていうか」
何それ、わざとそうしているって? ま、確かにそうなんだけど。でもさ、どうして、何だろう。
どうして私とみかんが、付き合っているみたいな噂が出てくんの?
「それにさぁ、この前なんか帰りにずっと後付けられてさ、うちの生徒だって言うのは制服見りゃ分かっから確かなんだけど、まくのがものすげぇ大変だったんだ」
「へぇ、後つけられたんだぁ。ストーカーまでついについちゃったんだ」
て、感心している場合じゃないよね。
これって、ホントやばいよ。
「で、どんな子だったの?」
「ああ、ほら、りんごと同じクラスの……、確か
「げっ! マジ! それ本当なの?」
「猫の髪留めしていて、見た目おとなしそうな感じの子だろ」
マジだ! 希美だ。
何で希美がそんなことを。まして、希美にはまだばれていないと思っていたんだけど。
学校でもそんなそぶりは見えなかったし……。
メッセだっていつもと変わんない。たわいのないことばかり。
疑っている? 希美が私の事を疑っているの?
……でもその逆って言うのもありうるんじゃないのか。
逆って言うのは、希美が、浮気している? ん? 浮気と言うか……。いや、浮気だ。希美がみかんを好きになった。
まさかなぁ……。でも気になるよ。
「ちょっと私、出かけてくる」
「ああ、いいけど」
そしてみかんをギッと睨んで。
「マンガ読むだけならいいけど、他の所は絶対にさわんないでよ! 分かった! みかん」
「さわんねぇよ。お前のパンツなんか興味ねぇし」
パ、パンツ! 「まったくもう、いい絶対だからね」
そのまま私は家を出た。
希美の家は隣町。電車で一駅だ。まぁ電車に乗らなくとも歩いて20分くらいの所にあるんだけど。
家と言ってもうちの様な一戸建てじゃなくて、マンションで暮らしている。
マンションもグレードのいい方だ。
両親は洋菓子店を営んでいて、お店が休みの日以外は、希美が一人でいることが多い。
だから、希美がうちに来ることよりも、私が希美の家に行くことの方が多いのだ。
たぶん今日も希美は家にいるはずだ。もし、いなければお店を手伝っているか。どちらかだ。
途中希美んちのお店の前を通る。その時店内には希美の姿はなかった。と、言う事は家にいるはずだ。
「はぁ、はぁ」息を切らし、ドアフォンのボタンを押した。
「はぁーい」と希美の声が聞こえる。
「希美、私」
「なぁんだりんごかぁ、待ってて今ロック開けるから入ってきて」
「う、うん」
ガチャッとドアロックが解除される音がした。
いつもの様に勝手知ったる希美の家に上がり込む。
「どうしたのよ、りんご。そんなに息切らしちゃって」
「う、うん……ちょっと急いできたから」
「急いで? なぁにぃ―、そんなに私に会いたくなちゃったのぉ」
見た目はおとなし気の清楚女子。
学校でも目立つことはなく、女子同士でワイワイ騒ぐような子じゃない。どちらかと言えば、いつも何かしらの本を一人で静かに読んでいることの方が多い。
そんな希美の表の姿とは逆に、実は物凄く積極的なところがある。それは私に対してだけ向けられる。
それが希美の愛……。だと私は思っている。
希美の裏の姿それは……。
同性でも愛せるという事だ。……基、私もそうなんだけど。
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