第9話 イケメン教師は、反面教師 ACT  4

みかんが、初めて教壇に立った日。

元より、学校に出勤した日。私が思った通り、校内の女子たちの目は全てみかんにくぎ付けになった。


そうだろそうだろ。そんなの当たり前じゃん。あんだけの風貌なんだもん。本当に2次元の世界から抜き出て来たような感じのイケメン男子。


……昔は、昔。まさかこんなにも見栄えのいい男になっていたなんて、私自身も本当は驚いていたくらいなんだから。


しかもだ、これが私の従兄なんだよ。

んー血の繋がりがあるんだよ。それだけでもこの優越感。


ああ、なんだかみかんよりも、この私が注目されているような感じになって来ていた。と、ここまでは良かったんだけど、休み時間、職員室には大量の餌を得るために、群がる鯉の様に職員室前の入り口に女子たちが殺到した。


この学校であんな光景をみるのは初めての事だ。

その時ふと、頭の中にみかんが言っていたことを思い出した。

地元で、雑誌に載った時の事。

それが原因でせっかくプロ資格を取ったのに、ボクシングから遠ざかってしまった。

もしかしたら、またみかんは同じ事になるんじゃないかと。


女は苦手……て、自分では言っていたけど、こういう状態なったら、今度は教師も「駄目だ」なんて言い出さないかとちょっと心配になって来た。


その時だ教員室のドアがガラッと音を立て開いた。

「なぁ君たち、他の先生たちが迷惑してるから、集まるのはやめてくれないかなぁ」

それに反して女子たちの黄色い歓声が際立つ。


「きゃぁ――――宮島先生!!」

さながら、どこぞのアイドルでもまじかに見ているかのような状態。

おいおい、そこまで騒ぐのか。

かえって収集が付かないじゃない。


困り果てた顔してるじゃないみかん。

そんなみかんを見かねたのか。

「おらぁ―! お前らぁ、もうじき授業始まるぞ。解散だ解散」

みかんの後ろからぬっと出てきて、野太い声で群がる女子たちに叫ぶ声がした。


坊主頭、武骨なガタイ。

年は40過ぎの中年教師の鮫島だ。

「オラオラ早く解散!」


「え――――嘘ぉ! 何でぇ」と口をそろえて言いう女子たち。

後ろにいた子なんか「くそ、鮫島。うっせんだよ!」なんて言っていたのを、しっかりと訊いていた。


ああ、なんだかなぁ。

仕方なくぞろぞろと解散する女子たち。

この時、遠目で見ていた私は感じたのだ。女子の闇。女子高生の闇の裏の姿を。

「こりゃぁ、大変そうだな」


そんな事を呟いていると、後ろから私の背中をツゥ―と指でなぞられた。

ゾクッとしながら振り向くと

「あらあら、りんごちゃんも気になるの? 宮島先生の事」


にっこりとほほ笑んだ感じに見えたが、目がなんかマジに怖い。

上原希美うえはらのぞみが私の顔に自分の顔を近づけていう。


「希美、別に、勘違いしないでよ。私はあんなの興味ないんだから」

「ホントかなぁ―。じゃぁ何でここにいるんだろうね」


「……そ、それはちょっと心配だったから」

「心配? 何でりんごちゃんが、宮島先生の事心配しないといけないの?」

「あ。嫌、心配と言うか、何だろう……ほら、なんか見た目か弱そうじゃん宮島先生って、やっていけるのかなぁって」


―――――ううううっ、言葉がみつからない。

希美にはまだ言っていない。みかんが私の従妹で同居することになっていることを。

そんな事を知ったらたぶん、希美はヤキモチ妬くだろうから。

だって希美って物凄く嫉妬深いんだもん。


男子はともかく。私が興味がないというか、苦手なの知っているから大丈夫なんだけど、同じ女子同士仲良く話しているだけで、希美は悲しい顔をする。

その後の対応がまた大変なんだ。


一旦すねりモードに入るとなかなか立ち直れない。

そうなれば何をしでかすか分かったもんじゃない。この前なんか、ずっと朝までメッセージを私に送り付けて来た。


無視すればいいって、出来ないよう。だんだんと内容が危ない方向にいっちゃうんだもん。


挙句の果てには

「私、りんごちゃんがちゃんと私のこと見てくれないのなら、もう存在している価値もないて言う事になるんだよ」


それは何を意味しているのかというと。

「私りんごちゃんと一緒に死んでやる」

ちょっとまて―――――! 私はまだ死にたくない!


「えへへへへ、りんごちゃんにこのナイフ突き刺してさぁ、私もこの胸にりんごちゃんの血がべっとりと浴びたこのナイフを突き刺すのぉ!」

いやぁホラーですよもう!


ここまで来ると病的なんです。


て、本当に彼女がそう思っているのかと、いうと実はそうでもなくて、私がおびえて困っている様子を見るのが好きなんだよ。


そう、私は希美にいいように弄ばれているんだという事に気づきながらも、この関係がずるずると続いている。


だって希美は私の唯一の理解者であって、本当は心優しいおしとやかないい子なんだよ。

そして何より私の事を一番に愛してくれている。

そんな希美を私は失いたくない。


「り・ん・ご……今日、私の家に来るでしょ」

そっと耳元で希美が誘いをかける。


私は希美のネコなんだ。

飼いネコなんだよ。


意外だと思うかもしれないけど、希美には逆らえない。

そんな私に秘密が出来た。


この秘密は何時かはばれるだろう。その時の希美の反応を思うと今でも怖くなる。


さて、どうしたもんだろね。


ああああああああ!

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