第8話 イケメン教師は、反面教師 ACT  3

卓也: 「ほれ、由生ゆおタオル。すげぇずぶ濡れになっちまたな」

由生: 「しょうがないよ卓也。あんなに晴れていたのに、いきなり降ってくるんだもん……雨」


二人は下校時、一緒に帰る途中。

いきなり降り出した雨に濡れた。

激しい雨の中、ようやく卓也のマンションにたどりついた。

脱衣所で濡れたシャツを脱ぎ、棚に畳んいるタオルを取り出し、由生に手渡す。


卓也: 「俺の部屋、先に行ってろ。今風呂張ってくるから」

由生: 「別にいいよ。お風呂なんて」

卓也: 「馬鹿だなぁ、躰冷えてんだぞ。風邪でもひいたら大変じゃねぇか」

由生: 「まったく、卓也ってそう言うところは心配性なんだから」

卓也: 「な、なんだよ! 心配しちゃ悪いのかよ」

由生: 「べ、別に……。それより卓也こそ躰冷えてんじゃないの?」

卓也: 「俺は大丈夫だ。お前とは造りが違うからな……。へっくしょん!」

由生: 「ほら、卓也の方が風邪ひいちゃうよ」


そっと後ろから由生は卓也に抱き着いた。

由生のきゃしゃな躰が卓也の背中にピッタリとくっ付く。


由生: 「冷たいよ。……卓也の躰」

卓也: 「そ、そうか……」


背中に由生の体温の温かさを感じる卓也。

卓也: 「あったけーな。お前の躰」

由生: 「そうだよ。僕の躰は温かいんだ。だってこんなに心臓がドキドキいっているんだもん」


遠くで雷の音がした。

雨は激しく降り続いていた。

卓也: 「な、なんでそんなにドキドキしてんだよ」

由生: 「分かんないよ。そんなの分かんないよ。……でも、卓也の心臓もドキドキしているよ」

卓也: 「うっせぇな、それは……それは、さっき走ったからだろ」

由生: 「そうかなぁ―。このドキドキ、僕には違うドキドキに感じるんだけど」

卓也: 「同じだって。それより由生お前の躰、物凄く熱くなって来てねぇか」

由生: 「うん、熱いんだよ。躰がとても。だってこうして卓也の躰に触れられていられるから」

由生: 「僕、……。僕の気持ち、卓也は知ってくれているよね。だから身体が熱くなるんだるんだよ」


由生は卓也の耳元でそっと呟く。


由生: 「卓也……」


抱き付かれながら、卓也は強く拳を握る。

<卓也の心の中の声>


卓也: 「分ってんだよ。そんな事ずっと前から分ってんだよ。由生。お前の気持ちなんか。俺だって、俺だって――――――お前の事が……」


その時、雷の光が二人を一瞬照らし、雷鳴と共に電気が消えた。

そして卓也は由生と向き合い、彼を強く抱き締めた。

再び、雷光が二人を包み込む。


その時に映し出された影は、一つになっていた。



「ああああ……。ちょっとぉ何、人の部屋に勝手に入ってんのよ!!」


「別にいいだろ。同じ家の中に暮らしてんだから何処でも出入り自由じゃねぇか。それにりんごだって俺の部屋、勝手に入ってんじゃねぇか」


「あのねぇ、これでも私女子高生なの。17歳なの! 乙女なの。わかる? 乙女の純情。17歳の女の子の部屋は勝手に出入り出来るところじゃないの」

「乙女の純情ねぇ。こんなBLマンガが、ぎっしりと詰まっている乙女の部屋かぁ」


「うっさいわねぇ。人の趣味にとやかく言わないでよ。そうよ私はBLが好きなの。この漫画に出てくる男しか愛せない『腐女子』なの。それの何が悪い!」


「別に悪かぁねぇけど。でもこの漫画面白れぇな。なんか俺もドキドキしてきてしまったよ」


「へぇ――。あんたがねぇ。毎日女子に囲まれているあんたがねぇ。何が女性拒否症よ。全然平気じゃないの。あんだけ毎時間女子にかまれても嫌な顔一つ見せないで。もっと拒否したらいいのに」

「んっ? りんご俺が女子と話しているのが嫌なのか? 臨時とは言え一応教師だからな。質問されれば答えなきゃいけねぇだろ。それが俺の仕事なんだから」


「何、仕事だからなの? あんな笑顔見せつけちゃって」

「あれ、もしかしてりんご、妬いているのか?」


「馬鹿ぁ! 誰があんたなんかに妬くもんか!」

とは言っているが私の胸は、もの凄くドキドキしていて苦しい。


何でみかん相手に、こんなにも苦しくなるんだろう。

従兄なのに。美柑ゆうきは私の事、妹としか見ていないくせに。


みかんが私たち親子と同居して、1週間が過ぎた。

この1週間で、みかんの性格が分って来た。


とにかく此奴は、遠慮という物がない。嫌別に居候……でもないか、ちゃんと生活費は出してもらう事になっているから。ここは訂正で。でも同居しているからって、一応私たち女なんだけど。


女二人の仲に男が一人。共に生活していく上でも、もっとその、デリカシー……気配りと言うか、女に対しての配慮というものをしてほしい。


風呂上がりにパンツ一丁で歩き回るな!

平然と風呂に一緒に入るな!


下着も一緒に洗濯するな! あ、これは私か……。だってみかんのだけ分けて洗うのめんどくさいんだもん。


て、それを気にしない私もどうかと思うんだけど。そこは、ま、おいといて。

……あまり深く追求しないでほしい。


そんでもって、この今の現状だ。

うら若き、乙女の17歳。女子高生の部屋に勝手に入ってマンガを読んでいる。

その行為こそが、普通ありえないことだ。


えっ! お風呂に一緒に入ったり、下着を一緒に洗濯する方がよっぽどありえないことだって……。確かに言われてみれば、そっちの方がありえない事なんだけど。


だけどさ、なんか憎めないんだよね。嫌いになれないんだよね。



みかんは、なんか特別な枠に、括られているような感じがしてさ。

それになんだろ。学校にいる時のみかんと、うちにいるみかん。全く別人に感じてきている。


どっちのみかんが許せるかって……。


そりゃ、デリカシーのないみかんの方が断然許せるよ!


あれぇ、――――やっぱり私って変なのかなぁ。

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