第10話知ってるよ。

それから時間が経って、もう一度思い出すんだ。ううん。何回だって思い出す。

あの女性は誰だったんだろう。あの家の隣に住んでいると言ったあのお婆さん。


多分、もう会わないだろうけど。


でも、自分は知っている。

あの家のこと。あの家の下のこと。

あの家に住んでいた、昔の友人のこと。




何年も会っていない友人のこと、覚えていますか。

最後に会った日の次のこと、知っていますか。

彼らが今何処にいて、何をして、どうしているか。

知っていますか?


いつでもまた会えるなんて、いつまでも暢気に言ってられないんだよ。

人はいつか必ず死ぬ。いなくなってしまう。

わかるでしょ?

それがいつなんて、誰にもわからない。

だから、全部が自分の知らないうちに終わっちゃっていることもあるんだよ。知らなかった。その一言で終わらせられないくらいの後悔を、私は味わった。




ねえ。会いたいなって思う人がいるなら、その人に今すぐ会いに行って。

電話でも、メールでも、手紙だっていい。

その人のこと、少しでも知ってあげられるように努力して。きっと全部は理解できない。だからこそ、わかってあげられるように努力をして。


その人がいなくなってからじゃ、全部遅いんだよ。

その人に「わかってるよ」って言ってあげられるうちに、会いに行ってあげて。

顔を見て、こう言おうよ。




「また、あえたね」













久しぶりに、同級生に会いに行きたくなった。

あの日の後、自分はこうしていたんだよって、話したくなった。

そして、君たちはどうしてた? そう聞きたくなった。







あの子の手に返せなかったバケツが、今日もあの家の門の所に引っ掛けられている。




もう二度と、あの家の呼び鈴を鳴らすことはないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る