第3話



 それからと言うもの、時折僕は授業を抜け出しては、彼女と密会するようになった。

 初めましての少女と、毎回多愛ないどうでもいい事を呟いきあって、過ごしていた。

 彼女との話はとても楽しいものだった。

 また話してみたいと思うぐらい、彼女とは気が合った。好きなアーティストも、好きな本も、似通っていた。

 気付けばお風呂で次の話題を考えるぐらいには、名前も知らない少女に思い入れていた。

 恋とはこういうものなのだろうか。

 でも彼女は結構男慣れしていて、もしかしたら彼氏とかが居るのではないだろうか。

 気になる。

 けど最初に断られた手前、素性については聞きづらかった。


「初めまして」

 その日も屋上にやってきた。

「いっらしゃい」

 いつも通り隣に陣取って、今日の天気を見ていた。

 今日は晴れで、いい天気だと思う。

「そういえば、君はなんで煙草を吸ってるの?」

 君はいつも必ず煙草を吸っている。

「んー、大した理由なんてないよ」

「じゃあ、なんなの?」

「むぅ、突っかかってくるなぁ。本当に大した理由じゃないって。それに面白味もないし、恥ずかしいし」

「気にならない?何かを始めた理由ってなんでも」

「......はぁ、じゃあ笑わない?」

「そんな、聞いておいて笑うなんて酷いじゃなですか」

 彼女は照れくさそうにしながらも教えてくれた。

「初恋の人が吸ってたから。当時はもっと真面目っ子で、その先輩にしつこく勧められたから、吸った」

「へー、初恋ね。へー」

 別に大した事じゃない。初恋の人と言っているという事はあたかも“今は違う”みたいに言っている訳だし。

「それからだったなぁ、堕落の人生」

「そう、なんですか」

「君も吸ってみる?私みたいになっちゃうよ」

「遠慮しておきます」

「真面目だねぇ。サボりとは思えない」

「今は昼休みです!サボってません」

「屋上に無断できてるくせに」

「......ぬぅ」

 耳が痛い話だ。

「じゃあ逆に、君はなんで煙草吸わないのさ」

「体に悪いからですよ。むしろ、よく体の害を考えないで吸えますね」

「あはは。でもさ、いつか人間は死ぬんだし、いつ病気になるかも分からないんだから、別にこの一本ぐらいは良いと思わない?」

「そう言ってもう一本吸おうとしないでくださいよ」

「そういうのはいいから」

 そう言った彼女はその後も、僕が帰るまでに3本も吸っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る