第49話 それぞれの思惑?

 その日の夜……俺は、外に散歩に出かけた。


 頭を冷やす意味もあるし……トシに電話をするためでもある。


「というか……何をどう話せば良いんだ?」


 静香さんの事情を説明するのもアレだし。

 そもそも、俺が静香さんを好きだったことをトシは知らないわけで……。


「えっと……それで、トシは藤本さんが好きなんだよな?」


 藤本さんは、特に好きな人いないって言ってたし……。


「はは……男二人して片思いとか……いや、トシにはチャンスがあるか」


 俺とは違って、振られたわけじゃないし。


「なら、俺にできることは……協力してあげることだよな」


 トシは大事な友達だし、藤本さんも良い子だし。

 といっても、俺にできることなんか対してないけど。

 自分の恋愛すらダメだっていうのに……ハァ。


「よし……俺のこれからの予定がまとまったかな?」


 四人でお昼ご飯を食べつつ、トシをできる限り応援すると。

 そして妹の男避けのために、場合によっては彼氏のふりをすると。

 それが結果的に、一緒にいて不自然じゃないということになるんだっけ?


「そうと決まれば……もしもし?」

『おう、どうした?』

「うん、実は……トシも昼ご飯を一緒に食べないかと思って。その……藤本さんたちと」

『……なにぃ!?』

「うわっ!?」


 耳がキーンってなったよ! 久々だよ!


『す、すまん……』

「い、いや……どうかな?」

『食べるさ! いやー! 良い友達を持った!』

「大げさだなぁ」

『そんなことないぞ? あの美少女に囲まれて食事ができる特権を……そうだな、お前はそういうタイプじゃないか』


 ……そうなんだよね……悲しいことに。

 女子に免疫がなさすぎるし……そもそも、母親のせいで苦手だったし。


「そういうこと。むしろ、俺を助けると思って」

「ははっ! なるほど! わかった、喜んで引き受けるぜ』

「助かるよ。肩身が狭くてさ……教室でも視線がすごいし」

『まあ、仕方ないよな。かたや文系の女神、かたや理系のアイドルときたもんだ』

「……初耳だけど?」


 何それ? あだ名とかついてるの?


『お前は、そういうことに本当に疎いからなぁ……』

「ご、ごめん……」

『いや、それがかえって良かったのかもな』

「どういうこと?」

『中村さんも、藤本さんも……お前には自然体な感じだし。多分、そういったフィルターがかかってないからじゃないか?』


 ……特別扱いしてないってことか。

 まあ、容姿以外は普通の女の子だし……。


「そんなものかね」

『そんなもんだよ。まあ、話はわかった。俺としては願ったりだしな』

「ただ、俺は疎いから……上手く協力できるかわからないけど」

『まあ、そういうタイプじゃないしな。俺も、変に仲を拗らせる気はないから安心しろ。とりあえず……待つのには慣れてる』


 なんだろ? 含蓄があるというか……重みがある感じだ。


「おっ、流石はキャッチーだね?」

『まあ……そんな感じだ』

「それじゃあ、明日からよろしくね」

『おう。あっ、言っておくが……色々とやっかみを受けると思うが、その辺りは俺に任せておけ。伊達に顔は広くねえし』


 ……そっか、そういうこともあるのか。

 あんまりわからないから、ほんと……色々と助かるなぁ。


「うん、ありがとう……トシが友達で良かったよ」

『よせよせ! こっちにだって、利点があってやってるだけだ』

「そのくらいのが信用できるよね」

『……お前も、大分拗らせてるな』

「……自覚してます」


 善意なんて、あんまり信用してない。

 打算があった方が……安心できるんだよね。


『まあ、仕方ないよな。歪むだけのことをされてきたんだ。おっと、話が終わらねえな……そんじゃ、またな』

「うん、また明日」


 そこで通話が切れ……日が沈むのを眺めつつ、公園のベンチに座る。


「はぁ……とりあえず、伝えはしたけど」


 これから、どうなっていくのだろうか?






 ◇


 ……うし!


「おっと……いかんいかん。ここでバレたらどうなるか……」


 今は家族もいるし、我慢しないと……。

 特に……母親にだけはバレるわけにはいかない。


「しかし……なんか、色々と考えることあるな」


 春馬が、中村さんと義兄妹になるとか……。


「まあ、何となく……それだけじゃない気もするが。特に、中村さんの方が……いや、あんまり考え無い方がいいか。人様の家のことに首を突っ込むのはなぁ……俺自身、苦い思い出もあるし」


 それにしても……中村さん伝いで、藤本さんと仲良くなるとか。

 狙ってはいないとはいえ、春馬と友達で良かったぜ。


「藤本さんに……どっかで、話すタイミングを見計らっていたら……いつのまにか、二年生なっちまったし」


 それが、こんな形で叶うことになるとは。


「多分……藤本さんは、俺のことなんか覚えていないんだろうなぁ」


 もう、あれから数年経って……俺の容姿も変わってるし。


「藤本さんは、相変わらず可愛いままだが……」


 まあ、思い出してもらわない方が都合が良いし。


 なにせ……また、邪魔をされるのは勘弁だ。


「また……仲良くなれると嬉しいが」


 とりあえずは、慌てずに行動だ。


 こんな機会なんか、そうそう無い。


 明日から……頑張るとしますか!

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