第48話 困惑
……待て待て、なんと言った?
付き合ってると思われても良い?
考えても……全然、意味わからん。
「……し、静香さん?」
「な、なに?」
「いや、なには……こっちのセリフなんだけど」
「そ、そうよね……えっと、理沙が言うにはね?」
「藤本さん?」
なんだ? あの子はなにをしたいんだ?
「ええ……私は再婚したことを知られたくないわ。そもそも、離婚したことも……お母さんとか、お父さんが嫌ってわけではなくて……」
「うん、それはわかるよ。色々と言われちゃうだろうね。人って、他人事だと思うと……ひどく残酷になるから」
俺も、それはよく知っている。
有る事無い事、好き勝手に言い……責任も取らない。
残るのは、傷ついた心だけだった……。
言ったやつらは、覚えてもいないだろうけどね。
「兄さん……そうなのよね。言ったことが捻じ曲がったり、違う風に解釈されたり……勝手に同情したりするわ」
「まあ……ね」
「は、話がずれちゃったね……つまりは、兄さんと付き合ってると思われても良い……親が再婚したと言われるよりかは。別に彼氏彼女くらいなら、そんなに言われないもん」
……えっと、つまり……なんだ……?
「……俺と一緒にいても違和感のない理由ってこと?」
「そ、そう! そういうこと! それに、ずっと別々に家を出たり、別々に帰ったりしてるでしょ? 兄さん、いつも遅刻ギリギリだし……」
「まあ、そうだけど……」
なるほどねぇ……まあ、付き合ってたら一緒に遊んだりしても不自然じゃないか。
それこそお昼ご飯を食べたり、一緒に登下校したり……。
……いやいや! やっぱりおかしいって!
「それとも……好きな人でもいるの?」
「……はい?」
いや、貴女ですけど?
「だったら、悪いからやめとくけど……」
「いや、俺としては困ることはない……かな?」
別に彼女が欲しいわけでもないし……。
「そ、そうなんだ……」
「それよりも、静香さんの方が困らない?」
「私は好きな人……今のところいないし。あと、自分で言うのも何だけど……よく、告白されちゃうから」
「あぁーなるほどねぇ……断るのも大変だよね」
俺を断るのだって、相当大変だったはずだし……。
色々と気苦労をかけたに違いない。
……なら、それを助けるのも良いかもしれない。
俺も、どっちにしろ……しばらく恋愛するつもりもないし。
「そ、そうなの……べ、別に公言する必要はないんだけど!」
「わかってるよ。あくまでも、聞かれたら答えるってことね」
「う、うん……じゃあ、そういうことなんで……」
「うん? 何の話をしてたっけ?」
色々と衝撃が強くて、なにがなんだかわからない……。
「だから……お昼ご飯を、一緒に食べようってこと」
「ああ、なるほど……うん、わかった。ただ、トシがさぁ……」
あいつは友達多いけど、昼飯だけは俺と食べてくれてた。
きっと、俺がぼっちにならないように……。
そんなこと一言も言ったことないけど……感謝してるんだよなぁ。
「そういえば、いつも一緒に食べてたね……鈴木君も一緒に食べたら?」
「へっ?」
「そうすれば、二対二になるし……兄さんも、変に思われないんじゃないかな」
「グループってことか……まあ、確かに男一人は辛いかなぁ」
「じゃあ、鈴木君に確認とっておいてね?」
「わ、わかった」
なにもわかってないけど……何やら、有無を言わせぬ迫力がある。
なんだ? この短期間で何かあった?
誰か……状況を説明してくれ!
◇
……さ、作戦成功かな?
兄さんが自分の部屋に入ったことを確認した私は……。
ベランダに出て、電話をかける。
「も、もしもし?」
『ヤッホー、どうだった?』
「と、とりあえずは成功したかな?」
『そっかぁー! 良かったね! 後は、色々と確かめないとね!』
この提案は、理沙がしてくれた。
私が兄さんを好きだとして……。
でも、そのためにはいくつもハードルがあるってことを……。
「う、うん……まずは、自分の気持ちだよね?」
『そうだよねー。別に付き合うことは悪いことじゃないと思うけど……義理の兄妹だからね〜。付き合いました……はい、別れましたとはいかないもんね』
そう……理沙に言われる前から気づいていた。
仮に付き合えたとして……それで、終わりじゃない。
むしろ、そこからが大変だということを。
「つ、付き合ったからには……その、最後まで覚悟しないとだよね?」
『多分ね〜。親には内緒にしといて……まずは、双方の気持ちを確認しないとねー』
兄さんの気持ちと、私の気持ち……その両方がないとダメってこと。
だから、お母さん達には言えない……。
「に、兄さんの気持ちはどうやって? 私、一回ふってるし……」
『まあ、私のこと好きとか聞けないよね〜。そこで——私の出番です!』
「へっ?」
『ふふふ、この理沙ちゃんに任せて!』
「ふ、不安だわ……」
『そんじゃ、とりあえず作戦を考えておくね!』
「ちょっ!? 理沙!?」
私の言葉も虚しく……通話が切れる。
でも……もう、後にはひけない。
自分の気持ちと、兄さんの気持ちを確かめないと……。
まずは、それからだよね。
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