第47話 絡まる

 テスト明けから翌日……。


 いつもと違う日常が始まる。


「はい、兄さん」

「あ、ありがとう」

「べ、別に普通だからね?」

「うん、平気だよ。料理上手なのは知ってるし。いつも美味しいからね」

「……ありがとう」


 おお……照れてる。

 いやいや……可愛いとか思ってる場合か。


「そ、それより、親父達は?」

「うん、喜んでくれたよ」


 実は昨日の夜に、この際だから四人分のお弁当を作ると言い出した。

 親父と由美さんは心配したけど、本人の意思を尊重するということだった。


「泣いてなかった?」

「……少しだけ」

「なんか、すみません」

「ううん、嬉しかったから。良いお父さんだね?」

「まあ……うん、そうかも」


 きっと嬉しかったのは、想像がつくなぁ……。

 俺だって嬉しいし……手作りのお弁当なんて、作ってもらったことないもんなぁ。






 その後、別々に家を出て……いつも通りに学校に到着する。


「おっす、春馬」

「おはよ、トシ」

「全く、初日くらい休ませてくれも良いってのに」

「あれでしょ? なんか、身体が鈍るって……」

「そうそう、先生も休みにしてあげたかったらしいけどな。一週間も休むと、身体が動かないこと。だから、仕方ないのはわかってるさ」

「運動かぁ……」


 俺も、少しはした方がいいかな?

 走るのは嫌いじゃなかったけど……。

 母親に……『一番になれないのに意味あるの?』とか言われたからなぁ。

 ……もう、いい加減にやめるか。

 親父も、新しい奥さんが出来たわけだし……前に進むとしますか。





 その日のお昼休み……。


「きたよ〜!」

「藤本さん?」


 テスト期間中は来なかったから油断してた!

 もう、来ないもんかと……。


「さあ、いこー!」

「わ、わかったから」


 また、いつものように連れ出されるかと思っていたら……。


「り、理沙?」

「ん? どしたの?」

「コホン……迷惑かけちゃダメよ。篠崎君は人が良いんだから」


 ……どういう状況だ?

 何故か、静香さんが引き止めている……。


「そうなの?」

「い、いや……迷惑ってこともないけど」

「ほら、平気だって」

「理沙、そう答えるしかないでしょ」

「じゃあ、静香も食べよー!」

「え、ええ……仕方ないわね」


 ……ん? 何が?

 待て待て……状況が飲み込めない。


「ほら、いこー!」

「な、何が?」

「早くしないとお昼休み終わっちゃうよー!」

「いや……もう良いや」


 状況が飲み込めないまま、俺は藤本さんに連れ去られるのだった……。






 ……何これ?


「それでね!」

「そうだったのね」

「あのね!」

「はいはい、わかったから」


 ……ベンチを挟んで、隣には美少女が二人。

 狭いので、色々と当たりそうなんですけど……。

 ほのかに香る甘い匂いがして……飯を食うどころじゃない。


「篠崎君、ごめんなさい」

「えっと……中村さんで良いんだよね?」

「ええ、平気よ」

「変な二人〜……そっか、バレちゃまずいのか」


 ……だから、何この状況。

 お願い、誰か説明をしてくれ……!

 ……仕方がない、自分で解明するしかない。


「藤本さん、何が目的なのかな? この間は、お弁当がどうとか言ってたけど」

「だって、みんなの前で一緒のお弁当じゃ変じゃん」

「なるほど……」


 教室で食べたら……確かに目立つか。

 何より、普段は惣菜パンを食べてるわけだし。


「でも、一緒である必要なくない? 俺は階段脇とかで……」


 というか、トシのこともあるし……変な勘違いはしないけど、良い気分はしないだろうし。


「篠崎君は、一緒は嫌かな?」

「そうだそうだー! 美少女二人に囲まれて何が不満だ!」

「えぇ……いや、不満はないけどさ」

「なら、良いじゃん」

「うん、そうね」


 ……何も良くないけど?

 周りの人たちが、めちゃくちゃ見てるけど?

 静香さん? どういうつもり?

 ……これは、帰ったら聞かないとなぁ。





 教室に戻ると……トシに肩を叩かれる。


「おい、春馬」

「トシ、ごめんな」

「いや、良いってことよ。ただ、どうなってんだ?」

「俺にも何が何だかわからない……」

「そっか……大変だな、お前も」


 そこで静香さんも戻ってきたので、話を終え……普通に授業を受ける。

 もちろん……みんなからの視線は、知らないふりをしましたとさ。

 こういう時は、友達いないと助かるよね!

 ……だめだ、情緒不安定だ。





 学校が終わったら、すぐに家に帰り……。


「た、ただいま」

「お、お帰りなさい」


 玄関では……何故か、モジモジしている静香さんがいた。


「どうしたの?」

「お、怒ってる?」

「へっ? い、いや……怒ってはいないかなぁ」

「ほっ……良かった。とりあえず、お話しましょう」


 ……どうやら、何か理由があるらしい。




 手洗いうがいを済ませたら、リビングのソファーに座り……。


「それで?」

「えっと……私と兄さんってバイト先も同じじゃない?」

「そうだね」

「買い物もしてるし、ゲームセンターとかも行ってるよね?」

「……そうだね」

「普段から、ある程度仲良くしてれば……万が一見られても変に思われないかなって」

「なるほど……言い訳が立つってことか」


 確かに、嘘をつくなら……少しの真実を混ぜるっていうし。

 普通に仲良くなったことにするってことか。


「そ、その……例えばよ?」

「うん?」

「つ、付き合ってるって思われても良いかなって」


 ……はい?


 俺の頭は限界値を超えて……目眩がしてきた。


 何がどうなってるの!?



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