第40話 静香視点

 もう! 相変わらずなんだから!


「ちょっと、理沙! 勝手に来ないでよ……私、まだ慣れてないんだし。店の人だって迷惑じゃない」

「ごめんねー? でも、九時以降なら平気かなって。あと、慣れない静香を見たかったし」

「全く……一人で来たの? 危なくない?」

「ううん、流石にねー。この辺りは暗いしひと気もないし……何故が、この制服を着てると絡まれないって都市伝説はあるけど」


 きっと吉野先生のことだわ。

 兄さんが言ってたけど、この辺のそっち系の人の間では有名人らしいし。


「じゃあ、どうしたの?」

「お父さんが送ってくれたよー。一時間くらいなら待つって」


 理沙のお父さんは、いわゆる激甘というやつだ。

 一人娘である理沙が可愛くて、ある一つを除いて言うことを聞いてくれるらしい。

 いつも羨ましいなって思ってだけど……本人は少し困ってるみたい。


「そっか……」

「ねえねえ、静香ちゃんも上がんないと」

「麻里奈さん。そ、そうですね。じゃあ、少し待ってて」

「うん、そうするー」





 私が裏に行った時、すでに兄さんはいなかった。


「ど、どうしよう? なに話すの? というか、早く着替えないと……」


 先に着替えた兄さんに、あの子が迷惑をかけてないと良いけど……。





 急いで着替えた私は、友野さんに挨拶をして……表から店に入る。


 そこで、目にしたのは……兄さんと至近距離で見つめあってる理沙の姿だった。


「な、なにをしてるの!?」


 考えるより先に、私は理沙を後ろから引っ張っていました。

 べ、別に……仲よさそうに見えたからじゃないもん。




 その後会話をしつつも、私はヒヤヒヤしていました。

 この子は何を言うのか……そして、食べ終わると……。


「ご馳走さまでしたー! 美味しいね!」

「うん、食べやすいわ。女性向けに細麺のラーメンもあるし」

「結構女性のOLさんとかもくるよ」

「へぇーたまに食べに来ようかな」

「ああ、いつでもどうぞ」


 あれ? なんか……距離感近くない?

 理沙がタメ口なのは良いとして、兄さんもタメ口だわ。

 兄さんって割と敬語で、仲良くならないとタメ口にならないと思ってたけど……。


「むぅ……」

「ねえねえ、彼女はいるの?」

「へっ?」

「ちょっと!?」


 な、何を言い出すの!?


「い、いや……残念ながら、一度もいたことないかな」

「そうなんだー。好きな人はー?」

「うーん……いないと言っておく」

「なるほどなるほど〜」


 あまりの展開の速さと質問内容に、私は呆然としてしまいます。

 でも、このままではまずいと思い……。


「さ、さっきから何を言ってるの!?」

「うん? 質問タイムだよ? だって、彼女とか好きな人いたらまずいじゃん」

「な、なにが?」

「仲良くなったら悪いと思って。そういうわけで、ぼっち同士仲良くしようね!」


 理沙ったら……どういうつもりなのかしら?


「多分、藤本さんとは種類が違うと思うけど?」

「そんなことないよー。私も彼氏いないし、好きな人もいないもん」

「まあ……良いや」

「そうそう、人生は諦めが肝心だよー」

「……面白い人だね」


 に、兄さんが笑った!?

 ほ、本当にどういうつもりなの?

 理沙の考えがわからず、私の心は騒めくのでした……。






 その後も、理沙は止まらず……。


「静香ってばねー。男子と一言も口をきかないの」

「へぇ、そうなんだ」

「ちょっと、もう良いでしょ。私の昔の話なんて……」

「だって〜静香が、こんなに男子と話すなんてみたことないから」


 そ、そりゃ……兄さんが初めての人だけど。

 優しいし、真面目だから……つい、安心しちゃって。


「まあ、一応兄さんだからね」

「ふーん……ムラムラしたりしないの?」

「「なっ!?」」


 理沙は、私達にしか聞こえない声で呟きました!

 というか……な、なんて事聞くの!?


「あわ……あぅぅ……」


 何か言おうとしたのに、言葉が出てこない……!


「なるほど……それはもっともだね」

「うん?」

「いや、親友として心配なのは当たり前だよな。そうだなぁ……全くしないといえば、嘘になるかな」


 そ、そうなの!?

 でも、何だろ……嫌じゃない。

 兄さんも、まだ私のこと好きなのかな?

 それとも、ただの一般論として?


「へぇ、正直だね〜。まあ、こんな可愛くてスタイルの良い女子がいてしなかったら、それはそれで問題あるよね。このおっぱいは破壊力抜群だし」

「理沙?」


 ちょっと、いい加減黙らせないと。


「おっと……そろそろ怒るから、この辺にしとこうかな」

「もう、とっくに怒ってるわよ?」

「ごめんってば〜」

「静香さん、仕方ないよ。静香さんみたいな可愛い女の子が、男と暮らしてたら心配になるのも当然だし」


 ……か、可愛い?

 い、今、可愛いって言ったの!?

 は、初めて言われたかも……。


「あぅぅ……」

「……あっ! 違くて! 今のは一般論だから!」

「ふむふむ……なるほどなるほど〜。まだ検証が必要かなぁ」




 その後、十時になったので、理沙は帰っていき……。


「友野さん、騒がしくしてごめんなさい」

「良いってことよ。懐かしい風景にほっこりしたくらいだ」

「えっと?」

「いや、そのうちな。ほら、高校生は帰んな」

「は、はい。お疲れ様でした」

「店長、お疲れ様でした」





 二人で自転車に乗って、家路を急ぐ。


 そして、信号待ちで止まって……。


「兄さん、ごめんなさい」

「何も謝ることないよ。いつでも連れてきて良いからね」

「あ、ありがとう」


 それは理沙が気に入ったってこと?


 嬉しいような……複雑な気持ち……。


 私って、自分勝手な性格なのかなぁ。


 はぁ……あんな人にはなりたくないのに。

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