第39話 義妹の友達

 二人で自転車を走らせ、バイトに向かう。


 並んで走るわけでもないし、人目を気にする必要もない。


 それに、いざとなればバイトが同じだと言えば良いだけだ。




 俺たちは少し早めに来て、店の裏口に入る。


「店長、おはようございます」

「友野さん、おはようございます」

「おう、お二人さん。悪いな、休み明け早々から。というか、静香さん……友野さんか」

「だ、ダメでしたか?」


(そういや、店長の名前って友野英二って言うんだっけ? もう、俺の中では店長って呼ぶのに慣れちゃったしなぁ)


「いや、好きに呼んでくれて良い……少し懐かしくなっただけだ」

「懐かしいですか?」

「ああ、春馬が誰からの紹介でバイトをしてるのは……?」

「あっ、はい、聞いてます。確か、吉野先生の紹介だって……」

「なら問題ないな。昔一緒に働いている時、あいつが俺の事を友野さんって呼んでいてな。今では名前で呼ばれたり、バイトの子には店長って言われるからな……」


(確か、以前店長が働いていたラーメン屋で、吉野先生がバイトしてて……その頃からの付き合いだって言ってたね。おっと、話し込んでる場合じゃない)


「店長、先にこれを」


 持ってきた袋を手渡す。

 中身は、温泉饅頭と御当地限定物だ。


「ん? おお、悪いな。なるほど、だから早めに来たのか」

「はい。じゃあ、静香さん」

「うん、着替えてくるね」


 先に静香さんを更衣室に送り……。


「どうやら、上手くやってるようだな?」

「へっ? そうだと良いんですけど……」

「ふむ……もし俺でよかったら、いつでも相談に乗る」

「えっ?」

「バイト同士の問題を解決するのも店長の仕事だしな……といっても、前の店の店長の受け売りの言葉だが」


 照れ臭いのか、それだけ言って厨房に入っていく。


(不器用で不愛想だけど、良い人なんだよなぁ)





 その後、俺も着替えを済ませ……。


「じゃあ、今日は一通りやってみようか? レジ以外は習ったよね?」

「う、うん……」

「大丈夫だよ、研修バッチついてるから。それに……俺もいるし」

「あ、ありがとう……うん、頑張る」





 その後、六時を過ぎてお客が次々とやってくる。


「いらっしゃいませー!」

「何名様でしょうか?」

「はい、ではカウンター席にお座りください」


 俺は洗い物やレジをやりながら、静香さんの様子を見る。


(うん、問題なさそうだね。まあ、元々器用なタイプだし……俺なんか、すぐに抜かされてしまうかも。というか、人気で言えばすでに抜かれている)


「にいちゃん、随分と別嬪さんが入ったね」

「この店の女の子は、みんな可愛くて良いね」

「礼儀正しいし、娘に欲しいくらいだ」

「いやいや、うちの息子の嫁に……」


 とまあ……会計をしていると、こんな事を言われる。


(なんだ? この複雑な気分……俺の妹はやらん的な? いや、違うか)




 そしてピークが過ぎて、九時前を迎えると……。


「ヤッホー」

「理沙!? あ、あれ!? 今日来るって言った!?」

「ううん、言ってないよー。サプライズってやつ!」

「も、もう! 相変わらずなんだから!」


(ん? あれが理沙って子か。随分と元気な子なんだな)


 茶髪のポニーテールで、小柄な体型の可愛らしい女の子だ。


「春馬君! お疲れ様!」

「あっ、麻里奈さん」

「九時だから上がってだってさ」

「わかりました。じゃあ、上がりますね」


 麻里奈さんは静香さんの方に行き、何やら三人で話している。


(ということは、友達と食べる感じか。じゃあ、俺は離れた位置で食べるか)


 店長に注文してから、着替えを済ませ……店の表から入り直す。


 すると、奥の席から声がする。


「ヤッホー! 篠崎君!」

「や、ヤッホー? 藤本さんだっけ?」

「うん、そうだよ! ほら! こっちこっち!」


(カウンターの端っこで食べるつもりだったけど……仕方ないか)


「ほら、座って!」

「えっと……静香さんは?」

「今、着替えてるよ。まあまあ、座ってよ」

「は、はぁ……わかりました」


 押しが強いので、諦めて対面に座ることにする。


「へぇ〜これがお兄さんかぁ」

「どうも、はじめまして。篠崎春馬です」

「あっ、そうだったね。静香の友達で、藤本理沙です。ヨロシク〜」

「よ、よろしく」


(知らない女子と会話とか……無理ゲー過ぎる。しかも、可愛いし)


 静香さんとはタイプは違うが、モテるタイプだと思う。

 くりくりした大きな瞳で、元気っ子の雰囲気があるし。


「ふーん……普通の男の子だね」

「そりゃ、そうですよ」

「タメ口でいいよー、同級生なんだし」

「わかり……わかったよ」


(わかっていない……可愛い女子にタメ口を聞く難易度を……)


「そうそう。それにしても……」

「な、なに?」


 身体を前に出して、俺の顔をじっと見つめてくる。


「篠崎君……何処かで会ったことある?」

「へっ? いや、俺は覚えがないけど……まあ、同じ学校だし」

「うーん……いや、もっと前に見た覚えが……」

「ちょ、ちょっと!? なにしてるの!?」


 後ろから静香さんが現れ、藤本さんを引っ張る。


「あっ、おつかれさん」

「ありがとう……じゃなくて、なにをしてるの?」

「あらら〜嫉妬? お兄さんは私の的な?」

「ち、違うわよ……」


(へぇ……静香さんが素の表情だ。タイプが違うけど、仲が良いのは本当らしい。なら、俺も頑張らないといけないや)


「そうなの?」

「もう、兄さんまで……」

「へぇ……ふむふむ、ノリも悪くないと……良い人そうだね」

「兄さんは優しい人なんだから気を使わせないでちょうだい」

「はいはーい」


 その後、席に着くと……。


「あいよ、お待たせ」

「ありがとうございます」

「友野さん、すみません……」

「良いってことよ。友達が心配で来てくれたんだろ?」

「はい!」

「なら、仕方ない。ほら、さっさと食って帰んな」


 それだけ言って、去っていく。


「へぇ、良い人だね?」

「うん、そう思う。少し厳しいし怖そうだけど、きちんと話を聞いてくれる感じかしら?」

「ああ、それはわかる気がする」

「そういう大人の人って貴重だよねー」


 そこで会話を終わりにして、ラーメンに集中する。


(うん、相変わらず美味い……が、目の前で美少女がラーメンをすすっている……彼女いない歴=人生の俺にはきつい)


 というか……なにしに来たんだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る