第38話 休み明け
その日の夜、俺が帰ってくると……。
リビングに、三人が揃っていた。
「おっ、帰ったか」
「親父達も帰ってたんだ。お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「兄さん、お帰りなさい」
「春馬君、ご飯買ってあるからね〜」
「ありがとうございます」
席について、マッ○を食べる。
「うわぁ……」
「うん? 何か感動するところあった?」
「こ、こういうのって、食べる機会がなくて……」
「ああ、なるほど」
(一人じゃ入り辛いし、意外と値段も高いか。吉野先生は、自分が若い頃はハンバーガー六十円の時代もあったとか言ってたけど……)
「そうなのよね〜。買うときも……四人分で三千円以上しちゃうから、夕飯三食分って考えちゃったわ」
「由美さん、それくらいは気にしないでって言っただろ?」
「ふふ、そうだったわね。散財はしないけど、あまり節約し過ぎないようにするわ」
「旅行中もさ、俺が買うっていうのに遠慮するんだよ」
「だって……お土産屋さんって高いんですもの」
俺と静香さんは顔を見合わせて……微笑む。
口調がフランクになって、空気感が少し違う。
どうやら、二人きりにさせて正解だったらしい。
そして、話題は変わり……。
「そう言えば、中間テストが近いのか?」
「あら、そうよね。でも、二人とも成績良いから安心ね」
「俺は静香さんほどじゃないけどね」
「そんなことないわよ。私は時間があったから、兄さんより勉強してきただけ」
「バイトはどうするんだ?」
(バイトか……去年は普通に働いてたな。今年はどうするかね)
「兄さんは?」
「俺は……やるかな。まだ受験ってわけでもないし、俺は推薦組には入らないだろうし」
「部活も生徒会とかもやってないもんね。私は国公立の学校を目指してたから……」
「静香ちゃん、お金のことは気にしなくて良い」
「お父さん……でも、私立は高いって……」
「もし、やりたいことがあるならそれも良い。でも、お金のことは本当に気にしなくて良いから。それくらいの稼ぎはあるつもりだよ」
(親父……なんだよ、かっこいいじゃん)
「あ、ありがとうございます……少し考えてみます」
「智さん、ありがとう」
「い、いやぁ……まいったな」
「親父、俺もありがとう。当たり前に私大に行かせてくれて」
「おいおい、お前まで……うん、お父さん頑張るよ」
(良かった……これで、徐々にだけど家族になっていけそうだ)
◇
翌朝から、学校が始まり……。
何とか遅刻せずに学校に到着する。
「あ、あぶねー」
「おっ、間に合ったな」
「トシ……お前目の下真っ黒だぞ?」
「朝練があったからよ」
「おい? 聞いてないぞ?」
(おいおい、昨日の夜遅くまで、オンラインでゲームを一緒にやっていたのに)
「悪い悪い、言うと気を使うと思ったからよ。久々にお前と遊んだら楽しくてな」
「……すまん」
(そうだ……俺は再婚のことや、色々あったから断ってたんだ)
「別に謝ることなくね? 仕方ねえし」
「そっか……ありがとな」
「気にすんなって。それより親友よ……テスト勉強どうする?」
「その言い方……勉強を教えろって言うんだろ?」
「正解だ。赤点取ると、大会に出れないんだよ〜!」
(……まあ、詫びする意味でも付き合うとするか)
「良いよ、付き合うよ。ただ、俺もバイトあるし」
「まじか!? いやいや! それで十分だ! じゃあ、またお前ん家でいいか?」
「うん?」
(……そういや、静香さん相談するの忘れてた)
「まあ、由美さん……母さんに聞いてみるから少し待ってくれ」
「おっ、それもそうだな」
ひとまず話は終わり、ホームルームが始まる。
「さて、ゴールデンウィークも終わりだ。気が緩んでいるお前達には、中間テストという試練が待っているな」
「うげー!」
「やべ!」
「全然やってないよー!」
「まあ、勉強が全てなんていうつもりはないが……いざ自分がやりたいことが見つかった時に、後悔しないためにやっておくことをオススメしておく」
(相変わらず、こういう上手いことを言うんだよなぁ……俺も、それに乗せられたっけ)
そして学校が終わって、家に帰ると……。
先に帰っていた静香さんが、玄関で待っていた。
「兄さん……少し良い?」
「ああ、もちろん。俺も聞きたいことあったし」
手洗いうがいをして、着替えたら……リビングのソファーに座る。
「あのね……理沙にね、兄さんのこと言っちゃったの……ごめんなさい」
「えっ? ……いや、俺は全然構わないよ。静香さんが良いと思ったなら、好きにして平気だよ」
「えへへ、ありがとう」
(だから、いちいちときめくなよ……俺の心臓)
「その、あれだ……その代わりってわけじゃないけど、俺もトシにだけは言いたいんだけど……いいかな?」
「鈴木君ね? ……そうよね、不公平だもの。最初の取り決めもそうだったし……うん、あの人なら平気そうね。何より、兄さんが信用してるから」
「まあ、あいつは平気だよ。俺の家のことも知ってるけど、それを言いふらしたことはないし。むしろ、よく味方になってくれたから」
親が離婚した時に、あいつが言ってくれた。
身勝手な母親を持つと苦労するよなって……。
詳しいことは聞かなかったけど、多分……トシにも何かあるんだろうな。
そのうち、聞いてあげられたら良いけど。
「そうなんだ? 実は、私の方もそうなの。理沙がね、親は選べないから大変だよねって……あの子も、色々あるみたい」
「へぇ? 言わないだけで、みんな色々あるんだろうね。自分だけが不幸とか思ってだけど……そんなわけないよな」
「うん、今ならわかるわ。さて……じゃあ、行こっか」
「そうだね」
俺達は準備をして、バイトに行くのだった。
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