第37話 ~静香視点~
夕方頃に買い物を済ませて帰ってきたけど……。
兄さんの様子が変……。
珍しく自分の部屋じゃなく、リビングにいて……。
私のことをチラチラ見てくる……。
(別にやらしい視線じゃなくて……戸惑い? 何か聞きたいことでもあるのかな?)
「兄さん、何か用?」
「い、いや! なんでもない!」
「そ、そう?」
(とても、そうは見えないけど……目が泳いでいるし)
「まだご飯できないよ?」
「へっ?」
「お腹が空いたんじゃないの?」
「そ、そうなんだよ! な、何か食べようかな!」
「ダメよ、そんなことしたら夕飯が食べられないわ」
「そ、そうだよな! 俺——ちょっと走ってくる!」
「に、兄さん!?」
兄さんは慌てて、家から出て行った……。
「な、なんだろ? 友達がきたって言ってたけど……何かあったのかな?」
(確か、鈴木俊哉君だったよね……?)
「あれ? そういえば、初めて同じクラスになったけど……何処かで聞いたような?」
(何処で聞いたんだろ? ……思い出せないや)
その後、兄さんが帰ってきて……。
夕飯を食べたけど、相変わらず様子は変だった。
(ずっと挙動不審というか……心ここに在らずって感じかな?)
「兄さん、聞いてる?明日、理沙がくるからね?」
「……うん? あ、ああ、わかってる。じゃあ、俺は朝から出掛るよ」
「ごめんなさい、兄さん」
「いやいや、お互い様だよ。ご、ご馳走さまでした!」
そう言って、自分の部屋に帰ってしまう。
(……私、何かしちゃったかな? 好きかもしれないのがバレたとか?)
「ど、どうしよう? ……明日、理沙に相談してみようかな」
◇
翌朝……。
「兄さん、夕飯はカレーで良い?」
「ああ、良いよ。無理しなくて良いからね?」
(ほっ……いつもの優しい兄さんだわ。これなら相談しなくても良いかも)
「うん、そうするね」
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
兄さんを見送ると同時に……ラインがくる。
『ヤッホー! 今から行って良いー?』
『良いわよ』
『アイサー!』
(相変わらず、軽いというか元気というか……だからこそ、救われる部分はあるけどね)
そして、三十分くらい待つと……。
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃい」
「うわぁ……綺麗なお家だね!」
「私もそう思う。未だに……夢なんじゃないかって」
(兄さんと父さんには言ってないけど……お母さんとは、最初に話した。こんな良い家に住めるなんてって……私達は、普通のマンションすら住めなかったから)
「ありがたいね!」
「ええ、本当にそう思う」
「あのアパートじゃ、高校生の女の子一人じゃ危ないから心配だったもん」
「ふふ、よく泊まりに来てくれたよね?」
「そりゃね、色々と心配だったし」
そんな会話をしつつ、部屋に案内する。
「そういえば、篠崎さんっていうんだ?」
「ええ、私は変えてないけど……」
「まあ、女子は面倒だしね。それじゃ、男子の方が篠崎……篠崎?」
何やら、理沙が首を傾げている。
「どうかした?」
「どっかで聞いたことあるような……うーん……思い出せないなぁ」
(あれ? 中学も違うし、校舎も違うから知らないと思うけど……)
「き、気になるの?」
「へっ? ……あっ! そういうんじゃないよ! 大丈夫だよ〜とったりしないから」
「そ、そんなこと……うぅー……」
「あらま〜……一つだけわかったけど」
「な、なに?」
それまでのおふざけが一転して、急に真面目な表情になる。
「静香、アンタ……多分、彼のこと好きだよ」
「……へっ? な、なんで?」
「だって、見たことない顔してるもん」
「そ、そうなの?」
「うん。私に気になるのって聞いたとき……凄いエロい顔してた」
「ふえっ!? な、なに言うのよ!?」
(そ、そうなの!? そんな顔してるの!?)
「冗談だよ〜ただ、物凄く可愛い顔してたよ」
「も、もう! ……やっぱり、そうなのかなぁ?」
「私はそう思うけど……あとは、二人でいるところを見たいけど」
(ど、どうしよう? 兄さんがいるときに、家にあげるのはハードル高いし……あっ)
「じ、実は……兄さんと同じところでバイトも始めてて……」
「えっ!? 初耳だよ!!」
「ご、ごめんなさい。その……続けられるかわからなかったから」
「あぁーなるほど……うん、それはそうかも。てことは……」
「ええ、続けられそうなの」
(兄さんがいるし、店長さんも良い人だし、女の人も優しいし)
「そっか、そっか……良かったね。バイトはしたいって言ってたもんね。何処でやってるの?」
「ら、ラーメン屋さん……」
「……はい? 可愛いカフェとかじゃなくて?」
「え、ええ……」
「意外……男多くない?」
私は、その店について軽く説明をする。
「なるほど……女性従業員も多いし、変なのは出禁にしてくれるなら安心だね」
「ええ、みんなも言ってたわ」
「じゃあ、今度食べに行くね!」
「う、うん……頑張る」
すると、真面目な顔が崩れて……。
「ふふふ……この私が静香に相応しいか確かめてやるのさ!」
「ちょっと!?」
「えい! このお胸は私のだ!」
「きゃっ!? ち、違うわよ!」
いつものように飛びかかってくる理沙とじゃれあい……思う。
心配してくれる友達がいるって幸せなことなんだなって。
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