第32話 恋人デート?
食事を終えたら、一度ホテルに戻って商店街を歩く。
俺たちは、親父と由美さんを二人きりにするため、別行動をとる。
「ふぅ……これで良しと」
「ふふ、そうね。二人して、私達と一緒にいようとするのよね」
「親父達も気にしなくて良いのになぁ」
(元々、二人で行かせる予定だったし……まあ、それはそれで俺の精神が死ぬけど)
「そうだね。家だと二人っきりには中々なれないもんね」
「そういうこと。だから、旅行くらいは気を使わなくて良いんだよ」
「ところで……兄さん、あれって何?」
静香さんが指差す店の中には、とある台が置いてある。
(というか……あそこってもしかして……)
「ん? ああ、スマートボールだね」
「……すまーとぼーる?」
静香さんが、首を傾げながら棒読みで言う……可愛いんですけど?
「あぁー……やってみる?」
「子供でもできるの? あれ、パチンコみたいだけど……」
「ププッ!? へ、平気だよ……あははっ!」
「兄さん?」
冷たい視線が、俺に突き刺さる。
「ごめんなさい」
「むぅ……笑うことないじゃない」
「すみません」
「もう、良いわよ。ほら、いこ」
ひとまず中に入り、席に着く。
すると、腰の曲がったお婆さんが話しかけてくる。
「あら〜随分と若い子が来たわねぇ〜」
「こ、こんにちは」
「どうもです」
「……春馬君かい?」
「お久しぶりです、中田さん」
(道理で見覚えがあるわけだ。幼い頃、爺ちゃんに連れてってもらった店だ)
「知り合いなの?」
「どうやら、小さい頃に来たことある場所だったみたい」
「もう、八年くらい前かねぇ……あの子が、彼女を連れてくるなんて」
「か、か、彼女!?」
(なんつーことを言うんだ!?)
「そう見えますか?」
「ああ、お似合いじゃよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「へっ?」
(ドユコト!?)
「ちょっと、まっとてえな……確か……」
中田のお婆さんは、棚から何かを探している。
その隙に……耳打ちをする。
「ど、どういうこと?」
「お婆さんは、色々な事情を知ってるの?」
「……知らないや。爺ちゃんが死んだことも、親が離婚したことも……」
「なら、このままが良いわよ。気を遣わせちゃダメよ」
(静香さんの言う通りだ……)
「それもそうだね。やっぱり、静香さんは優しいね」
「そ、そんなことないわ……」
「おやおや、若いもんは良いわねぇ」
俺たちは、今更ながら接近し過ぎてたことに気づく。
「っ〜!」
「ご、ごめん!」
「う、うんん……」
「初々しいねぇ……これ、春馬君じゃけえ?」
そこには、小さい俺と生前の爺さんがいた。
「わぁ……可愛い」
「ど、どうも……」
「そうねぇ……せっかくだから……ほら、おふたりさん」
いつの間にか、カメラを構えた中田さんがいる。
「えっと……?」
「ねえねえ、撮ってもらおうよ」
「えっ!?」
「ここなら、誰もいないし……思い出になるかなって……お婆さんのね?」
(そ、そういう意味かぁ……びっくりした)
「そ、そうだね」
「ほら、おふたりさん、もっとくっついて」
「は、春馬君——えい!」
「はい? っ〜!?」
(なんで名前!? なんで腕を組んでるの!? うわぁ……なんだ、これ……柔らか)
「はい、チーズ……もう一枚……はい、チーズ……じゃあ、現像してくるけえ。適当に遊んでてなー」
そう言い、中田さんは店から出て行く。
「な、何を?」
「だ、だって……恋人だって思ってるんだから」
「そ、そりゃ……そうだけど」
「なに? 私じゃ不満?」
「ええっ!?」
「ふふ、冗談よ。それで、どうやってやるの?」
(なんなんだ!? さっきから!? 何か起きてる!?)
好きな子が甘えてきたり、好きな子が腕組んできたり……俺、死ぬのかな?
いや、それとも、夢? いや、そうに違いない。
「そうか、俺はまだ起きてないんだ」
「兄さん? 聞いてるの?」
「イタイ!?」
どうやら、ほっぺをつねられたようです……あれ? 痛い?
「夢じゃないのか……」
「なに言ってるの? ほら、教えて」
「あ、ああ……」
お金を入れると、上の台からビー玉が流れてくる。
「そのレバーを引いて、球を弾くんだよ。こんな風にね」
俺がレバーを引いてから離すと、球がピンボールのように飛んで、打ち込まれたネジに当たりながら下に落ちていく。
「十とか五とか書いてあるでしょ? それに球が入ると、その分の球が出てくるから」
「へぇ……面白そう」
「だいぶ、古いゲームだからね」
そこからはレバーを引くスコーン言う音と、ガラガラというビー玉が流れてくる音と……。
「あぁ! もう少しだったのに!」
「むぅ……! なんで、入らないの!?」
「兄さんのは入ってるのに……」
という、静香さんの言葉が聞こえてくる。
「ハハ……えっと、少し失礼するね」
「ふえっ!?」
「ご、ごめん! 手を触っても平気?」
「う、うん……」
(いかんいかん、俺は本物の彼氏じゃないんだって……)
彼女の手を取り、レバーの勢いを調整する。
「このくらいで……離す」
すると、ビー玉はネジに当たりつつも……。
「わぁ……入ったぁ!」
「こんな感じかな?」
「兄さん、ありがとう!」
「いえいえ」
(うーん……この旅行で大分印象が変わったなぁ)
意外と子供っぽいというか……甘えん坊というか……。
それから、結局一時間くらい遊んでいると……。
「おやおや、まだやってたのかい」
「あれ? もうこんな時間?」
「静香さん、夢中でやってたからね」
「だって、楽しいもん」
「えがったのう……ほら、写真できたえ」
そこには、俺と静香さんのツーショット写真が撮れていた。
俺はもちろん目を逸らしてるし、ガチガチになっているが……。
静香さんも、上目遣いで心なしか顔が赤い気がする。
これじゃ……まるで……。
「初々しい恋人のようじゃのう」
「ふえっ!?」
「えっ!?」
「ほほ、若い子はええの」
その後、お礼を言って店から出る。
「「………」」
「こ、困ったわ」
「そ、そうだね」
「写真……一枚ずつ貰ったよね?」
「ああ、そうだけど……」
「……貰っても良い?」
「そりゃ、もちろん」
俺が彼女に写真を渡すと……。
「えへへ……兄さんとの写真、大事にするね?」
そう言って、写真を宝物のように眺めて微笑むのだった。
「そ、そう……」
俺の心臓は熱を持ち——幸福感に包まれる。
それと同時に——鈍い痛みを伴う。
(……やめてくれ、勘違いしそうになるから)
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