第31話 二日目

 朝起きたら食事をして、そのあと家族全員で風呂に向かう。


 男湯と女湯に分かれて、俺は久々に親父と2人きりになる。


「親父、背中でも流す?」

「おっ、いいのか。じゃあ、お願いするか」


 並んで椅子に座って、親父の背中をゴシゴシする。


「どうだ? 楽しんでるか?」

「ああ、静香さんは楽しそうだよ」

「それも大事だが……お前も楽しまないと」

「大丈夫、楽しんでるからさ」

「そうか……なら良いんだ」


(……何か勘づいているのか? いや、親父はそういうタイプじゃないし……)


「今日はどうするの?」

「まずは川下りして、その後に川釣りでお昼ご飯だな。午後からは商店街を歩いたり、お土産物を見たりとか……まあ、そんな感じだな」








 その後湯船に浸かり……風呂から出る。


「さて、先に戻るとするか」

「まあ、二人一緒なら平気か。じゃあ、俺はロビーの方で待ってるよ」

「わかった。父さんは部屋の方で待ってるとしよう」


 親父と分かれて、俺はゲーセンで遊ぶことにする。


「どれ……シューティング系かな」


 古いタイプのガンアクションゲームをやることにする。

 銃を持って、敵を倒していくミッション系のやつだ。


「これも懐かしい……なっ!」


 画面の外側に銃を出すと、リロードがされるタイプだ。


「久々にやると楽し——うわっ!?」


 急に目の前が真っ暗になって……柔らかいモノが背中に当たる!


「だーれだ?」

「ちょっと!? ……静香さん?」

「正解!」


 目隠しが外され振り返ると……何故か、御機嫌斜めな彼女がいた。


「ど、どうしたの?」

「だ、だって……ずるいじゃない」

「へっ?」

「明日、一緒にやるって言ったのに……」

「い、いや、それとこれは別というか……待ってる間に暇だと思いまして……」

「むぅ……」


(いじけてる……なんだ、この可愛らしい人は? 普段のクールさは何処へ? というか、幼くなってる?)


「お、俺が悪かったです」

「はい、よろしい。じゃあ、あとで一緒にやってくれる?」

「ああ、もちろん」

「じゃあ、許します。ほら、いこ」

「ちょっ!?」


 その柔らかい手に引かれ、入り口付近へと連れて行かれる。


「あら〜本当に仲がいいわ〜」

「良いことだなぁ」


 手を繋いでいるのを二人が見て……それぞれ反応する。


「ち、違うの! 兄さんが中々来ないから……」


 どうやら、俺待ちになってたようだ。


「そうそう、怒られちゃったよ」

「お前は熱中すると時間を忘れるからな」

「ふふ〜そうなのね」


 顔を赤くする彼女を不思議に思いつつ、俺達は車に乗り込む。





 その後、十分ほどでボート乗り場に到着し……。


「い——イヤァァァ!!」

「待って! 落ち着いて!」

「む、無理よ!? 下ろして!」

「それこそ無理だよ!?」


 川下りボートに乗ったは良いが……静香さんがご乱心です。

 俺から引っ付いて離れないので……。


(イヤァァァ! 俺の方が無理! 当たってるぅぅ——!?)


「おおっー!」

「あら〜! 楽しいわ〜」


 それに対して、大人たちのが余裕があったみたいです。





 ……何とか無事に終わり……。


 親父と由美さんはもう一回乗るというので…。


 2人でベンチに座って休憩する。


「し、死ぬかと思ったわ……」

「大袈裟だなぁ。そこまで激流じゃなかったけど?」

「そ、そうなの? もしかして……私、絶叫系とか無理なのかな?」

「どうだろ? それとこれとは別って人もいるしね」

「そうなんだ……」

「まあ、お試しならいつでも付き合うからさ」

「……ありがとう、兄さん」


 そう言い、俺の肩に頭を乗せてくる。


「あ、あの?」

「ダメ?」

「い、いや、ダメじゃ無いけど……」


(何!? 何か起きてる!? いや……単に疲れたってだけだよな。よし、落ち着け、俺)


 結局、2人が戻ってくるまで……そのままの状態だった。






 その後は、川釣りである。


 親父たちの邪魔をしないように、俺たちは少し離れた位置にくる。


「兄さん、やって」

「えっ? ああ……いいけど」


 どうやら、俺に餌をつけてくれってことらしいが……。

 何故、昨日から甘えてくるのだろうか?


(……そうか! そういうことか! 俺を完全に兄として慕ってるってことか! そうかそうか……ハァ)


「兄さん?」

「いや、なんでもないよ。ほら、やってごらん」


(静香さんは誰にも甘えられない環境で育ったんだ。なら、俺の役目は……彼女を甘やかすことなのかもしれないね)


「えいっ! ……わわっ!? か、かかったよ!?」

「そりゃかかるよ。ここは生け簀だし」


 川の流れを堰き止めて、小さいプールを作って、その中でニジマスを放している。


「ど、どうするの!?」

「どうって……引っ張るんだよ」

「わひゃあ!?」


 彼女から聞いたことのない声が漏れる。

 どうやら、思いきり引き上げたのでびっくりしたようだ。


「ハハッ!」

「むぅ……笑わなくてもいいじゃない」

「ごめんごめん……どうしたの?」

「さ、触れない……」

「へっ? いや、普段魚を捌いてるよね?」

「そ、それとこれは別なのよ……」

「ほら、これで一匹だね」


 針から魚を取り、バケツに入れる。


「あ、ありがとう……」

「いえいえ、兄さんですから」

「ふふ、妹の特権ね」


(まあ、彼女が楽しそうだからいっか)






 その後も、釣り続け……お昼ご飯の時間となる。


「相変わらずウマッ!」

「うぅ〜! 美味しい!」


 パリっという良い音と共に、口の中で塩気のあるニジマスが弾ける。


「美味しいわ〜」

「うん、相変わらず美味しいね」


 お昼ご飯は釣った魚を使った、ニジマス定食だ。

 山の幸と、川の幸という御馳走である。


「なんか……いいね」

「うん?」

「川の流れを聞きながら、美味しい食事で……静かで……」

「ああ、わかるよ。俺も、こういう感じ好きなんだ。だから、観光地とかよりも良いと思ってる」

「ふふ、同じかも」

「ええ、私も気に入ったわ〜」

「そうかそうか、気に入ってもらえてよかったよ」


 こうして、楽しくも穏やかな時間が過ぎていく……。

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