第27話 ゴールデンウィークは家族旅行

 新しい生活にも慣れてきた頃……。


 気がつけば、いつの間にか1ヶ月が経とうとしていた。


 俺の彼女の関係も落ち着いてきて……。


 もう、五月になるということだ。


「親父、確認するけど明日からのゴールデンウィークは三泊四日だよね?」

「ああ、群馬の温泉にな」

「でも、ほんとに良いのかしら?」

「お母さん、平気だって。二人で帰れるから」

「由美さん、平気ですよ。俺、中学の時に行ったことありますから」

「そ、そうよね……じゃあ、有り難く受け取るわね」


(ほっ……説得に骨が折れたが、どうにか了承してもらえたな)


 ゴールデンウィークに家族旅行という計画が立てられた。

 行く場所は、俺が生前の父方の祖父によく連れて行ってもらった場所の温泉宿だ。

 母がいなく、親父も仕事だったので、よく俺の面倒を見てくれた。

 今はもう亡くなったけど……今でも感謝している。


(最初は新婚旅行としていかせようとしたけど……由美さんが家族旅行が良いって言い張ったんだよなぁ)


 話は平行線になり、それで険悪になっても意味がないので……。

 三泊四日で、俺たちだけ二泊三日で帰るということで落ち着いた。

 夫婦水入らずで、一泊するというわけだ。

 もちろん、正直言って助かった面もある。


(静香さんと家で三泊四日も二人きりでいたら……どうなるか恐ろしい)








 というわけで、みんなも早く寝て……。


 翌朝、準備をして出かける。


「ほら、静香さん」

「ありがとう、兄さん」


 行きは車でいくので、荷物を預かる。


(最近、ようやく慣れてきた感じはする。このままの調子で、行ければ良いけど)


「兄さん?」


 彼女が不思議そうな目で、俺を見てくる。


「いや、何でもないよ。親父、荷物は積んだよ」

「ああ、ありがとう。じゃあ、いくとするか」


 全員で流行りのワンボックスカー車に乗り込み……出発する。







 車内にて、会話が弾む。


「本当に良かったのかしら? こんな良い車……」

「由美さん、気にしないでください。四人家族には必要ですし」


 そう、親父は車を買い替えた。

 見た目重視ではなく、性能性の良い車に。

 新車で相当な値段だったらしいけど……頑張ったということだね。


「ねえねえ、兄さん」

「うん? どうしたの?」


 心なしか、彼女もテンションが上がって見える。

 どうやら、旅行といったものに経験がないらしい。


「バイトというか……お店は平気なのかな?

「ああ、そのことね。平気だよ、店長は休みたいって言ってるし」


 普通のバイトだったら、ゴールデンウィークに出ないなんて考えられない。

 何のためのバイトと言われても文句は言えないが……。

 そもそも、あの店は変わっている。


「びっくりしたわ……まさか、三日も店を閉めちゃうなんて」

「まあ、店長にも家族がいるしね」

「可愛らしい奥さんだったよね?」

「まあ、そうかもね。まだ二十代後半だったはずだし」

「出会いはバイト先なんて素敵よね……」

「以前、社員として働いていた時に知り合ったらしいから」


 すると、何やら視線を感じる……。


「由美さん?」

「お母さん?」

「ううん、仲が良いわねえって」

「そうだなぁ。本当に良かったよ」


 俺と静香さんは顔を見合わせ……笑い合う。


(そう、これで良いんだよ。これが一番良いに決まってる)


「春馬君、静香はバイトはどう? 迷惑をかけてない?」

「お母さん!」

「ええ、平気ですよ。仕事も丁寧ですし、覚えるのも早いですから。ただ……」

「ただ?」

「相変わらず、男性が苦手かと」

「に、兄さん!」

「ご、ごめん。でも、本当のことだし」


(いまだに硬直したりすることがあるし、やっぱり視線は気になるようだ)


 まあ、彼らを責めることはできないよなぁ……。

 俺だって、気がつけば視線が向いてる時があるし……。

 悲しい漢の性ってやつだね……でも、それを言い訳に使うのはダメだよね。


「あら、そうなのね。でも、春馬君は平気よね?」

「に、兄さんは兄さんだし……」

「ふふ、そうね。本当にいい子で……智さん、良い子ですね」

「ええ、自慢の息子ですよ。ただ、我慢させてないかと心配になりますけどね」

「別に普通だよ。ほら、運転に集中して」

「そうだな、事故なんかになったら大変だな」


(兄さんね……これで良いんだよ! 何を残念に思ってる!)








 高速を抜けたら、旅は快適そのものだった。


 山道を通って、どんどん上へと登っていく。


 そして三時間かけて……俺たちが泊まる宿に到着する。


 俺と静香さんは先に車を降りて、その旅館の前で待つ。


「へぇ〜ここが四万温○なんだね」

「うん、そうだよ。お風呂が8種類くらいはあったかな?」


 群馬県では、割と隠れた名所になっている。

 山に囲まれた自然、流れる川、昔ながらの喫茶店や商店街……。

 都会の喧騒を忘れられる場所で、芸能人なんかも見たことがある。


「ふふ、兄さんに案内してもらおうっと」

「任せといて。一応、三回はきてるからね」

「うん、頼りにしてる——わぁ……!」

「ちょっと!?」




 走り出す彼女を追って……川が一望できる場所にくる。


「すごいねっ!」

「ああ、綺麗だよね。あそこから下に降りて、川遊びなんかもできるよ。あと、川釣りなんかもね」

「わぁ……すっごい楽しみっ!」


 そう言って、子供みたいにはしゃぐ彼女は……。


 ただの黒いパーカーに青のジーンズという格好なのに……。


 まるで、映画のワンシーンのように綺麗で光り輝いてた。


 それと同時に、押さえつけてた痛みが蘇る。


(……旅行に来たのは、失敗だったかもね)








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