第25話 バイト終わりに

 次の日の日曜日も、二人でバイトに向かう。


 今日は午前中からバイトで、三時半上がりになる。


「よかったの? 二日も入れて」

「うん、早く慣れたいから。兄さんにも、迷惑かけたくない」

「俺は気にしないけど……普段は、ご飯とかお世話になってるわけだし」

「あれとこれは別でしょ? 兄さんのには、お金が発生してるんだから」


(相変わらず、頑なに譲らないなぁ。しかし、俺も退くわけにはいかない。彼女に遠慮されると、俺も親父も困る)


「いや、それを言ったら……静香さんの料理だって時間がかかってるよ?」

「そ、それは……」

「それに最近聞くじゃん。主婦の仕事を時給に換算したらみたいなこと」

「……確かに」

「だから、バイトくらい俺に頼ってくれていいからさ。その、まあ……こんなんでも兄さんなわけだし」

「兄さん……ふふ、ありがとう。じゃあ、今日もよろしくお願いします」

「うん、任せてよ」


(少しずつだけど、信頼されてきたかな? よし……親父に心配かけないためにも、彼女の信頼を得ていこう)






 そして、店に到着して……。

 同じように着替えてタイムカードを押す。


 彼女が出てくるのを待っていると……。


「なんつーか……あれだな」

「はい?」

「俺は有難いが、お前たちはバイトばかりでいいのか? 連休をバイトで過ごして」

「うーん……でも、家にいても平日とすること変わらないですよ。本読んだり、ゲームしたり、漫画読んだり……何より、そういうものはお金がかかりますし」

「それもそうか……俺がガキの頃とは違うか。スマホもなけりゃ、携帯すらギリギリだった。まあ、バイトに入ってくれるのは助かるが……たまには遊んでおけよ?」

「それ、吉野先生にも言われましたね」

「ははっ! 奴も青春を半分無駄に過ごしていたからな」

「えっと……?」

「いや、俺が話すことじゃないな。気になるなら聞いてみるといい」


(遊ぶか……トシにも誘われたし、シフトを確認してみるか)






 その後、バイトを始める。


 すると、すぐに……。


「おはよー少年」

「おはようございます、先輩」

「お、おはようございます! 中村静香といいます!」

「おはよー美少女ちゃん。渡辺清花です」

「えっ?」

「ああ、気にしないで良いよ。変な人だから」

「後輩クン、随分と失礼だね?」

「本当のことじゃないですか……」


(仕事はできるけど、独特の雰囲気がある人だし)


「まあ、良いや。適当によろしくねー」

「は、はい」

「本当に適当で良いから」

「いや、後輩クンが言うことじゃないからね!?」

「むぅ……」

「うん? どうかした?」

「べ、別に……」

「……面白そうなの発見かも。麻里奈ちゃんに聞いてみよっと」

「おい、くっちゃべってないで仕事しろ」

「「「はいっ!」」」


 この人を怒らせてはいけないので、それぞれ真剣に仕事にこなす。





 そして、ランチプラス日曜ということで……。


「春馬! レジだ!」

「はい!」

「えっと……」

「静香ちゃん、落ち着いて。お冷を出して、注文をとってくれるだけで助かるからね?」

「は、はい」


(何が助けるだよ!? そんな暇ないよ!)


 うちは繁盛店じゃないけど、たまにこういう日がある。

 何も、今日でなくてもいいのになぁ。






 そして……あっという間に時間が過ぎた。


「はぁ……疲れた」

「す、凄かったわ」

「こういうのがたまにあるのだよ。じゃあ、お疲れさん」

「「お疲れ様です」」


 それだけいって、ささっと帰っていく。

 あの人も、意外と体力あるよなぁ。


 すると、店長が来て……。


「まあ、そういうことだ。すまんな、覚悟してくれ」

「はい、大丈夫です。むしろ……なんというか……」

「充実感がある?」

「そう! そうなの!」

「う、うん、わかるよ。時間がたつのも早いしね」


(フンスフンスしている——めちゃくちゃ可愛い)


「そう思えるなら平気だな。じゃあ、二人も上がりな」

「は、はぃ……お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 少し恥ずかしかったのか、彼女は耳が赤くなっていた。


(なんか、クールに見えるけど……そうじゃない部分もあるよなぁ)


 ……はぁ、ドツボにはまってるなぁ。





 その後、帰ろうとすると……。


「兄さん、この後用事ある?」

「ん? いや、ないよ。夜はバイトないし」

「す、少し食べていかない?」

「まあ、確かにお腹減ったね」


(そういや、午前中からバイトだったから、十時半に食べたっきりだ)


「じゃあ、いきましょう?」

「うん、そうしようか」





 というわけで、喫茶店アイルに入り……。


 席についてオーダー表を見る。


「夕飯が食べれなかったらアレだし……一人前は無理よね」


 対面に座っている彼女ですが……真剣に眺めて前かがみになっています。

 つまりは……お胸様が、軽くですが机に乗ってます。


「兄さん?」

「ごめんなさい」

「へっ?」

「へっ?」


 二人して、顔を見合わせて固まってしまう。

 すると……。


「ほほ、青春ですな」

「マスター」

「何やらお困りのご様子ですが?」

「えっと……お腹がすいてるんですけど、夕飯があるので……」

「なるほど。それではシェアしてはいかがでしょう?」

「あっ——それなら」

「じゃあ、選んでいいよ」

「……カレーが食べたいかな」

「うん、それなら待たないしね。マスター、お願いします」

「はい、畏まりました」




 そして、ものの数分後……。


「わぁ……美味しそう」

「喫茶店のカレーとかって惹かれるよね」

「うんうん、わかるわ」

「ほら、先に食べていいよ。残ったら食べるからさ」

「へっ? う、うん」

「あっ、嫌なら分けた方がいいかな? ただ、カレーだし……」

「へ、平気……兄さんだし」


(……どういう意味だろ? いや、深い意味はないよなぁ……うん、家族として見てもらえたってことかな)


 望んでいたはずなのに……ちっとも嬉しくない。


「いただきます——美味しい………」

「マスターの料理は大体美味しいからね」

「兄さん? ……どうして、泣きそうな顔してるの?」

「えっ? い、いや、そんなことないよ」

「あっ、そうよね。兄さんもお腹減ってるよね」

「気にしないで……へっ?」


 俺の目の前には、差し出されたスプーンがある。


「あ、あーん……」

「い、いや、待って……」

「は、早く……私だって恥ずかしぃ……」


(な、なんだこれ? 頬を染めて俯いてますけど? 可愛いんですけど?)


「あ、あーん……う、美味い」

「と、とりあえず一口で我慢してね。すぐに食べるから」


(やばい、味なんかしない。というか、心臓が痛い……)


 その後、分けてもらったが……結局、ほとんど味は分からなかった。


 ……一体、どういうことなんだろう?

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