第24話初めてのバイト~後編~

 5時半になり、少しずつお客様が入ってくる。


 うちは基本的にお一人様が多い。


 なので、落ち着いてやればミスは少ないはず。


「い、いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」


(……やっぱり、男性が苦手なのか。というか、男性の視線が胸と顔に集中してる)


「あ、ああ」

「では、カウンター席にお願いします」


(まあ、無理もないよなぁ……こんなに可愛くて胸の大きい子なんてそうはいないし)


「にいちゃん、新人さんかい?」

「ええ、そうです。中村さんっていうので、よろしくお願いします」

「お、お願いします!」

「ああ、よろしく。しかし、これまたべっぴんさんだ。大将! 麻里奈ちゃんといい、可愛い子しか採用しないのかい?」

「そんなことないさ。たまたまですよ」

「にいちゃんも、いいな。こんな可愛い子たちばかりで」

「はは……俺は男の人にも入って欲しいですね」

「違いねえ」


 その後、静香さんがお冷を出して、俺が注文を受ける。






 少し裏に行き……。


「平気だった?」

「う、うん……少し気になったけど、嫌な視線じゃなかったから」

「あの人は常連さんだし、悪い人ではないから。たまに視線が行くことはあるかもしれないけど……」

「ふふ、兄さんみたいに?」

「ぐっ……すみません」

「ううん、わかってるの。いい加減、こういうことに向き合っていかないといけないって。一生付き合っていくんだしね」

「そっか……その、俺に出来ることがあれば言って。いや、実際に何が出来るかはわからないけどさ」

「兄さん……そ、それじゃ……そのうち、お願いするかも」

「うん? ああ、なんでもするよ」


(自分で言っておいてなんだけど……手伝いって何するんだ? ……まあ、いいか)



 その後、仕事に集中して……六時前になると……。


「おはよございます!」

「麻里奈さん、おはようございます」

「おはようございます」

「わぁ……おっぱい大きい!」

「ふぇ!?」

「ちょっ!? 麻里奈さん!」

「へっ? ダメなの? すっごく羨ましい!」

「あ、ありがとうございます?」

「おい、麻里奈。さっさと仕事をしてくれ」

「はーい!」


 麻里奈さんは洗い場に入り、手早く洗い物をしていく。


「ふぅ……まったく、悪い人ではないんだけど」

「ふふ、平気よ。少しびっくりしたけど、ああやって真っ直ぐに言ってくれるなら」

「ああ、なるほどね」

「もちろん、女性だからっていうのもあるし」


(そりゃ、そうだ。いきなり男性がおっぱい大きいね!とか言ったらアウトだよ)





 その後も、問題なく進んでいき……。


 九時になり、上がりの時間になる。


「二人とも、お疲れさん。上がってくれ」

「お疲れ様でした。じゃあ、食べていく?」

「お疲れ様でした。うん、今から帰ったら遅くなっちゃいそうだね」

「店長、お願いします」

「あいよ、じゃあ着替えて座りな」


 タイムカードを押して、それぞれ着替える。


「ふぅ……」

「疲れた?」

「す、少しだけ」

「疲れるよね。色々と神経使うし」

「……そうかも。ちょっと、甘かったかも」

「ウンウン、わかる。俺も最初は楽だろって思ってだけど、楽なことなんかないんだよね」

「そうね、さすがは先輩です」

「う、うむ、頼ってくれたまえ」

「ふふ、変な兄さん。でも、頼りになったよ? 後ろにいたから安心したし」


(ほっ……どうやら、こんな俺でも役に立ったらしい)


「おーい、出来るぞ」

「じゃあ、いこうか」

「うん」


 裏から出て、表から入り直す。

 そして一番奥の席に座る。


「はい、お疲れ様〜」

「麻里奈さんは、この後も残るんですよね?」

「うん、そうだよー」

「その……危なくないですか? こんなに可愛い方なのに」

「……嫌味じゃなさそうだねー」

「へっ?」

「ううん、良い子だね〜。大丈夫、一応店長が送ってくれるからね」

「えっ? ……そ、それって……」

「おい、言い方に気をつけろ」


 ラーメンを持った店長がやってきて、俺たちの前に置く。


「えっと?」

「こいつの兄貴……お前達の担任とは付き合いが長くてな。だから、たまに送っていくんだよ。それにこの辺りで、こいつをナンパする馬鹿はいない。冬馬……お前達の担任は、この界隈では有名な男だからな」

「そ、そうなんですか?」

「うん、そうらしいよ。俺も、もし絡まれたら自分の名前を出せって言われたし」

「お兄、昔はやんちゃだったからねー」

「ほら、仕事に戻るぞ。それに麺がのびる」





 その後、俺たちは黙ってラーメンを食べ……家へと帰宅する。


「あら〜! お帰りなさい!」

「お、お母さん?」

「へ、平気だった?」

「もう、平気だよ。頼りになる兄さんもいたから」

「春馬君、ごめんなさいね」

「いえ、俺は何もしてないですよ」

「ほら、みんなして玄関にいないで上がりなさい」


 親父の一言で、それぞれ動き出す。


「じゃあ、先にお風呂入るわね」

「うん、わかった」

「私も入るわー」

「えっ?」

「たまにはいいじゃない」

「別にいいけど……」

「ほらほら」


 そう言い、二人は風呂場へ行く。


「春馬、少しいいか?」

「うん? あ、ああ……」


 何やら神妙な顔をした親父に連れられ、リビングの席に着く。


「どうしたの?」

「いや、最近は話せてないだろう?」

「まあ、四人いるからね」

「どうだ? 生活は? 不自由してないか?」

「えっと……?」

「お前は昔から優しい子だ。あいつ……元妻が荒れても、お前は最後まで耐えていたな」

「まあ……あんなでも母親だったしね」

「そうだなぁ……そんなお前に無理をさせてないか? いきなり再婚して、女の人がいて……まあ、その、なんだ……大変だろう?」


(……なるほど、親父の心配はそれか。いや、無理もないな。あんな可愛い子がいるんだ、そりゃ心配になるわな)


「大丈夫だよ、部屋は鍵がついてるし」

「そ、そうか……」

「うん? そういう意味でなくて?」

「いや、それもあるが……静香ちゃんと仲が良いな?」

「どうだろ? まあ、上手くやってる方だとは思う」

「ああ、そうだな……一つだけ言っておくが……」

「なに?」

「無理はしないで良いからな? その気になれば、隣の部屋も空いてるし……」

「なんだよ、追い出したいの?」

「そんなわけあるか!」

「ご、ごめん……」

「い、いや、俺こそ悪かった……」

「大丈夫だよ、しっかり家族やるからさ。じゃあ、これで終わり」

「お、おい、春馬」






 俺は自分の部屋に入り、ベットに横になる。


(……もしかしたら、親父は気づいたのかもしれない。俺が、彼女のことを好きだと……)


 しかし……冷たくするのも違う。


 俺は、どうするのが正解なんだろう?

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