第20話~静香視点~

 彼と家族になってから日にちが経ちました。


 そんな中、私は習慣である日記を読みかえしています。


 大体一週間に一回、こうして出来事を思い返している。


「あの日、ライン交換をして……」


(別に特に連絡をするわけじゃないけど……二人だけのライングループって、なんか特別な感じがする……な、何言ってるんだろ、私)


「色々なお話をしたなぁ……」


(それぞれの片親のこと、感性のこと。なんだか、緊張することもなくすっごい穏やかな時間だった気がする……)


「次の日は……そうだ、お昼ご飯を作ろうとしたんだよね。兄さん、いつも外食だと健康にもお財布にも良くないもの」


(それと、兄さんが私のためにシュークリームを買ってきてくれたこと……嬉しかった)


「あと、勇気を出して兄さんに言っちゃったけど……」


(胸のこと……でも、それ以降もあからさまに見てくることはないし……たまにあるけど)


「でも、兄さんも男の子だし……仕方ないよね。というか、兄さんはどっちが好きなんだろ?」


(……いやいや! 関係ないじゃない!)


「や、やめよ……次の日はっと……」


(それから、私は無理することなく生活が出来てきて……兄さんが、私とお母さんに気を使ってくれたおかげだよね。もちろん、自分のお父さんのためだとは思うけど。それでも、物凄く助かってる)


「胸を隠す必要もなくなって、リラックスもできてきて……毎日楽しくて」


(相変わらず、たまに見られちゃうけど……なんだか、悪い気がしないし)


「もう! だからそれはどうでもよくて……!」


(えっと……そうよね、勉強会をして……お部屋に入るの少し緊張したり……)


「でも兄さん、教え方上手だったなぁ……というより、すんなり受け入れられたって感じかな?」


(相手が兄さんだから? 意外と落ち着いて集中できたしね)


「本を選ぶのは楽しかったなぁ。兄さんなら、どれが好きかなとか考えたり……」


(真剣に読んでる表情とかに、少しドキドキしたり……別に、特別顔が良いわけじゃないんだけど……なんでだろ? 空気感が良いのかな?)


「あとは……意外だったわ」


(ライトノベルっていうのは知ってたけど……少し偏見を持ってた)


「エ、エッチなのとか、意味なく男性がモテモテになったり……」


(そこまでじゃなかったし、きちんと好きになる理由が描かれていたり……うん、ああいうのなら読んでも良いかも……兄さんとも、お話しできるし)


「あまりに楽しくて……つい、寂しくなっちゃって。ご飯も作る気がしなくて……」


(気がついたら、家を出て兄さんのバイト先に来ていた……自分でも、びっくりしたなぁ。ずっと一人でいることに平気だと思ってたのに……)


「そして……バイトの件だよね」


(ずっとしたいとは思ってだけど、中々勇気もなくて……でも、兄さんがいるなら……)


「男の人にも、いい加減慣れないといけないし……失礼だもんね、別に嫌いじゃないのにそういう態度を取るのも……」


(適度な距離の取り方を覚えられれば良いけど……)


「それよりも……お母さんにばれちゃったかなぁ」


 私は日記を閉じて、昨日のことを思い出す……。







 兄さんが、部屋に戻った後……。


 お母さんの部屋に連れて行かれます……そして。


「静香……春馬君のこと好き?」

「……へっ?」

「その顔はどっちかしらね? びっくりしたのか、当たりなのか……」

「な、何を言ってるの?」

「ううん、違うなら良いのよ。ただ、そうなら……」

「違うよ、そんなことないよ」


 私は意思を総動員して、なんでもない顔を意識する。

 お母さんには安心して暮らして欲しいから。


「そう……ただ、覚えておいてね。私は自分も幸せになりたいけど、貴女の幸せのが大事だってことを。もちろん、勝手に再婚しておいて言える台詞じゃないけど……」

「そんなことないよ、お母さんは私を大事にしてくれた。私は一度だって、ひもじい思いをしたことがないもん。それは、お母さんが頑張って働いてくれたから……だから、お母さんは幸せになって良いんだよ」


(そうだ……お母さんは手が擦り切れても、お腹が減っても、私を優先してくれた。だったら、一番に幸せにならなきゃいけない)


「静香……良い子に育って……うぅ」

「お、お母さん……」

「おかげでお母さんは、今すごく幸せよ。だけど、忘れないでね。貴女の幸せを願っていることだけは……もし何かあったら、お母さんに相談してね。あと、バイトの件も含めて、もっと自由にしてくれて良いからね。今まで、散々我慢させちゃったから」

「うん、わかった。ありがとう、お母さん」






(多分、気づいたのかもなぁ)


「でも、お母さんが最優先だもん……ただ」


(変に気持ちを押さえつけたりするのはやめよう。逆に変になっちゃうし、お母さんも心配しちゃうし)


「あくまでも自然体でいて……そうしないと、兄さんだって気を使っちゃうし」


(それで、その気持ちが恋から家族愛になるまで……沢山の時間を過ごしていこう)


 そうすればきっと……いつか、本当の意味で家族になれるはず。

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