第14話自分の気持ち

 あっという間に焼きそばを食べ……とあることに気づく。


「あれ? 意外とお腹いっぱいだな」

「ふふ、良かった。二人前作ったけど、兄さんの方を多めにしたから」

「いや、俺は有難いけど……足りるの?」

「ええ、そんなに食べる方じゃないから」

「そっか、それなら良いけど……」


(なるほど、それでこのスタイルか……)


 思わず、まじまじと見つめてしまう。


「……に、兄さん」

「ご、ごめん!」

「い、いえ……やっぱり、気になる?」

「へっ? いや、その……はい」


 迷ったが、正直にいうことにした。

 このままでは、ずっと気になってしまう。


「実は……普段は押さえつけてるの」

「そ、そうなんだ……よくわからないけど、そういうのって身体に悪いんじゃ?」

「うん、そうなんだけど……男の人の視線が嫌で……わ、私、ただでさえ男子が苦手だから……」

「重ね重ね申し訳ない」


 俺は両手をテーブルにつけ、おでこをつけて謝る。

 こういう時って、己の本能を呪うよなぁ。


「ううん、私だって高校生だからわかってる。そういうものなんだってことは。これが、男子にとって魅力的に見えるってことは」

「うっ……ごめん、否定はできない」

「ふふ、正直なのね? まあ、兄さんのは露骨な感じはしないから平気だけど……」

「そ、そうなんだ」

「だからって、見過ぎちゃダメだからね?」

「は、はいっ!」


(自分じゃよくわからないからなぁ……よし、今まで以上に気をつけよう……ただ、今のセリフはずるいと思う……可愛すぎだろ)





 その後、オブラートに包んで説明された。

 家ではきついので、それをやめていると。

 なので、出来れば無視して欲しいということ。


「うん、わかった。ごめんね、言い辛いこと言わせちゃって」

「ううん、いずれは言うつもりだったから。お母さんにも言われてたし」

「そ、そうなんだ?」

「一緒に暮らしてたら、兄さんじゃなくたって気になるって」

「まあ……そうかも」

「本当は形が崩れるからやめなさいって言われてるんだけど……こればっかりはね。見られることにでも慣れれば……む、無理よっ!」

「お、落ち着いて! うんうん、無理は良くないよね」

「うぅー……」


(ど、どうにかして、元気付けないと! 何かいい手は……)


「あっ——忘れてた」

「兄さん?」

「ちょ、ちょっと待ってね」


 俺は慌てて部屋に行き……。


「ほっ、良かった。潰れてないし、まだ時間も経ってないから平気そうだ」


 カバンから箱を取り出し、リビングに戻る。


「これでも食べて元気出してよ」

「えっと……わぁ……シュークリーム」


(おい、可愛いな。満面の笑みがこぼれてますけど)


「シュークリーム好きだったかな?」

「うんっ! あっ——これ知ってる!」


(おおっ! 思った以上に喜んでくれてるな)


 俺はまるで子供みたいにはしゃぐ彼女を見ていると……。


「これ、散歩した時に気になってて……」


 今度は、何やら暗い表情になってしまう。


「ど、どうしたの?」

「兄さん……これ、高いわよね?」

「へっ? ……まあ、それなりには」


(商店街にあるケーキ屋さんだけど、割と本格的なやつだし)


「もう、お昼ご飯を用意した意味がないじゃない」

「……あっ——」


(そ、そうだった……節約させるために作ってくれたのに)


「兄さんって、意外とドジなのね?」

「はは……めんぼくない」

「でも……二つあるから、私にも買ってきてくれたってこと?」

「うん、もちろん。いつも作ってもらってばかりだからさ。ほら、これだって昼飯を食べるよりは安いしさ」

「ふふ、別に言い訳しなくてもいいわよ。それに……ありがとう、ものすごく嬉しい」


 そう言い……微笑む彼女を見て、また俺の胸が熱くなる。


(い、いかん……どんどんドツボにはまっている気がする……かといって、冷たくするのも違うし……どうすればいいんだ?)


 ひとまず、シュークリームを食べることにする。


「うぅ〜! 美味しい!」


 両手で持って、小さい口で食べる彼女はあざとい。

 しかも、普段のクールな感じとは違い、これまたあざとい。


「はぁ……美味しかった」

「喜んでくれて良かったよ」

「嬉しいけど……あんまり買ってきちゃダメだからね?」

「はい、そうします」

「……子供っぽいって思ったでしょ?」

「えっ? ……まあね、普段とは違う感じで」

「実は……うちって、あまりお金がなくてね……」

「まあ、何となくは聞いてるけど……」


(確か、元父親がろくに仕事をしない男だったとか……)


「そんなんだからね、ケーキなんかもあまり食べたことなくて……誕生日ケーキとかもなくて、いつもショーケースの中を見るだけ……」

「そっか……」

「ご、ごめんね、こんな話……」

「いや、いいよ。じゃあ、また買ってくるね」

「もう、だからダメだって」

「ふふふ、妹は兄に甘えるものだよ?」

「……一本取られたわね。じゃ、じゃあ……たまにお願いしてもいい?」

「ああ、もちろん。というか、親父が喜んで買ってきちゃうよ」

「あんまり迷惑かけたくないんだけど……」

「家族だからいいんじゃない? それが依存するようなら問題だけどさ」

「……いいのかな?」

「うん、そう思うよ」

「そうなんだ……甘えてもいいんだね」


 そう言って、表情を柔らかくする。


(うん、もういいや。俺は彼女が好きだ。一緒にいてもっと好きになった。別に無理に忘れることはないよね……勝手に好きでいる分には)


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