第15話 勉強会

 学校が始まると、あっという間に時間は過ぎていく。


 気がつけば、同居生活を始めて……一週間が経過した。




 学校が始まってからの、最初の週末を迎えたが……。


 俺と彼女の関係も、少しずつ変わってきた気がする。


 俺は相変わらず、気持ちがバレないように生活していたけと……。


 それにも慣れてきて、だんだんとぎこちなさが消えて、スムーズに会話をすることができるようになった。


「兄さん、醤油いる?」

「ああ、ありがとう。うん、今日も美味しいね」

「別に普通よ。ただの目玉焼きだし」

「いやいや、作ってくれる人がいるだけありがたいよ」

「今日はどうするの?」

「午前中は勉強と読書で、午後からバイトかな」

「その……私も一緒にやっても良い?」

「えっ? ……… 何を?」

「あっ、ごめんなさい。勉強を一緒にって思って……何気に学年でもトップクラスだし」

「まあ……部活も入ってないし、友達もいないしね」

「ふふ、私も一緒よ……どうかな?」

「うん、俺でよければいいよ」


(単純に人より時間があるだけだし、もはや習性みたいなものだし。生みの母親に、刷り込

 まれたからなぁ……いい高校、良い大学に入って、お金を稼ぎなさいって。お父さんみたいに、奥さんに苦労かけちゃいけないって……まあ、勉強すること自体は悪いことじゃないから続けてるけど)


「兄さん、ありがとう。部屋はどうしようかな?」

「えっと……リビングは親父達がいるだろうし、どっちかの部屋?」

「に、兄さんの部屋でも良い?」

「あ、ああ、別に良いよ」


(な、何も緊張することはない。ただ勉強するだけだし……ただ、あっちも緊張してるように見えたのはなぜだろう?)






 俺たちが食べ終わる頃……ようやく親父たちが起きてくる。


「おはよ〜」

「おはよう、二人とも」

「お母さん、智さん、おはようございます」

「親父、由美さん、おはようございます」

「二人とも偉いわね〜土曜日なのに、こんなに早く起きて……まだ八時よ?」

「春馬は昔からしっかりしてたからなぁ。親としてはありがたいが、少しだけ寂しいかも」

「わかるわぁ〜、この子もしっかりしてて、全然わがまま言わなくて……」

「も、もう! いいから! 朝ごはん置いてあるから食べてねっ!」

「あらあら〜恥ずかしがって」

「兄さん、いきましょ」

「お、おう」

「何するんだ?」

「勉強を一緒にやるよ。あっという間に中間試験になるしね」

「聞いたかい? 由美さん」

「偉いわね〜」

「仲が良くて良いことじゃないか」

「ふふ、それもそうね」




 二人から、俺たちは逃げるようにそれぞれの部屋に入る。


 そして、すぐに彼女が部屋に入ってくる。


「もう、全く……お邪魔します」

「ああ、いらっしゃい。お互いに災難だったね」

「まあ、仲が良くて良いとは思うけど」

「じゃあ、早速やろうか」

「ええ、そうしましょう」


 小さいテーブルに、二人で向かい合って座る。


「兄さんは、英語が得意よね?」

「まあ、それなりには」

「私、どうも苦手で……」

「じゃあ、英語を教えようか」

「私はどうしよう?」

「国語が得意だったよね? じゃあ、それで」

「ええ、わかったわ」




 その後黙って勉強を始め、タイミングを見て……。


「ねえ、少し良い?」

「うん、良いよ。どこかな?」

「ここの部分なんだけど……兄さんは、長文ってどうやって解いてるの? いつも時間が足りなくて」

「そうだね……流し見かな」

「へっ?」

「全部をくまなく読んでたら時間がかかるから、まずはわからなくてもいいから最後まで読む。そのあとは、わかる単語をピックアップして……誰が、いつ、どこでなんかを考える。そうすれば、大体の概要はつかめると思う」

「なるほど……私は、気になって先に進めないからなのね」

「あと英語は単語の意味と文法さえわかれば、そう難しいものじゃない。積み重ねていけば、いずれ点は取れるようになると思う」

「それが出来れば苦労はしないわ」


 そう言い、少し拗ねた顔を見せてくれる。


(この顔を知ってるのは、俺だけなんだという少しの優越感と……それは、あくまでも家族だからという戒めの言葉が俺を苦しめる)


「俺からすれば、国語の方がわかんないけど」

「兄さん、あの大量の本は何?」

「はい、めんぼくない。いや、読んではいるけど……それとこれは別じゃない?」

「まあ、そうかもしれないけど。でも、国語は正解が書いてあるから。きちんと深く読んでいけば、文章の中に答えがあるわ」

「ふむ……まあ、俺が読んでるのはライトノベルだしね。もちろん、他のも読むけど」

「あんまり、良いイメージはないわね」


(まあ、そうだろうなぁ。彼女が読むのは挿絵のないタイプの文庫とかだし)


「でも、きちんとしたお話のやつもあるんだよ」

「その……でも、エッチだったりするじゃない?」

「……否定はできない。でも、そういうのばかりじゃないんだよ」

「ふーん……兄さんが、そこまでいうなら……読んでみようかな?」

「じゃあ、俺は静香さんのオススメの本を貸してもらおうか。そうすれば、読解力も上がるかもしれないし」

「確かにそうかも……うん、そうしようかしら」


 その後、勉強に戻り……。






 一時間半ほどで終わりにして……。


 それぞれの本を選ぶために、彼女は一旦部屋を出て行った。


(まずは換気して……さて、何を選べば良いかなぁ)


「エッチなのはなしとして……」


 というか……正面にいるから、つい胸元に視線が何回かいっちゃったけど……。


 もしかして、バレバレだったのかもしれない……我ながら酷いな。


 はぁ……どうしたらいいんだろう?


いや、見なきゃ良いだけなんですけどね……。

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