第16話仲良く読書

 ……ひとまず、こんなものか。


「これエッチな挿絵もなく、王道系の青春ラブコメなんだけど……どうかな?」


(個人的にはハーレムよりも、こういう系の方が好きなんだけど……なんだかなぁ。いや、同じ高校生として気持ちはわかるけどさ)


「あとは、ファンタジー小説か……ハーレム物やざまぁがない戦記物なら、もしかしたら気にいるかも」


 すると……。


「兄さん?」

「ああ、今行くね」


 部屋を出ると……。


「あれ? 親父と由美さんは?」

「なんか、出かけたみたい。書き置きがあって……」


 テーブルの上を見ると……。


「なになに……デートに行ってきます。お昼ご飯は食べてきますが、お夕飯は一緒に食べましょう。帰りに買い物も行ってくる……か」

「……なんか、複雑よね。私たちより、よっぽど青春を謳歌してるわ」

「違いない……まあ、新婚さんだからね。少しは大目に見ようか」

「そうね……お母さん、楽しそうだし。じゃあ、私達も仲良くしましょ?」

「お、おう」


(な、なんだ? ここんところ、変なんだよなぁ。少し距離感が近いというか、ドキッとするようなことを言ってくる)




 はい、というわけで仲良く読書のお時間です。


 二人でソファーに並んで、読書を開始する。


「「…………」」




 ある程度経つと……。


(ん? 視線を感じる?)


 彼女を見るが……気のせいだったようだ。

 再び、本に視線を戻す。


(へぇ……意外と面白いな。挿絵がない分、丁寧な文章によって登場人物のイメージが自然に流れてくる。どっちが良いとか悪いとかではなく、全くの別物として楽しめるな)


「ん?」

「あっ——」


 再び何かを感じたので。何気なく振り向くと……目が合った。


「「…………」」


 しばし、そのまま見つめあってしまう。


「「あの……」」

「あはは……」

「ふふ、変なの」

「タイミングがあいすぎちゃったね。それで、どうかした?」

「邪魔してごめんなさい……いや、随分と真剣に読んでるから。それ、面白い?」

「うん、面白いよ。描写とか文章が丁寧でさ、読んでるだけで頭の中で映像化されるっていうか……こう、読む側に読解力が無いとわからないところとか」


(ライトノベルの場合は、読むのは中高生が多いから、どうしても難しい文章はウケないもんなぁ。展開が早いのが求められるし、流行り廃りのスパンが早すぎるから、書く側も色々考えないとだし)


「その時の心情を、あえて文章化しない物語もあるのが好きなの。こう、私達に投げかけるっていうか……見る人によって変わるのが楽しいのかも」

「たしかにね……ライトノベルはつまらない?」

「ううん、そんなことないかも……意外にも」

「へぇ、どんなところが?」

「挿絵があることで、キャラクターのイメージがつきやすいし……文章も良い意味で軽いけど、その分真面目な話が際立つというか……それでいて、文庫にはないテンポの良いところとか、コメディ感があってが面白いと思う」

「そっか、良かった」

「あと……その、そこまでエッチなのはなかったし」

「まあ、そんなのばかりじゃないよ」


(確かに、最近はラブコメというよりエロコメが流行ってるし……まあでも、ひとまず及第点はもらえたか)


「でも……」

「うん?」

「お風呂回や、水着回はあるのね……?」

「はぃ……すみません」


(そこだけは許してください! 高校生男子なので!)







 そして、お昼の時間になり……。


「兄さん、お昼ご飯は?」

「賄いがあるから、とりあえず良いかな。もうすぐ出かけるし」

「それってタダなの?」

「うん、そうだよ。ただし、五時間以上働けばだけど」

「なるほど、そうよね。少し働いた人が食べてたんじゃ、お店としてダメよね」

「そういうこと。あと、五時間以上働けば必然的に休憩が入るのも理由かな」

「……どうしようかな」

「えっ?」

「ううん! なんでもないの……いってらっしゃい」

「あ、ああ……行ってきます」


(なんだったんだろ? 少し寂しげに見えた?)


 気にはなるが、遅刻してはいけないので、ひとまず家を出る。






 無事に到着して、着替えてタイムカードを押す。


「おはようございます」

「おう、おはよう」

「おはよー」


 厨房内に入ると、二人いるのが目に入る。


「今日は、この三人ですか?」

「ああ、そうだ」

「よろしくねっ! 春馬君!」

「は、はぃ……どうも」

「えへへ〜可愛い!」

「ちょっと!?」


 そう言い、麻里奈さんは至近距離で近づいてくる!

 めっちゃ良い匂いするし! というか、可愛いから勘弁してください!

 この方も大学生の女性なんだけど、身長が小さいし童顔で、そうは見えない。

 黒髪ロングでポニーテールがトレードマークの、可愛いらしい女性である。


「おい、その辺にしてやれ。お前の兄貴と違って、そいつは女慣れしてないんだ」

「はーい。でも、そこが良いんですよー。うちの兄さんったら、昔から可愛げが無くて」

「いや、兄貴に可愛げを求めるなよ」

「はは……」


(苦手ではないけど、様々な事情により……どう接していいかわからん)


 ただし仕事は完璧なので、一緒に働く分には物凄く楽ではある。

 それにお客さんの中ではアイドル扱いなので、俺は洗い物とかに専念できる。






 その後、いつも通りにバイトをしていると……。


「ねえねえ、なんか女の子が店の前でウロウロしてるよ?」

「うん? なんでしようね?」

「ちょっと、気になるから行ってくるねっ」

「へっ?」


 そう言い、店の外へ出て行く。


「全く……相変わらず、兄妹揃ってお節介な奴らだ。春馬、悪いが表に出てくれ」

「ええ、本当に。はい、出てきますね」


 俺が準備をして、表に出て行くと……。


「はいっ! 可愛い女の子入ります!」

「あ、あの、違うんです……」


 ……はて? なんで、静香さんがいるのだろう?

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