第13話学校生活の始まり

 翌日、学校に行くと……。

 話したことない人が、こっそりと話しかけてくる。

 身長180超えのガタイのいい男子だ。


「おっす、篠崎」

「おう、おはよ」

「お前、昨日は助かったぜ」

「うん? 何かしたっけ?」

「中村さんを助けてくれただろ?」

「……まあ、うん」

「あのおかげで、俺も行かずに済んだわ。行ける奴だけが行ったらしい」

「ああ、そういうことね。うん、それが一番だよ」

「違いない……おっと、守谷翔吾っていうんだ、よろしくな」

「ああ、こちらこそ」


 それだけ言い、彼は去っていった。

 そして、いわゆるリア充グループの中に混じっていく。


(そうだよなぁ……彼らの中にだって、行きたくない人もいるだろうな。別に盛り上がることを悪いとは思わないけど、そうじゃない人もいるってことを考えて欲しいよなぁ)




 席に着くと、前にいるトシが話しかけてくる。


「おい、平気だったか?」

「うん?」

「守谷のやつになんか言われたのか?」

「いや、お礼を言われたよ。なんか、あの人も……行きたくなかったらしい」


 最後だけ、特に小声で伝える。


「へぇ……まあ、そういう俺も助かったしな。おっ、中村さん、おはよう」

「あっ、おはよう」

「二人とも、おはよう」


 席に戻ってきた彼女はクスリとも笑わず、静かに席に着く。


「相変わらずクールビューティなことだ」

「いや……まあ、そうかもね」


(そういえば、家ではよく微笑んでくれるなぁ……なんか、俺だけが知ってるみたいで嬉しいような……いやいや、あくまでも家族ってことだよな)




 そしてチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。


「よーし、三十人全員揃ってるな。さて、今日から授業が始まるが……二年のうちに勉強をしておくと後が楽だぞ? 遊ぶこと、バイトすること、部活をやることも素敵なことだ。しかし、今のうちから少しずつやっていくことをお勧めしておく。まあ、どう受け取るかはお前たちに任せるがな」


「どっちだよ!?」

「適当すぎない!?」


 生徒から野次が飛ぶ……その一方で。


「出たよ、放任主義」

「でも、あれくらいがちょうど良いよね」

「他の先生だと、もっときつい言い方するもん」


 去年から知っている生徒は、先生のことをある程度わかってる。


(一人一人の生徒をしっかり見ているけど、極力手を出さないようにしてる感じだよね。俺の時も、言うだけ言って……あとはお前の判断に任せるとか言われたし)





 今日は初めての授業の日なので、どの先生も大した勉強はしない。

 軽い自己紹介と、授業内容を確認したりするだけだ。

 そして、短縮授業でもあるので、あっという間に放課後を迎える。


「じゃあ、俺は部活行くわ」

「凄いよな、野球部。今年はどうなの?」

「まあ、三年がいなくなったからやりやすいよ。一年にも良いのが入ってきたし」


 そう言い、トシは教室を出て行く。


(見た目はオタクだし、趣味もそうだけど、完全に体育会系でもある。コミュ力もあるし、意外とハイスペックだよなぁ……俺には、特に何もないしね)


 俺には、人に自慢できるようなものがない。

 顔も平凡、運動も平凡、勉強は出来るがそれはやってるからだ。

 学校の授業を受けただけで、完璧に出来るような天才じゃない。

 毎日予習復習をして、ようやく学年トップクラスになれるくらいだ。

 何かでいいから……一度、一番を取ってみたいよなぁ。

 そうすれば……自信がつくと思うんだけど。




 その帰り道、俺は少しだけ本屋に寄って新刊を購入する。


 そして電車の待ち時間に読んでいると……。


「ん? 誰だろう? ……あっ——静香さんだ」


 俺は慌てて、スマホの通話ボタンを押す。


「も、もしもし?」

『もしもし? 兄さん、今どこ?』


(電話越しの声まで綺麗とか……耳触りのいい透き通るような声……)


『兄さん?』

「あっ、ごめんね。今、電車に乗るところ」

『そっか、今日のお昼はどうするの?』

「えっと……いつも通りなら、駅前で適当に食べるけど」

『ダメよ、それじゃ。せっかくバイトしてるんだから』

「い、いや、でも帰って作るのは面倒だし」

『私が用意するから、真っ直ぐに帰ってきて』

「は、はい」

『それじゃ』


 ぷつっと通話が切れる。


(有無も言わさぬ感じだったな……ありがたいけど、作ってもらってばかりじゃ悪いよなぁ)






 電車の中で考えた俺は、駅前であるものを購入して家に帰る。


「ただいまー」

「兄さん、お帰りなさい」


 リビングには、すでにエプロン姿の静香さんがいた。

 ちなみにセーラー服の上からである……素晴らしい。


「もうできるから、きちんと手洗いうがいしてきて」

「は、はいっ!」


(い、いかん! つい押し上げる胸元に視線が……うん? 学校で見るより、大きかったような……?)




 ひとまず疑問を置いといて、着替えてリビングに戻る。


「はい、どうぞ。簡単な物で悪いけど……」


 テーブルには焼きそばとお吸い物、漬け物が用意されている。


「いやいや! 全然すごいよっ!」

「そ、そう? ……食べましょう」


 二人で向かい合って……。


「「頂きます」」


 腹が減っていたので、急いで焼きそばを食べる。


「美味い! ぐっ……!」

「ちょ、ちょっと!? 早く水を飲んで!」


 喉に詰まったモノを、水で流し込む。


「あ、危なかった……」

「も、もう、心配かけないでよ」

「ごめん、つい美味しくてさ」

「別に全部市販のものだから手抜きよ?」

「それでも嬉しいし、美味しいよ。母親はまともに作ってくれる人じゃなかったからさ」

「……そうなのね」

「それに、誰かと食べるのって美味しいんだね」

「それは……わかるかも。私の父も、飲み歩いてばかりで家で食べることなんてなかったから。たまに食べても、文句ばかり言ってた」

「そっか……まあ、お互い苦労したね」

「ふふ、そうね。だから、私は兄さんが……」

「静香さん?」

「ううん、なんでもない。さあ、食べちゃいましょう」


(どういう意味だったのだろう? それと……やっぱり気になるなぁ……)


 俺はなるべく目線を向けないように、食事に集中するのだった。

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