第11話~静香視点~
助けてもらっちゃったな……篠崎君に。
私にはそんな資格もないし、そんなつもりもなかったのに。
つい、隣を見て……甘えてしまった。
きっと短い期間だけど、彼がとても優しく、程よい距離を置いてくれるから。
それに、意外と頼りになり……こんなんじゃいけないよね。
私はもっと役に立たないと、良い子でいないと……捨てられちゃうから。
「さて、この辺で良いか」
前を歩く吉野先生が、突然そう言います。
「えっ?」
(そういえば、篠崎君に言われるままに、ついてきたけど……)
「あれだろ? あいつと兄妹になったんだろ?」
「は、はい」
「安心しろ、誰かに言うつもりはない。知ってるのも、校長と教頭、学年主任と俺だけだ」
「あの……個人的に、篠崎君と知り合いなんですか?」
(去年も一緒だったけど、男子のことなんて目に入ってなかったから)
「そうだな……まあ、気になるなら聞いてみると良い。じゃあな、中村。もし相談があるなら、いつでも言うと良い」
そう言い、先生は去っていきます。
タイプではないけど、相変わらずカッコいい人だと思う。
女子たちに人気なのも理解できるかな。
家に帰ってきた私は、まだ篠崎君が帰ってないことを確認し……。
「やだなぁ……また大きくなってる」
(ブラのサイズをわざと小さめにしたり、色々工夫はしてるけど……。男子の視線が増えるから、嫌だし……それに女子達も、おっぱいまで大きいの!?とか聞いてきて……あんまり目立ちたくないのに。私は、もう……可哀想な目で見られたくない)
「もう、あんな目にはあいたくない。せっかく、知り合いのいない高校に入ったのに」
(前の父親が仕事をクビになって、私やお母さんに暴力を振るって……離婚した時、みんなの視線が変わった。それに異性にモテていたから、一部の女子からイジメられたり……だから、今の学校では異性と話さないようにしてるし、クールを装って男子を遠ざけたり……たまに、今日みたいなことがあるけど)
「あの人、女子に人気あるから断ると角が立っちゃうし……はぁ、嫌だなぁ」
(篠崎君が助けてくれて、本当に助かったなぁ。きちんとお礼しないと)
「それにしても……いい人だよね。私が振ったのに、変わらず接してくれて……」
私は、毎日つけている自分の日記を眺める。
「最初の日……彼は私の部屋の掃除や、お母さんの荷物整理も嫌な顔一つしないで手伝ってくれた」
(きちんと家族になろうとしてくれたってことだよね……私を異性として見ないようにしてくれてるし……たまに感じることはあるけど、嫌な感じはしない)
「それに、買い物だって……」
(一人で行こうと思ったけど、つい押し切られちゃって……ああいう言い方されたの初めてで……ああいうところは素敵だなって思う)
「料理も手伝ってくれたし……」
(ものすごく楽しくて、穏やかな時間だったと思う。適切な距離間で、接してくれて……何より、美味しいって言ってくれた。それが、こんなにも嬉しいなんて)
「次の日……朝ごはんを一緒に食べた」
(人と一緒に食事するなんて久しぶりで……美味しい美味しいって食べてくれて……父親は黙って食べて、美味しそうにしなかったから、なおさらのこと嬉しかった。やっぱり、きちんと言葉にしてくれると嬉しい)
「きちんと洗い物もしてくれたし……散歩に行くって時も、どこに行くとか聞かなくて……やっぱり、彼も母親と何かあったのかな?」
(だから、距離間というか……そういうのが心地よいのかも。こう、拒否してるわけじゃなくて……うん、線引きをしてくれるというか……)
「バイトを見に行って……」
(店の中を忙しく動いて、すごいなって思った。意外とガッチリしてて、着痩せするタイプなんだって思ったり……。働いてて偉いよね……私はバイトもしたことないし……どうしても、男性と話さないといけないから)
「それに……ううん、これは自分勝手が過ぎるよね」
(可愛らしい女の人と、仲よさそうに話してたなぁ……学校では女子とも話さないから、私だけ話すのかなとか思ったり……嫉妬? 酷いね、私って)
「どうしよう? ……好きなのかな?」
(自分から振っておいて、自分から家族になろうって提案しておいて……)
「そんな自分勝手が許されるわけがないよね……そんな人が一番嫌いだったのに」
でも……勝手に好きでいるぶんには許してくれるかな?
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