第10話クラス分け

 翌朝……眠い目をこすり、何とか起き上がる。


「ふぁ……あんまし寝れなかったなぁ。まあ、今日は始業式だけだから平気かな」


 リビングに行くと……。


「おはよう、兄さん」


 そこには、すでにセーラー服に着替えた彼女がいた。


(やばい……やっぱり、めちゃくちゃ可愛い。今日は長い髪をサイドテールにしてるし……)


「おはよ、静香さん」


「じゃあ、ご飯にするね」


 二人きりで、向かい合って食事をする。


「あのさ……やっぱり、悪いよ。毎日作ってもらうの」


 昨日バイトに行く前に少しだけ話し合った。

 都内で働く両方の親は、朝六時過ぎには家を出る。

 なので、二人だけで先に起きて朝ごはんを食べる。

 しかし俺たちの学校はここから近いので、親が出てから起きても間に合う。

 なので、毎朝の朝食を作ってくれると言ってくれたんだけど……。


「別に、大した手間じゃないから。自分の朝ご飯を作るついでよ。一人分を作るより楽だし、節約にもなるもの」


「そっか……しっかりしてるなぁ。良いお嫁さんになりそうだね」


「な、何を言ってるの?」


(あっ——つい本音が出てしまった)


「ご、ごめん! うん! この卵焼き美味しいね!」


「もう……でも、ありがとぅ」


 俺は恥ずかしく、彼女の顔を見ずにご飯をかきこむのだった。





 学校に行くのは、もちろん別々だ。

 いずれバレることもあるかもだけど、なるべくバレないに越したことはない。

 彼女が少し先に出て、俺は洗い物をしてから家を出る。



 自転車で駅に行き、そっから電車に乗り飯能方面に向かう。

 途中の駅で降りて、そっから十分ほど歩くと……。


「ふぅ……間に合ったか」


 アブナイアブナイ、電車で寝過ごすところだった。


「さて、俺のクラスはっと……まじか」


 俺のクラスには、静香さんの名前が……。


「まあ、三分の一だしなぁ」


「よっ、春馬!」


「トシか、今年は一緒だね」


「おう、よろしくな」


「それはこっちのセリフだよ。お前と違って、俺は友達が少ないんだ」


 鈴木俊哉すずきとしや、この学校では一番仲の良い男子だ。

 メガネ姿でオタクっぽい感じだが、そのコミュ力は相当高い。

 それこそ、俺みたいに端っこにいる奴や、クラスの中心人物とも仲良くなれる。


「別に、お前だって作ろうと思えば作れるだろ?」


「まあ……でも、めんどくさいし。学校内で揉めると色々面倒なことになるから」


「あぁー……中学の時、確かに面倒だったもんな」


 親が離婚したことで、友達だった奴らにも色々と言われた。

 だから、俺は最低限の付き合いだけをして過ごしてきた。

 そして、それでも残ってくれた人たちと友達を続けている。


「まあ、幸いこの学校には元中の人は少ないし……静かに過ごせれば良いかなって」


「まっ、それはお前の自由だわな。俺は変わらず絡むけど、勘弁してくれな。お前のところが休憩スポットなんだよ」


「誰が休憩スポットだ」


 俺と話してると、他の人は寄ってこないという意味だ。

 こいつはこいつで、付き合いで色々と苦労してるらしい。




 トシと連れだって、指定の教室に入る。


「おっ、俺とお前は今年は前と後ろだな。しかも、お前は窓際の一番後ろか」


「まあ、うちのはランダムだからなぁ……あら?」


「どうした? おっ、お前の隣中村さんじゃん」


(ドウシヨウ? 同じクラスだけでもあれなのに、隣の席とか)


「まあ、俺には関係ないよ」


「クールなこって。普通の男子なら舞い上がってるぜ。ドキドキしたりな」


(違う意味でドキドキしてるけどね……ひとまず、深呼吸……よし)


 俺が席に向かうと、一瞬だけ視線が合う。


、おはよう」


 「、おはよう」


 二人で意思を確かめ、何食わぬ顔で席に着く。


「中村さん、おはよう」


「鈴木君も、おはよう」


 会話はそれで終了。

 彼女はクール系美少女で、男子とはあまり話すことはない。

 いわゆる高嶺の花ってやつだ……俺、よく告白したな。

 我ながら、なんと無謀なことを……今更、怖くなってきた。




 そのまま、待っていると……。


「さて、全員揃ってるか? ……おし、席は埋まってるな」


「おっ、担任は噂の吉野先生か」


 吉野先生は年齢二十四歳の男性で、俺にバイトを紹介してくれた方だ。

 去年も担任で、一人ぼっちでいる俺を気にかけてくれた。

 最初はめんどいと思ったが、なんだが懐に入るのが上手い方で……。

 とあることを聞かされてからは、よく話すようになった。

 あと……名前に親近感が湧いからだ。


「どうやら、見知った顔がちらほらいるが……まあ、自己紹介をしておくか。吉野冬馬、年齢は二十四歳だ。担当教科は国語の先生で、お前達の担任になる。まあ、よろしくな」


「やったねっ! 先生かっこいいもん!」

「彼女いるんだっけ!?」

「綺麗な人といるのを見たって!」


 この通り、その男前な姿と性格から、女子に大人気である。


「はい、静かに。とりあえず、この席で一学期は過ごすからな。まあ、適当にやってくれ」


 めんどくさそうに言っているが、いざとなると頼りになる先生だ。

 俺も、一年時は相談に乗ってもらったからよく知ってる。





 その日は、体育館で校長のつまらない話を聞いて、すぐに解散となる。


 俺も、すぐに帰ろうするのだが……。


「なあなあ! クラス会しようぜ!」

「いいねっ! やろうやろう!」

「どこでする!? カラオケか!?」

「わたしは、駄弁ったりしたいかなぁー」


(まずいなぁ、盛り上がってる。今出て行くと目立つよなぁ。あんまり、得意じゃないから、さっさと帰りたいんだが……)


「あ、あのさ、中村さんもどうかな?」


 学年の中でも有名なイケメンで、サッカー部の橘が声をかけている。

 まあ、釣り合いは取れてるよね……間違い無く、俺よりは。


「いいえ、ごめんなさいね。少し用事があって……」


「な、何の用事?」


「ええ、まあ……」


「クラスの集まりだし、来た方がいいと思うよ?」


(おいおい、そこは大人しく退けよ。アンタほどの人なら、空気ぐらい読めるだろうに)


 隣で、俺がそんなことを考えていると……一瞬だけ、中村さんから視線を感じる。


(……困ってそうだなぁ……やるしかないか、妹だしね)


 俺は一瞬だけ、教室に残っている吉野先生に視線を向ける。

 その人が頷くのを確認して……。


「中村さん、先生が呼んでるんでしょ? 」


「なんだよ、お前……」


「クラスメイトだけど? ほら、先生を見てよ」


「なに……ほんとだ。そっか、悪かったね」


「いえ、わたしの方こそ。それじゃあ……」


 そう言い、先生のところにいき、教室を出て行く。


 俺もその隙をついて、さっさと教室から出て行く。


(さて、あの人に任せれば問題ないだろう)


 俺は一足先に帰ることにするのだった。

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