第9話バイト

 自転車の乗り、駅前から少し外れたラーメン屋に入る。


 ここが、俺のバイト先である『青龍』だ。


「店長、おはようございます」


「おっ、来たか。おはよう。悪いな、明日から学校だっていうのに」


(相変わらず、厳つい人だなぁ……いや、良い人なのは知ってるけど。身長は俺より10センチくらい高く、185以上あるし……重たいものを扱うから、腕回りとか半端ないし)


「いえ、こちらも助かってますから。じゃあ、着替えてきますね」


 ロッカーに荷物を置いて、専用の服に着替えて、バンダナをする。


(この店は個人店だから気楽で良いんだよなぁ。店長も厳しい人だけど、きちんと仕事すれば、暇な時は割と自由にしてても良いし)




 着替えたらタイムカードを押して、仕事開始だ。


「いらっしゃいませ、お客様は……では、こちらの席にお座りください」


 俺の仕事は主に、接客と簡単な調理補佐だ。

 席案内から、水をだし、オーダーを受け、提供する。

 もし手が空いてたら、ご飯をよそったり、餃子を焼いたりする。

 ごくたまにラーメン補助にも入る。

 このおかげで、俺は自分ちでもラーメンを美味しく作れるようになった。






 三時半になったら、一回休憩に入る。

 仕込みがあるので、五時までは一旦店を閉めることになっている。

 この店はカウンター席が6席と、2人掛けテーブルが三つ、4人掛けテーブルが二つだけだ。

 だから、基本的に三人か四人店を回している。


「ふぅ……二人だと、流石に疲れるなぁ」


 俺が店の裏で座っていると……。


「悪いな、春馬。中々、人が集まんなくてな。この間の三月で、就職組や受験組が一斉に辞めちまったからな」


「いえ、仕方ないですよ。それに……正直言って楽ですし」


(仕方ないことだけど、何人か苦手だった人もいたし)


「ハハッ! 相変わらず、人付き合いが苦手か? 別に人当たりは悪くないのにな」


「なんでしょうね? 小さい頃から鍵っ子ってやつで、一人で遊ぶことが多かったからですかね。別に友達と話すのも嫌いじゃないんですけど……まあ、そもそも友達が少ないです」


「まあ、別に愛想が悪くなきゃ良いさ。それに良いんだよ、友達は数より質だからな」


「そう言ってくれると助かりますね。どうも、クラスで騒いでる人たちとは仲良くなれそうにないです」


「きっと、大人びてるからだろうな……お前の境遇じゃ無理もないか」


「いや、本来の姿だと思います。静かなのが好きですし」


「の割には、こんなところでバイトか……いや、俺は助かってるが」


「まあ、賄いがタダですからね。あと、店長が良い人ですし。お客さんも、ファミレスと違って長居しないし、食ったら帰るって感じですし。たまに喋る時も、そんなに嫌な人も来ませんし」


「まあ、俺が嫌な客は出入り禁止にしてるからな。個人店ならではだが、俺はそのためにやったんだ……しかし、最初奴から紹介された時は、雇うか迷ったが……相変わらず良い目をしてる」


「はは……覇気が薄いって言われましたね」


 そう、この店はとある方から紹介された。

 信用している人なので、怖かったけど面接を受けることしたんだ。

 今では、とても感謝している。


「さてと……じゃあ、俺は仕込みに戻るか。春馬はどうする?」


「ここでのんびりしてますね」


「ああ、好きにしていい」


 俺はロッカーから文庫本を取り出し、のんびりと読んで過ごす。

 これが大体いつものスタイルだ。

 人によってはめんどくさいと思うかもしれないが、俺は割と気に入っている。






 そして五時になったらタイムカード押し、再びバイトに戻る。


 そして、六時半を迎えると……。


「おはようございまーす!」


 大学生の先輩である、渡辺清花わたなべさやかさんがやってくる。

 背が低く可愛いらしい容姿で、髪は茶髪で軽くウェーブしており、まさに今時の女子大生って感じだ。しかし意外と気配りができる人で、俺は割と付き合いやすい。


「おっ、来たか。じゃあ、ホールを頼む」


「オッケーです! 春馬君、おはよー」


「おはようございます」


「大変だねー、再婚したばかりなのに」


「じゃあ、先輩が出てくださいよ」


「あははー……少年よ、花の女子大生は忙しいのだよ」


「自分で言いますかね、それ……じゃあ、俺は洗い物と補佐に専念するので」


 いつものポジションに入り、仕事を黙々とこなす。

 次々と食器がやってくるので、ひたすら洗い……たまに餃子を焼き……。

 意外と、この時間は嫌いじゃない。

 無心になれるというか、時間が経つのが早く感じるからだ。



「あれー!? 春馬君! ご家族が来たよー」


「へっ? ……おいおい、何しに来たんだよ」


 視線の先には、親父と由美さん、静香さんまでいる。

 とりあえず置いておいて、手元だけは仕事に集中する。


(は、恥ずい……親父のやつ、今ままで来たことなんてないくせに……)




 ひとまず、忙しい時間を終えると……。


「春馬、ひとまず平気だ。一旦、挨拶してこい。俺も、あとで行く」


「あっ、はい、すみません」


 奥の四人掛けテーブルに行くと……。


「は、春馬……すまん」

「ごめんなさいね〜私が行きたいって言っちゃって」

「そうだったんですか……いえ、いつでも来てください。少し恥ずかしいけど」

「…………」


(うん? 静香さんが黙ってこっちを見てる?)


「どうかした?」

「う、ううん! ……なんでもない」

「あれよね、カッコいいわよね!」

「まあ……そうかも。しっかり働いてて、凄いと思う」

「へっ? あ、ありがとうございます」

「おいおい、何照れてんだよ」

「親父、うるさい。じゃあ、戻るから」


(……どうしよう、褒められるとふつうに嬉しいな)




 家族が帰った後も、バイトを続け……。


 高校生なので、十時前に上がりとなる。


「じゃあ、お疲れ様でした」


「ああ、気をつけてな。親子さんにもよろしく」


「ふふ〜可愛い妹ができたわねー?」


「勘弁してくださいよ……同い年ですし。それじゃあ」


 涼しい風を感じながら、家路を急ぐ。


(バイト後のこの感じ……嫌いじゃないなぁ。爽快感と充実感を感じる)





 そして、家に帰ると……。


「兄さん、お帰りなさい」

「あら〜お帰りなさい」

「おっ、帰ったか」

「うん、ただいま……まったく、くるなら言ってよ」

「はは、すまんな」

「ふふ、美味しかったわ」

「でも、兄さんも悪いわよ? 夕飯を食べないなんて聞いてなかったから」

「あっ——確かに。ごめん、そうだったね」


(いつもは親父しかいないからすっかり忘れてたなぁ。これからは連絡しないと)





 その後、寝る前に……。


「兄さん、平気?」

「あ、ああ、平気だよ」


 ドアを開け、静香さんが入ってくる。


「兄さんはラインやってる?」

「いや、やってないな。クラスのやつも入ってないし」

「あっ、それは私も入ってないから平気よ。でも、智さんもお母さんもやってないし……私と兄さんのライングループを作ってもいい?」

「……ああ、良いけど」

「じゃあ、そういうことで。明日帰ってきたらで」


 そう言い、彼女は去っていった……。


(何か嬉しそうだった……? いや、気のせいか。というか、二人だけのライングループって……いやいや、家族としてだから!)


 明日学校だというのに、結局モヤモヤして寝付けないのであった。

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