悪友、そして義姉
はい、どうもこんにちは御坂玲です。
困った義姉をお姫様抱っこした後、僕達はたわいのない会話をして無事に学校に到着しました。
ミラねぇをお姫様抱っこした時は周囲の視線もあってかなり恥ずかしかったけど、今日は神楽坂さんとお話ができたので甘んじて受け入れます。
だって、神楽坂さんとはクラスも違えば部活だって違う。
神楽坂さんは手芸部で、僕は帰宅部————僕も手芸部に入ろうかな?
本当に、神楽坂さんとはお隣さんっていうだけの関係で、ばったり出くわしたら一緒に登校するぐらいの仲でしかない……い、今はまだって感じだけどねっ!
友達からって感じで友達だったらもっとよかったんだけど、生憎と僕の友達は—―――
「ん? 遅かったじゃねぇか?」
「ブサイク」
「あ”?」
この、出会って早々に胸倉を掴み上げてくるブサイクなんだよなぁ。
「まったく……朝から僕に喧嘩を売って来るなんて、いい度胸してるじゃないか」
僕は憮然と、胸倉を掴み上げてくる男を見据える。
目つきが鋭く、いかつく、それでいてほんの少しだけ僕よりも体格のいい少年。
胸倉を掴んできたり、朝から僕の席を占領したり、ブサイク面を見せてきたり……本当に失礼なやつなんだ。
名前は
「ほう? いい度胸って、よく言えたもんだ」
「なめないでよね。悠は確かに運動してて筋肉があって力が強いかもしれないけど……僕だって、悠に負けないくらい力強いんだ」
学校帰りに重たいスーパーの袋を抱えたり、洗濯籠を運んだり――――日々筋トレは欠かしていない。
今日だって、ミラねぇをお姫様抱っこできてしまったしね。
「その割には、筋肉が震えているぞ?」
……いけない、ミラねぇを抱えた時の弊害が。
「お前が俺に勝てるわけねぇだろうが。ちいせぇ見栄を張んじゃねぇよ」
「きょ、今日はたまたまこの自慢の腕力を使っただけさ!」
「朝から使っただけで震える筋肉なんてしょうもないわ」
言うな。それ以上は何も言うんじゃない。
僕の男らしさが一気に皆無になってくるじゃないか。
「大方、どうせお前の姉貴の無茶ぶりで疲弊したんだろ?」
僕の胸倉から手を放し、悠は小さくため息を吐いて僕の椅子に座った。
……僕の椅子なのに。ぐすん。
まぁ、いいや。僕は隣の席に――――あ、ごめんなさい。別の場所に行きます。
「よく分かったね」
「よく分かったも何も、お前の姉貴のことは嫌でも分かる……うちのクラスによく来てるからなぁ」
そうだね、ミラねぇがいつも僕の教室にやって来るから悠もミラねぇとは親しくなって……ミラねぇの性格も理解し始めたもんね。
奇行の原因が誰にあるかってことぐらい察してくれるだろう。
「……うちの義姉がごめんね」
「気にすんな。お前の姉貴が来ればうちの連中はテンション上がるからな」
「あー、ミラねぇに色目向けてる連中だよね。ほんと、馬鹿ばっかりだよ」
いつもミラねぇが来る度に騒いでくるクラスメイト達。
ミラねぇはそこら辺を歩くだけで男子なら振り向いてしまうような美少女だ……そんな女性が現れれば注目してしまい、下卑た視線を向けてしまう。
……仕方ない。いつかはケリをつけなきゃいけなかったんだ。
この機を境に僕が引導を—―――
「待て、玲。その握りしめた拳を持ってどこに行くつもりだ?」
「僕のミラねぇに色目を向ける連中を土に返そうかと」
「お前は姉貴が好きなのか嫌いなのかどっちか分からんな」
異性としては好きじゃないけど、そういう輩がそういう目を向けるのは家族として気に入らないんだ。
輩は早急に始末しておかないと。
「いいかい、悠? 僕は家族としてミラねぇの身を守ろうとしているんだ。過ごした時間は短いけど、ミラねぇは僕の大切な人なんだよ。守るのは当然、それが家族として――――」
「お姉ちゃん、嬉しいっ!」
「そう、家族として当たり前なんだ!!!」
声高らかに宣言する!
絶対に……勘違いされないようにっ!!!
「ミラシスさん、おはようございます」
「うん、九条くんおはよぉ~!」
何故か、教室に現れた声と僕の背中にのしかかる重さと柔らかさ。
そして、突然聞こえてくる「ま、また来たぞ!」「相変わらず綺麗だ……」「きょ、今日こそは僕と交際を……ぐへっ」という有象無象(※クラスメイト)の声。
僕がいつか処すべき相手が明確に定まった瞬間である。
「……また来たの、ミラねぇ? 朝のホームルーム始まっちゃうよ?」
「だって……玲くんと会えなくて寂しかったんだもん」
「さっきまで一緒に登校していましたが、何か?」
ご丁寧にお姫様抱っこして登校してましたが……あなたはそれでも物足りないので?
「いつも思うけど……うちに来て大丈夫なの? ミラねぇの友達とかと話しなくてもいいの?」
「私は玲くんとお話ししていたいの」
「真顔で言うのやめて?」
愛が重いってばよ。
「相変わらずですね、ミラシスさん」
「相変わらず過ぎて涙が出てくるけどね」
現在進行形で僕の頭を抱えながら撫でてくるこの義姉は家にいる時と変わらないぐらいの平常運伝だ。
少しは時と場所を弁えてほしい。
「……私はね、玲くんが大好きだから常に一緒にいたいんだよ」
「だから真顔で言うのやめて」
「liebe」
「言語を変えろって言ったわけじゃないからね!?」
意味も理解できないから余計にね!
「今のは『大好きだ』って言ったぞ、玲?」
「僕の周囲はドイツ語を理解できる人が多すぎて不思議だよ」
理解不能だよ。そして聞きたくなかった。
最近はドイツ語の意味を理解したくないと思い始めているよ。
「まぁ、ミラシスさんもゆっくりしていってください。玲は友達いないんでホームルームの間はフリーですから」
「おっけ~♪」
「待って、僕は友達がいないわけじゃないし裏切ったな!?」
とりあえず、毎朝の恒例となりつつあるミラねぇ襲撃事件。
今日もまた、ホームルームが始まるまでずっとミラねぇに撫で回されることになったとさ。
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