登校……ではなく、お姫様抱っこ

※申し訳ございません💦

前話予約投稿時間間違えてましたm(_ _)m


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 神楽坂さんとは、中学の時からずっと一緒の学校に通っていた。

 まぁ、お隣さんだし当然だよね。中学は一緒に決まってる。それに、高校は神楽坂さんが今通ってるところの試験を受けるって聞いたから僕もここに決めたわけだし。


 好きになった理由は……どうだったかな? 明確なきっかけ————あったなぁ。

 それからだよね、神楽坂さんを意識しちゃって徐々に好きになっちゃったのって。


「ねぇねぇ、玲くん?」


 おっと、現実逃避が思わず神楽坂さんの話になっちゃった。

 神楽坂さんが一緒にいるのに気をつけなきゃ。変に意識しすぎて引かれたら困るからね。


 ――――というわけで、僕達は三人揃って一緒に登校しています。

 隣には神楽坂さん、ミラねぇ。二人の美少女っぷりが凄いからか、歩く度に周囲の視線が突き刺さってしまう。

 これぞ両手に花! 片方爆弾! おーいぇー!

 同じ学園だから、「じゃあ、僕こっちだから!」戦法が使えない、恨めしい。爆弾処理に困る。


「どうしたの、ミラねぇ?」


「もうちょっとお姉ちゃんにくっついてほしいなぁ~って」


「これ以上の接近方法があるなら教えてほしい」


 ミラねぇ、現在隣を歩いてはいるけど僕の腕を抱きしめるように歩いています。

 通学路、往来、行き交う人々、隣には神楽坂さん————がいるにもかかわらずふてぇお嬢さんだ。


「Zum Beispiel eine Prinzessin!」


「ノット・ドイニーズ。プリーズ・ジャパニーズ」


「例えばお姫様抱っことか!」


「往来で義弟に何をさせる気?」


 いるなら教えてほしい――――お姫様抱っこで登校する学生がどこにいるのか。


 僕はため息を吐きながら、暴走し始めているミラねぇに否定の言葉を口にする。

 だって、往来でお姫様抱っこ何てできるわけないし……ここは普通に嘘でもついて諦めてもらおう。


 これ以上、同じような言葉を口にさせるわけにはいけないからね。


「はぁ……あのね、ミラねぇ? 僕はこれでもか弱い男の子なんだ。僕だってしてあげたいけど、残念ながら筋力が————」


「お姫様……抱っこ、ですか?」


「ハッ!?」


 僕は慌てて横を向く。

 そこには、僕達の姿を見ながら首を傾げている神楽坂さんの姿。


(しまった!? ここで僕がか弱い男だと口にしてしまえば神楽坂さんの評価を下げてしまう可能性が……っ!?)


 女の子はお姫様抱っこに憧れを抱いていると聞く(※少女漫画参照)。

 であれば、もしかしなくてもこの『?』マークは「えー、御坂くんって女の子一人も抱えられないような軟弱男なの?」という『?』かもしれない。


 もし、僕がここでか弱い男だと口にしてしまえば――――神楽坂さんを落胆させてしまう。

 そうなれば……僕の恋が成就する可能性がかなり低くなってしまうじゃないか!


「————有り余っていてね! 女の子一人抱えるの何て楽勝さ!」


 だから僕は咄嗟に否定の言葉を否定した。

 男の子だもん、好きな女の子の前では見栄を張りたい生き物なんだ。


 でも、これで僕は軟弱者ではなく男らしい逞しい人間として、神楽坂さんの好感度が上がったはず――――


「お姫様抱っこ、とは何でしょうか?」


「Damn it!!!」


 まさか、『?』がお姫様抱っこを知らない『?』だったなんて……っ!

 これじゃあ、僕が見栄を張った意味がなくなっちゃうじゃないか! で、でも……そういうことも知らない神楽坂さん……可愛いから許す!

 っていうか、知らないんだ。少女漫画見てないの? 面白いのに。今度貸すよ?


「やったー! 玲くんがお姉ちゃんをお姫様抱っこしてくれる~!」


 ……しまった。


「い、いや……別にするとは一言も――――」


「でも、筋力が有り余ってるって言ったよね?」


 大見栄を張った手前……断り切れないっ!


「今から御坂さんがお姫様抱っこ……というものを見せていただけるのでしょうか?」


「うん! そうだよ!」


「それは……是非とも興味深いですね」


 どうしよう……どんどん引き返せない状況になっている気がする。


「もしよろしければ……御坂さん、私にお姫様抱っこを教えていただけませんか?」


「うっ……!」


 横を歩いている神楽坂さんが琥珀色の双眸をキラキラと向けている。

 何て断り難い瞳なんだ……! これじゃあ――――


「いいでしょう! 僕が神楽坂さんにお姫様抱っこがどういうものか教えてあげます!」


「あ、ありがとうございます、御坂さんっ!」


 願うことなら、お姫様抱っこは神楽坂さんにしてあげたかった。

 それなら、甘んじて往来での視線や羞恥と腕力に鞭を振るうことを受け入れるのに。

 だけど、残念ながら僕がしなければいけない相手は—―――


「ich hab es gemacht!!!」


 喜びのあまりドイツ語が思わず口から出てしまった義姉なんだよなぁ……。

 いや、まぁ……ね? ミラねぇ、可愛いから嫌悪はないけど—―――お姫様抱っこを好きな人の前でやらせるってどうなのかな?


 ……というより、何て言ったの?


「『やったね!』だそうですよ、御坂さん」


 僕は通訳がいてくれたことに感謝すればいいのか、それともドイツ語を理解できる神楽坂さんに驚けばいいのか分からない。


「じゃあ、玲くん――――お願いねっ!」


 そう言って、ミラねぇは僕に向かって両手を広げて迎え入れる準備をしてきた。

 ……筋力は問題ない、と思う。頑張ればいけるんじゃないかなぁ?


 だけど……僕はこれから、ミラねぇの体を抱かなければいけないのか。

 ミラねぇとの接触はいつも食らっているけど、それが慣れていると言えば否。

 特に、今回は足も一緒に抱えなければいけないわけで―――—女の子は学生服はスカートだから、必然的に布地に守られていない足を触ることになる。


 何て……何て勇気のいる行為なんだろうか!


「じゃあ、行くよミラねぇ!」


「うん! その前に人前だから伸ばしちゃってる鼻の下は直した方がいいよ?」


 断じて鼻の下を伸ばしていないと誓おう。

 だけど、神楽坂さんの前だし……念のため「何をしてるんですか!?」頬を殴って直しておこう。


「こ、今度こそいくね……」


「うんっ!」


 頬が腫れた僕の心配する神楽坂さんを他所に、僕は覚悟を決めミラねぇの体に手を伸ばす。

 まずはミラねぇの柔らかくむちっとした太股に手を伸ばし、次にブラのホックの感触を確かめるように背中へと添える。

 そして、そのまま一気に持ち上げる—―――


「わ、わわっ……」


 持ち上げられたミラねぇが驚きの声を上げる。

 僕が持ち上げられないとでも思ったのだろうか? 心外だなぁ……初めこそか弱い軟弱って口にしていたけど、僕だって女の子一人持ち上げられるくらいの筋肉はあるさ。


「……玲くんの体がプルプルしてる」


 そう、かろうじて持ち上げるぐらいの筋肉はあるさ。


「こ、これがお姫様抱っこなんですね……勉強になります」


「そ、それはよかったです……っ!」


 僕は必死に上を向きながら答える。

 満天の青空だ……春だからか、小鳥の囀りや周囲のざわついた声が春風に乗ってやって来る。

 こんな青空であれば、いつまでも上を向いていたいなぁ……全神経を上に集中して


「あはは……意外と恥ずかしいね、これ」


 だって、下を向いてしまえば……いつもなら見せない表情のミラねぇの姿があるんだから。


 頬を朱に染め、視線を彷徨わせながら大人しく可愛らしい声を上げてくる。

 いつもなら「玲く~ん!」って言いながら平気で抱き着いてくるのに……今は恥ずかしがっている。


 整いすぎた美貌と相まって、そのギャップは破壊力抜群。

 恋する男を平気で殺しにかかってきている。

 それに加え、ミラねぇの体がいつも以上に接触して――――


「凄いですね……これはできないものです」


 含みのある言い方。

 それを否定したかったけど—―――今の僕は全神経を広がる青空に集中させていたため反応することができなかった。


 1歩でもミラねぇに意識を向けちゃえば……戻って来れなくなりそうだから。

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