エピローグ
第34話 エピローグ
朝五時三十分。真っ青な空。雲一つない快晴。
港南中央駅発の下り始発列車がホームに止まっていた。
車両内には誰もいない。四人掛けの席に瑠璃と俺の二人きり。共に大きなキャリーバッグを脇に置いている。
「本当にこれでいいのか?」
俺が何度か投げかけた疑問を口にする。
「はい。私も悪の組織の悪の魔法少女だった女です。隠れ場所、アジトの一つや二つ持ってます。そこに隠れながら沙夜ちゃんと連絡を取りつつ正義と悪の来襲に備え……でいいと思います」
目の前に座っている瑠璃の抑揚に迷いはない。
「なあ。お前が悪の組織をトンズラする必要はなかったんじゃないのか? 追われるだろ? 俺が素直に悪の魔法少女の仲間になれば良かったんじゃないのか?」
瑠璃が微笑を見せてくれた。
「貴方は正義の組織に追われることになります。これだけの事を貴方にさせたんです。貴方だけに背負わせるつもりはありません」
「まあ、それに関しての不満はないが」
と――少し間をおいてから、瑠璃が嬉しくてでも少し気恥ずかしくてという面持ちを見せた。
「もう少し私のこと、信用してください。貴方と私は……もう他人ではなくて男と女の関係なのですから」
瑠璃がぽっとその頬を染めた。
「ちょっとまってくれ! 誤解されるような言い方はやめてくれ、って誰も聞いてないんだが。まだ俺とお前は何もしてないだろ」
「これから思う存分します。たぶん時間だけは沢山ありますので」
「それが一番不安だ。変な怪しいプレイで虐められそうで……」
「大丈夫です。私、こう見えても尽くすタイプですから」
「全く見えん!」
俺は言い放ったが、表情と心に曇りはない。
瑠璃がいきなり顔を近づけてきた。
ん? と思っていると、瑠璃が「私の嬲り相手の優しい旦那様」と柔らかに声にして、俺の頬にその綺麗な唇をそっと触れさせたのだった。
ホームには、始発電車が去ってゆくのを見送る沙夜とクロぼうがいた。
「めでたしめでたし、ですね。骨を折ったかいがありました。お兄ちゃんが優しい人と一緒になれて私は幸せです」
沙夜は満面、満足の微笑みを浮かべている。
クロぼうがマイルド顔を変えることなく口にしてきた。
「ヒーロー協会に報告して追手を差し向けなきゃね」
ふふんといつものアルカイック顔。が、沙夜がそれを押しとどめる。
「ヒーロー協会の事は私なりに調査中です。クロぼうさんがお兄ちゃんに不利な報告をしたら、私、クロぼうさんにセクハラされたと泣いて訴えます。ヒーロー協会も悪の組織も、最近はハラスメントにはとても厳しいようですから」
事実と覚悟を、淡々と述べる沙夜。クロぼうはふふんと鼻をならす。
「沙耶ちゃん。最後まで頑張るね」
「お兄ちゃんの為ですから、頑張ります。これからが正念場です。諸々、正義の組織に対する根回しから始めなくてはなりません。クロぼうさん、手伝ってくれますね?」
「なんでボクがそんなことしなくちゃならないの、沙夜ちゃん? ボクのメリット、なにがあるの?」
「メリットはありませんが、デメリットを避けるという理由はあります」
「……?」
「セクハラ――冤罪ですが――で吊し上げられるのは誰しも嫌なものです。私はお兄ちゃんと瑠璃さんの為なら、悪魔にもなりましょう」
「………………」
クロぼうが「むー」と黙り込んだ。
沙夜がにっこりとして、「めでたしめでたし、です」と場を締めたのだった。
了
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お付き合いありがとうございましたm(_ _)m。
悪の魔法少女が変身ヒーローの俺を熱く勧誘してくる 月白由紀人 @yukito_tukishiro
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