第26話 瑠璃と男女のレッスン その2
「そうだわ! いっその事、口づけとかしてみましょう! そうすればもっとこの気持ちの正体とか、私自身の事がわかるかもしれません!」
「それダメっ! 女子生徒としてっ! いきなり『口づけ』とか飛ばし過ぎですっ!」
「でもお弁当では間接キスはしました!」
先輩、ちょっと地というか、隠している裏の痴女っ子性癖出てませんか? と喉元まで出かかったがなんとか堪えた。
あからさますぎるでしょ。ホントに変な奴に引っかからなければいいのだが、と本気で心配するレベルだ。
すると、瑠璃が俺の心中を読んだかの如くむっとした表情を見せる。
「如月さん。失礼なこと、考えていませんか。確かに一人の女生徒としては飛ばし過ぎかもしれませんが……。私にも人並みの理性、貞淑さはあります。こんなことを言うのは……」
瑠璃が顔を下に向けてから伏し目がちに言い切ってきた。
「相手が『貴方』だからです」
言い終わってから顔の中に灯りが点いた様に表情を染める。
「もう知りません!」
ぷいっと明後日の方向を向いてしまった。
うわっ。すげー可愛い。俺のハートを直撃してきた。
ラピスバージョンの女王様嬲りを受けていなければ、間違いなく恋に落ちている自信がある。つーか、裏バージョンを知っていても惚れそうなくらいだ。
キスしてー。物凄く先輩とキスしたくなってきた。
「……ちょっとだけ、試しに少しだけ格好だけでもしてみます、か?」
口に出してしまった。
「もうしません! チャンスは一度きりです! 如月さんが拒否するのが悪いんです!」
瑠璃は完全に拗ねてしまった。俺もなんとかとりなそうとしたが、顔をこちらに向けてくれない。
「清一郎さんが虐めるからです! 本当は物凄く勇気を振り絞って、とても恥ずかしかったんです! 清一郎さんが全部悪いんですよ!」
ちなみに俺は『如月さん』から『清一郎さん』に昇格している。
「先輩……。すいません。先輩の事、ちょっと侮ってたかもしれません」
俺は素直に謝った。
「駄目です! 先輩では許しません! 瑠璃って呼んでください!」
怒った感情のままに要求してきた。女性の機微を推し量らなかったのは悪かったと思っているのだが、要求は厳しい。逆らえそうにない。
「瑠璃……さん……」
「違います! 『瑠璃』です!」
ちょっと取り付く暇がない。すごい剣幕だ。俺はおずおずと呼んでみた。
「瑠璃……」
「はい。もう一度」
「瑠璃」
「よろしいです。これからは私の事、瑠璃って呼んでください。私も如月さんの事、清一郎さんとお呼びいたします」
え? いきなりなの?
これ、本丸に突入許してない?
まあ、瑠璃先輩の事は隠れ仕事があったとしても嫌いじゃないし、呼び方も互いに猫被った他人行儀なのはもうまどろっこしいという気持ちはあって、正直悪い気もしないので。
「呼び方は瑠璃……がいいのならいいんですが、瑠璃……は俺と恋人みたいな呼び方でいいんすか?」
聞いてみると、瑠璃はぷんすかと鼻を鳴らしながらも、いいんですとはっきりと答えてきた。
「誰にでも親しい呼び方をするわけじゃありません。あと、清一郎さん、私への敬語禁止です」
「瑠璃、は、俺に敬語使ってるじゃないですか?」
「私の話し方は、これが地です」
瑠璃が真っ直ぐにこちらを見つめてきた。俺の返答を待っている、期待している様子。
俺もじっと瑠璃のその真面目な視線を見返して、瑠璃の心中を推し量る。
その真剣なまなこに、俺は誤魔化す必要はないと率直に感じた。
「わかった。瑠璃」
短く答えた。すると、ふわっと瑠璃の相貌が緩んだ。目尻が下がって頬が緩む。口元がほころぶ。
「よろしいです。合格です、清一郎さん。流石に私が選んだ方だけあります。自画自賛ですが」
嬉しそうな、本当に幸せそうな顔をしたので、俺まで心が弾んでくる。
「いや、俺、心の中では今までも瑠璃の事呼び捨てにしてたから違和感はないんだが……」
「私も清一郎さんと心中で呼んでいました」
ニッコリと微笑む。強力な笑み。心臓を鷲掴みにされる。
そんな俺たちの様子をずっと今まで見つめていた沙夜が声を挟んできた。
「一件落着ですね。もう、お二人共、恋人同士でよいと思います」
「そこまではいってない。とても親しくはなったとは思うが」
俺の最後の抵抗線。俺が同意しなかったことで、瑠璃が拗ねるか怒るか落ち込むかするかともおもったが、沙夜といつもの通り互いに顔を見合わせる。
「沙夜さんには私と清一郎さんは恋人同士の様に見えますか?」
「そうですね。男性女性として色々な事を経験している他人ではない間柄にみえてしまいます。お兄ちゃんはもっとお義姉さんに対する自分の気持ちに素直になってください。もう観念して無駄な抵抗をすることはないと思います」
ふふっと、二人視線を合わせて笑みを交わす。
知らず知らずのうちに挟撃されつつあった。
前門の虎後門の狼、ってこういうのを言うのだろうか?
沙夜が手強いのは知っているのだが、瑠璃もなかなかしたたかだ。
沙夜は瑠璃の正体を知っている上での言動だし、瑠璃はその正体を隠しての行動でもある。
いや、JKバージョンの瑠璃の事は嫌いじゃないんだ、本当に。でもラピスバージョンのヘンタイ痴女の性癖を受け止められるかというと未だに自信はないし、戸惑いを消し去ることもできない。
俺、どうすればいいの? と今日も悶えながら、俺の心中に関係なく沙夜と瑠璃の和気あいあいとした時間が過ぎてゆくのであった。
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