第22話 沙夜ちゃんと一緒に部活動
五時間目と六時間目。
教室で懊悩しているといつの間にか授業が終わって放課後になってしまった。
終齢のチャイムが鳴って教師が出てゆくとクラスが途端に騒がしくなる。
一目散に帰る男子生徒や、集まっておしゃべりを始めるギャル系女子達。
俺も気が乗らない重い足取りで教室を出て、校舎隅っこの部室に向かってゆっくりと歩み出す。
放課後は部活の時間だ。
吉野先生に瑠璃先輩との仲を半ば強制的に勧められて、外壁を壊された。
さらに加えて沙夜が乗り込んできて、先輩の正体を看破して内壁まで壊された。
表面上は瑠璃先輩に合わせてどうという事もなく活動するという方針に、重大な欠陥が生じつつある。
どうすればいいのかわからない。
吉野先生も沙夜も、俺と瑠璃先輩の仲を取り持とうとして、瑠璃先輩もまんざらでもない様子なんだが、大きな問題が一つ抜け落ちている。
瑠璃先輩は変態痴女っ娘悪の魔法少女ラピスで、俺は金の為に渋々やっているとはいえ、正義の変身ヒーローホワイトスーツマスクなのだ。
今まで何度となく街中や往来で対峙して、そのラピスの変態性癖の餌食になりかけているのだ。
俺はラピスの正体を知っている。その上で煩悶している。
瑠璃先輩はどうなのだろう?
当然俺の正体は知らない。知ったらどう反応するか興味はある。
俺が悪落ちしてラピスを受け入れればいいのだろうか?
確かにラピス、瑠璃先輩は、根っこの部分は優しくて人想いで、外見で俺を差別したりしない別格の美少女だ。俺にはもったいないくらいの女性。だが何故だかその性癖を拗らせていて、エロコスチュームで俺を嬲るのが大好きな興奮冷めやらぬ少女でもある。
俺はそのラピスを受け止められるだろうか?
自信はない。全くない。それに正義の組織は裏切りを許さないらしい(クロぼう曰く)。給金をはく奪され地の果てまで追われるらしい。
俺が反逆者になったら沙夜はどうなるのだろうという思考が重くのしかかっている。以前に、国家とか警察は助けてくれないよ! とまん丸ネコ顔で脅された事がある。
ならばラピスが正義に目覚めてくれればよいのかもしれない。
だが部活動等を見ていると、ラピス、瑠璃先輩の拗らせ性癖と信念は筋金入りにも見えてしまう。アレを一般人の考えている倫理道徳に無理やりはめ込むのは、余計なお世話というか、嫌がらせ、ハラスメント、もっと言えば拷問の様な気がしてならない。ラピスが所属している悪の組織の拘束等も問題になるかもしれない。
むぅと唸りながら歩を進めていると、いつの間にか部室前にまで来てしまっていた。
吉野先生と沙夜が、余計な事を言って俺と瑠璃先輩の仲を取り持とうとしたせいで、瑠璃先輩に顔を合わせづらい。何と言ってよいのかわからない。
昨日まで、ラピス変身時ではない先輩時の瑠璃とは普通に楽しく会話できていたのが、途端にぎこちなく思えてしまって。
というか、俺、すごく意識している?
ええい! ままよ! と瑠璃に対する姿勢を決めないままに部室の扉を滑らせる。
「ちわーす」
と半ば自棄になりながら足を踏み入れると、部屋の真ん中、椅子二つに座っている瑠璃と沙夜の姿が視界に飛び込んできた。
対面に座っている高等部の令嬢と、中等部の美少女(いや、妹だけど)。
流れる様なサラサラロングの黒髪お嬢様と、セミロングの良く似合った清楚な女の子。
仲の良い姉妹の様。二人共とても品がよくて、どこか別の空間に迷い込んだような錯覚に陥ってしまった。
あれ、俺いつの間にお貴族様の居間に迷い込んだの? とか思ってしまう。
すると沙夜がこちらに気付いた様子を見せた。
顔をこちらに向け、柔らかく微笑む。続けて瑠璃もこっちを見やって頬を和らげる。
うわっ。瑠璃一人でも威力があるのに、二人掛かりで俺を篭絡しようとアタックをかけてきた。どうすんだ、これ? 俺、もう降伏していい? と半ば本気で思ってしまって。
ちょっとだけ放心状態だった俺に、沙夜が言葉をかけてきた。
「お兄ちゃん。お義姉さんとは色々話して、より仲良くなれました。このあと部活動ですけれど、みんなでご一緒しましょう」
目尻を下げて口元に微笑を浮かべる。
「沙夜さんはとても優しい方です。沙夜さんといつも一緒にいる如月さんが、正直羨ましいです。私はいつも、家でも独りなので……」
先輩の少し寂しいという表情は引っかかったが、俺は他の事が気になって聞いてみた。
「沙夜と何話したんすか?」
「秘密です」
「沙夜?」
「女性同士の秘密です」
二人して目を合わせ、今度はニッコリと笑みを交わす。傍から見ていると微笑ましい光景なのだが、俺は当事者なのでそうも言ってられない。
「俺の事、何か……話した?」
恐る恐る聞いてみる。
「「秘密です」」
二人してハモって再び笑みを交差させる。
うわ、女ってこえーよ。思わず心の中で声を発してしまった。
クラスの陽キャのギャル軍団は鬱陶しくてある意味怖くもあるのだが、それとは別の違った意味での凄みが二人にはある。
ちょっと、とても俺には対抗できそうにない。
そんな俺の前で二人がたおやかな仕草で立ち上がる。
「行きましょう、お兄ちゃん。社会環境改善部の活動です」
沙夜の期待に満ち溢れた抑揚。
沙夜は『あの活動』を知ってはいるらしいのだが、実際に知っているのと行うのでは雲泥の差がある。
沙夜が高等部の生徒連中に邪険にされてダメージを受けなければよいのだがと思いつつ、沙夜と瑠璃先輩に従って高等部の昇降口にまで移動したのだった。
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